天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

文字の大きさ
上 下
46 / 50

招待状

しおりを挟む
「ねーねーアレンシカ様ー、今年の夏はどうします?」

いつもの通り登校するとプリムがそう尋ねてきた。

「どうって?」

「だってだってー、私がアレンシカ様にお付きの人になって初めての夏ですよ?アレンシカ様と一緒に遊びたいなーって。」

「……アンタさあ、侍従は遊びじゃないでしょ。」

すでに二人よりも早く登校していたエイリークが隣の席から少しだけトゲトゲした声で言う。

「うーん……遊びたいのも山々かもしれないけど、ディオールがプリムのお兄様と何か話していたよ?お仕事を学ばせようとしているみたい。」

「えー!」

「それに夏休みの間は、僕があまり一緒にいられないかもしれない。花壇も見に来たいし‥‥それに出なきゃいけない場がたくさんあるんだ。」

婚約の儀に向けてアレンシカはいろんな家門のパーティーの紹介状をユースを通じて受け取っていた。今までに比べて遥かに多くぎっしりとあり、いかにアレンシカをウィンノルの婚約者として多くの家門に顔見せして地盤を固めようかという気概を感じる。
今まであまりパーティーには出なかった身の上、どうにも辟易としてしまうが王族を通じての紹介状では絶対に断ることが出来ない。逃げ場のなさを感じていた。

「お兄様ったら、ひどいです。‥‥でもそっか!アレンシカ様のお家にいるならアレンシカ様のお家で遊びましょ!」

「ええ……。」

「アンタねえ……。」

少しだけ落ち込んだがそれも一瞬でご機嫌に戻ったプリムはふんふんと鼻歌を歌いながら笑っている。
そんな様子を見て、プリムなら何とかやっていけるかもしれないと思いながらアレンシカは席に座った。最初の授業の準備に取り掛かろうとカバンから教科書を出す。

「あっアレン様何か落ちましたよ。」

カバンからひらりと落ちたものを咄嗟にエイリークが掴んだ。

「これは……?」

「ああ、それは‥‥。」

今まさにアレンシカを悩ませている招待状のひとつだった。あまりに多くて勉強の時間も削って合間に目を通しているせいか、教科書に紛れて持ってきてしまったようだ。封筒がないため王家の紋のスタンプはなかったが中身は別の家門の書だ。丁寧に折り目がついていたため、広がることはなく中身が見えることはなかった。

「なんか……忙しそうですね。アレン様。」

「え?」

「疲れた顔っていうか……いつものアレン様の麗しさが陰っているというか……もちろんいつもすごく麗しいんですけど!すみません。……一介の平民がこんなこと‥‥。」

「ううん、友達として心配してくれてるんだもの。嬉しくは思っても嫌には思わないよ。ごめんね。少し最近勉強しすぎてるのかも。」

少しだけ笑って手紙を受け取ろうとしたが、その前に誰かに取られた。

「おはようございますアレンシカ様。あと二人。」

「二人ってさあ……。」

「おはよールジェ君。」

「これって……ああ。あれですか。」

中身を見ずとも何かわかったルジェは少しだけげんなりしているようだ。

「それ、何か知ってる訳?」

「まあね。」

「んー?……ああ、虫の取り扱い説明書ですかー?」

「いや?」

ルジェは紙を少しだけピラピラとさせた後、何故か自分のカバンの中にしまった。しっかりと奥底に。

「え?ルジェ?」

「それ、アレン様のものなんだけど。」

「だからだよ。」

まだ家に同じ招待状は山ほどとある。アレンシカに渡されなかった場合を想定したのだろう、全く同じ招待状が何度も届けられているからだ。だからその一枚が手元にないところでまた別のものを見れば良い訳だが、他の家からもらったものだ。別の人の手に渡るのは良くないのではないか。

「ルジェ、どうして……。」

「俺、フィラル様からもユース様からも、ささやかな権限は貰ってるんで。まあ預けてみませんか。」

「……でも。」

「いえいえ、気にしないで。」

「だけど……。」

「まあまあアレンシカ様ー。代わりに捨ててもらいましょー。」

中身は知らないはずなのに訳知り顔のプリムがアレンシカを宥めるように言う。その言葉にルジェは軽くにこりと笑うとカバンを持ったまま席についてしまう。

そのままタイミングよく教師が入ってきてしまった為、そのまま招待状を取り戻すことはできなくなってしまった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

眺めるほうが好きなんだ

チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w 顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…! そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!? てな感じの巻き込まれくんでーす♪

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

処理中です...