便利屋くんと罰ゲーム

ふゆきまゆ

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物事は選択の繰り返しだというのは分かってる。

「高根順くん、好きです!俺と付き合ってください!」

だけど、どちらも同じ結果になる時はとうしたらいいんだろう。



突然だが、俺は「告白された回数」でいうとかなりの数だという自信がある。男子からも女子からもかなりの数だと思う。だけど何もみんなから羨ましがられるようなものじゃない。むしろ全くの逆と言っていい。
そう、俺はやたらと「告白罰ゲーム」の対象にされるのだ。おかげで通算50回を越えたあたりから数えるのをやめた。
今目の前にいるキラキラグループの頂点、雪路未散くんで一体何回目なんだろう。

「そ、それで……高根くん。返事は……。」

もちろんキラキライケメンな雪路君が俺に本気で告白する可能性はゼロだ。少数点以下ももちろんゼロだ。だから答えはNO一択に決まっている。
本当ならすぐに拒否したいが、そうは問屋が許さないのが「告白罰ゲーム」だ。
仮にNOだと言ったとしよう。そうすると目の前のイケメンはどうなるか。
当たり前だが怒りだします。

『お前ごときが俺を断るんじゃねーよ!陰キャの癖にナマイキなんだよ!』

これです。どんなに丁寧に言ってもこう怒ります。こちらにだって拒否権はあるはずなのに、何故怒られなければならないのでしょうか。自分の嘘告白は棚に上げておいて。俺様が告白すれば断られないと思っているんですかね。自意識過剰ですよね。

『つーかさー、遊びだよ、遊び。マジでお前に告る訳ねーじゃーん!ちょっとはこういうのにノリ良くねーと生きてけねーよ?これだから陰キャはさー。』

挙句謎の説教をかまし始めてきます。別にこっちはノリ良くなくてもいいし、陽キャになりたい訳でもないのに、自分が正しいみたいに言ってもダラダラと訳分からん説教を垂れ流してくるのです。
別に告白罰ゲームのルールなんて知らん。

じゃあその場だけでも「YES」って言っちゃわない?向こうもどうせ遊びなんだからすぐ種明かしして終了でしょ?そう思ったそこのあなた、とっても甘い。
では「YES」と言ってみましょう。

『えっマジで!マジで告られたと思ってん?ウケる。爆笑。お前みたいなのにマジで告る奴いる訳ねーじゃーん!』

大爆笑します。
それならいいじゃんと思いますか?

『マジで自意識過剰ー、きもーい。ゲームだって分からない訳?マジヤバイ。まじキモいんだけど。不快すぎる。」

こちらは嘘告白だって瞬時に見抜いて、あえてノリ良く対処しようとしただけなのに、何故か向こうから自意識過剰扱いされて馬鹿にしてこちらが大恥をかくはめになるのです。まるでこちらがハラスメントをしたかのように責め出してきて最悪こちらも怒ります。
結論、YESを選ぼうがNOを選ぼうがただ嫌な気持ちになるだけです。結果は同じなのです。どちらかお好きなほうをお選びください。嫌です。

「あのー……高根くん?」

いけないいけない。ちょっとトリップしてました。
今俺がやらないといけないことは一つ、出来るだけ恥をかかない方法で目の前のイケメンからの怒りを買わない答えを出さなければなりません。
逆ギレされるくらいなら多少の恥くらいは仕方ないですが、流石に「あいつ俺の嘘告白本気にしたんだよーマジキモいよなー!」って言いふらしてクラスの笑いもの展開は避けなければなりませんからね。

「あ、ごめん……ちょっと考えごと……。」

「あ!そうだよねそうだよね!俺たち同じクラスなのにそんな話したことないし……でも!俺本気だから!だから……返事、を、ください……!」

真剣な顔をしているけど、これも演技だということは分かっている。さて、どうしたものだろう。
幸いにも俺には今まで培って来た告白罰ゲームの経験がある。単純に告白された回数だけなら雪路くんにも負けないだろう。雪路くんと違ってされたくない告白だけど。
その貴重な経験のおかげで近年は失敗することはかなり減りました。そもそもそんな経験したくないのだけど。

「あのー、さ、」

「……!うん!」

「俺、やらなきゃいけないことあってさ、だから、すぐ帰らなきゃいけないから……じゃ、」

「あ、頼まれた生徒会のプリント作りでしょ?でも高根くんは役員じゃないし、本来やらなくていいものだから大丈夫!」

「いや、頼まれたものだし……他にも……。」

「美化委員の仕事も、今日の日誌書きも高根くんはやることじゃないから!」

「あ……。えと……。」

「だから、今、できれば、返事……ほしい……。」

しまった。押しが強い。「時間がないフリをして話を逸らしたすきに逃げる」手は失敗。
当たり前だけど、相手もしたくない告白をさっさと終わらせたいのでしょう。こっちだって終わらせたい。君以上にこっちの方が不本意なんだから。

(あ……!)

どうしようと視線をウロウロさせていたら、偶然見えてしまった。
向こうの茂みに潜む茶髪や黒髪……。間違いなく、罰ゲーム仲間の友達だ。やっぱり近くにいた。告白罰ゲームは誰か仲間内と面白がってやるものだ。あそこにいる奴らはこっちがどういう反応をするのかクスクス笑って楽しんでいるに違いない。
許しがたい行動だが、これはこちらにも助けとなる発見だった。

「あの……。」

「うん!」

「あれ……、あそこにさ、見えてるよ……。」

先ほど仲間を見た方向へ指を指す。秘技「お仲間見えてますよ」を発動した。こうすることで「お遊びの告白だってとっくにバレてますよー」と遠回しに言うのだ。
そうすれば仲間内で「お前らのせいでバレたじゃーん。」「足引っ張るなよー」と失敗の原因の擦り付けあいにシフトする。地味に責められる対象を自分から仲間へ変更させる効果があるのだ。

「え?……ああ!あいつらね!あいつらは……あれ?高根くん!?」

その間に、俺は逃げる!




「で、また嘘告白されたのか……。」

「うん……。」

「いやー雪路がやるとはな。……まあ、陽キャがやりそうなこった。」

「同じクラスなんだから、やめてほしいよ。過ごしにくくなる。」

「だよな……。」

翌日の昼休み。弁当を食べ終えて貴重な自由時間を潰して、せっせと机の上に乗ってるカードの山を手にしながら、先ほどまで一緒に昼食をともにした友人の数希と昨日あったことを話していた。
幸いにも雪路達はいつも昼休みは屋上で食べているらしいので、昼休みは聖域だ。周りは賑やかだし、特に聞かれることもない。

「それで今何やってんの?」

「これ?古い貸出カードの整理。」

「今度は図書委員?どんだけやらされてんの?断れよ。」

「いや……置いてかれてる。」

「は?オレ断ってやろか?」

「誰が置いたか分からんからいいや。」

「はー……。」

昔から俺はよく人に頼まれごとをされる。いつもはちゃんと一言くれてから頼みごとをされるのだが、今日は教室には居づらくて休み時間ごとに外に出たりしていたから声をかける時が無かったらしい。戻ってきたらメモと一緒にドンと置かれていた。

「お前委員会も部活も入ってないのに頼まれすぎだろ……。」

「そうは思うんだけど……困ってるっぽいし。」

「はー……。」

また溜息をつかれた。中学からの友人だからよく頼まれることも嘘告白されることも知っている。

「お前さーその断れないとこが罰ゲーム招いてんじゃね?」

「うーん……。」

「次来たら言えよ。オレが断ってやる。」

「いや……断ると逆上してくるよ?数希でも無理じゃないの?一緒に来たら危ないって。」

「そしたらキレ返してやる。」

「えー……。余計怒らせてどうするの。」

「高根くん!」

「えっ。」

突然声をかけられてパッと顔を上げるとそこには今は見たくない顔が。
今までいなかった。絶対いなかった。

「雪路……。」

大概の罰ゲームは逃げて当たり触りなく接触も少なくすれば自然消滅する。多少は罰ゲームが上手くいかなかった恨めしい目で見られることもあるが、自分達の失敗が原因の時は言いふらせないから黙ってれば流せるのに。
まさか失敗すらもこちらのせいにする完全逆上タイプだったのか。
これから来る怒りを想像して震えが止まらなくなる。

「ダメでしょ!こんなことやって!」

「は、はい?」

「これは高根くんの仕事じゃないからね!」

やっぱり怒られた、と思ったら目の前の箱をパッと持ち上げた。

「これ、図書委員だよね?返してくるね!」

「えっいや誰のか分からないし……てか、どこに、」

「図書委員でしょ?図書室のカウンターにそのまま置いてくるよ!」

「でも、まだ途中だしそれじゃ向こうが困るんじゃ……。」

「図書委員が自分の仕事サボってるんだから、困ったってしょうがないし。高根くんのせいじゃないし!」

「や、あの…。返して、」

「うん!返してくるねー!」

「いやそういう意味じゃ、」

そのままダンボール箱を抱えてサッサと走って行ってしまった。

「なんだ、あいつ。」

「本当に大丈夫なのかな……。絶対怒られるじゃん。」

「……まあ大丈夫じゃん?雪路ならあの顔で怒られないんだろ。」

「うーん。」

「ま、でも油断すんなよ。罰ゲームやって来るような奴なんだからさ、また何企んでるか分かんねーよ。」

「だよな……。気をつけるわ。」

俺たちは雪路の行った方向をじっと見たままだった。まさかその日から雪路が絡んでくるとは知らずに。
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