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進級

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ひとつ学年が繰り上がり、次年度になった。

「また同じクラスで良かったですー。アレンシカ様と離れちゃったらどうしようってずっとずっと眠れなかったですからー。」

「アンタ、夕食終わってすぐウトウトしてたじゃん。」

「部屋に戻ってから目が開きまくっちゃったんでーすー!」

「でも、僕も違うクラスだったらどうしようって思ってたから…プリムの気持ちはすごく分かるな。」

「ですよねー。」

「ふんっ!」

教室棟の前で落ち合ってから三人揃って新しいクラスに行くと、見知ったクラスメイトと新しいクラスメイトで賑わっていた。

「おっアレンシカ様おはようございます。」

「ルジェ、おはよう。」

「こんにちはー。」

「まだおはようでしょ。」

「いやー、アレンシカ様ようこそ二年のクラスへ。…といってもそんな変わりないと思いますけど……。」

「……いや、ものすごく変わると思うけど?」

イライラした雰囲気のエイリークがそう言った途端、クラスのざわざわした声がさらに大きくなった。周りの目は一斉に一点に注がれる。
その視線に釣られるようにして身向けば、そこにいたのはウィンノルだった。

「うわっ…本当に王子と同じクラスなんだ。」

「王子とクラスメイトなんて緊張してきた……。」

「このクラスでやっていけるかな……。」

今までは遠い距離だった王子の登場に、生徒たちは不安に思いつつも憧れの表情で見ている生徒たちは、王子を前にして黄色い声を上げる者もいる。
しかしよく聞くと、好意的ではない発言も聞こえてきた。

「うわ……あの王子?」

「ちょっと怖いかも……。」

「えっ……王子か……あの人と一緒はちょっとな……。」

けして王子には聞こえない声で、しかし隣にいる人にはしっかりと聞こえる声で話している。

「あれどういうこと、ハルク。」

「あー、なんか今あんな感じ。」

「ははーん、ボロボロにボロが出てるですね。私読めました。」

「ま、そういうこと。」

エイリークがルジェに話しかけると、ルジェは何でもないように答えた。それにプリムも同調している。
一方、三人の話を横にただアレンシカはウィンノルを見ていた。
今まではクラスが違い遠くで見るしかなかった婚約者をこんなに間近な距離で見える。ただの鉢合わせとは違う距離。これが今日から毎日繰り返されるのだ。

(……大丈夫、かな。同じクラスでもし、失態してしまったら、これからはすぐに殿下に知られてしまう。)

ずっと見ていたからかその視線に気づいたウィンノルがアレンシカの方を向いた。しかし一瞬だけ見ると、まるで顔も合わせたくないというようにすぐに逸してそれからは少しも見ずにすぐ近くの席に着いた。
だけどその一瞬でも王子の視線の先が気になる者は出てくる。近くにいた生徒がウィンノルの視線につられて後ろを振り返った。

「えっ、アレンシカ様も同じクラス?」

「やばくない?仲悪いんじゃなかったっけ?前見たことある。」

「何言ってるの?そんな訳ないじゃん。婚約者なんだよ?」

「でも王子様っていつも一緒にいるのは別の人だよね。」

「でも去年は違うクラスだったんだから当たり前じゃない?」

ヒソヒソと噂話が聞こえる。
なんとなく居心地が悪くなってしまったアレンシカはクラスの端のウィンノルとは遠い席に座った。隣にプリム、前にはエイリークが続いて座る。

「でもさ、あのユース様の弟様なんだよ?」

「そうそう、この学園でのラブラブさは有名だったし。」

「お似合いのビッグカップルだって超有名だったんだっけ?」

「殿下とアレンシカ様のラブラブさだってこれから有名になっちゃうかもね!」

「近くで見られるの?すごい!」

ザワザワと大きくなっていく声。その声にアレンシカにはただ下を向くしかない。
アレンシカにはその期待に答えられない。それが分かっていたからだ。

「よく言うよ……あの中に一体何人関係持った奴がいるのやら……。」

ルジェはそう言うとひとつだけ席を離れたプリムの横に座った。

「こっちにいていいの?ハルク。」

「いや、今からあの中入ってくのは無理。」

指差した方を見ると、先程までは少し離れていたというのに王子が生徒たちに囲まれている。こちら側からはもう少しも姿が見えなかった。

「うわー。でも、王子のお付きでしょ?」

「……まああれくらいは自力でなんとかする。何でもは俺もしない。」

「そうなんですかー。」

人だかりを見ながら話続ける三人。アレンシカはぼんやりしながら渦中の人の姿が見えなくなってほっとした。
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