天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

文字の大きさ
上 下
42 / 50

やる気

しおりを挟む
新しい学年になって、いろいろ生活が変わった。
勉強ももっと難しいものになり、園芸部だってより責任ある学年になったからだ。最終学年である三年は家の仕事を手伝ったり、中にはもう家督を継ぐ準備に入る者もいて学校に来られない日が多い者もいる。その為に実質的な最終学年は二年だというほど責任ある立場になるからだ。

アレンシカも園芸部でまとめ役に任命されてから忙しい毎日を送っている。
クラスで休憩時間に園芸部で必要なものリストを纏めていた。プリムにぺったりと寄りかかられながら、プリントに欠品の数を記入している。

「あんまり欠品少ないですねー。」

「みんなが丁寧に使ってくれてるから壊れたものも少ないからね。」

「ふうん。」

ただじーっと見ているプリムに少しだけ照れくさくなりながらもプリントを纏めている。
全て書き終わってトントンと揃えて、提出しに行こうと思った時だった。


「ちょっと、まだこの課題が提出されてないんですけど?」

少し離れたところからかけられた声。見知った声だが、自分にかけられたものではなかった。

「……悪いんだけど公務で忙しくて提出期限を守れそうにないんだ。」

「王子殿下なのに、期限を守らないんですか?」

「……先生には許可をとってあるよ。」

アレンシカから離れたところで、エイリークがウィンノルを前に課題を催促していた。
エイリークは二年になってからクラスで学級委員長をしている。一年次には別の熱心な生徒が学級委員長をしていたからその役割のことは失念していたが、新しいクラスになってから自ら立候補して学級委員長になったエイリークは仕事をこなしていた。
だがひとつだけ、その仕事ぶりを妨げる者があった。

「本来なら全て期限通りに全員のものを纏めてから提出する決まりなんですけど。」

「どうしてもこちらのことで忙しくて。本当に申し訳ないんだけど。」

「……でも毎回ではないですか。こうも毎回出来ないものなんですか?」

「悪いことだとは思うが理解してほしい。」

「他のかたも家の仕事はありますが、みんな提出出来ていますよ?」

エイリークは誰から見ても綺麗な笑みで諭している。相手が王子であっても堂々としっかりと諌めることが出来ている。
ウィンノルは彼を前に困った微笑みを返しつつも穏やかにやり取りしていた。

(……すごい、エイリ。僕だったら殿下を諌めることなんて出来ない。不快な気持ちにさせてしまうし、そもそも僕の話なんて聞いてくれないだろうな。……エイリだから、出来ることだ。)

そんな二人をボーっと見ていたが、ふいに袖を緩やかに引っ張られた。

「アレンシカ様ー?アレンシカ様、行きましょー。」

「あ、うん……。でもプリムも一緒に行くの?」

「行きますよー。アレンシカ様とおんなじクラブでーお友達ですからー。」

「そっか……。」

緩く腕を捕まれたまま、未だにやり取りを続けている二人に後ろ髪を引かれながら教室を出た。

「アレンシカ様ー。」

「うん?」

「大丈夫、ですからねー。」

「何が?」

「大丈夫、大丈夫なんですよー。」

「……うん。」

プリムの何でもないような柔らかい声にトゲが丸くなるような気持ちになる。いつも分かってなさそうでいつも決定的に分かっている従者兼友人は日々助けられてばかりだ。

「……僕ちょっと頑張ってみようかな。」

元々ウィンノルと同じクラスになったのは、この冷えきった婚約者としての関係を少しでも修復出来るように、兄ユースが進言して成ったもの。だというのにそれが少しも果たせずこんなにウジウジしてどうするんだろう。
せっかく同じクラスなんだから、きちんと役目も期待も答えなくては。

「プリム、僕もちょっとやる気出ちゃった。」

「無理はしちゃ嫌ですよー。」

「頑張るよ。」

「うーん……?」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

婚約者の恋

うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。 そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した! 婚約破棄? どうぞどうぞ それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい! ……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね? そんな主人公のお話。 ※異世界転生 ※エセファンタジー ※なんちゃって王室 ※なんちゃって魔法 ※婚約破棄 ※婚約解消を解消 ※みんなちょろい ※普通に日本食出てきます ※とんでも展開 ※細かいツッコミはなしでお願いします ※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます

婚約破棄された王子は地の果てに眠る

白井由貴
BL
婚約破棄された黒髪黒目の忌み子王子が最期の時を迎えるお話。 そして彼を取り巻く人々の想いのお話。 ■□■ R5.12.17 文字数が5万字を超えそうだったので「短編」から「長編」に変更しました。 ■□■ ※タイトルの通り死にネタです。 ※BLとして書いてますが、CP表現はほぼありません。 ※ムーンライトノベルズ様にも掲載しています。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

処理中です...