天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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予定

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祭りの賑やかさもすっかりなくなり、冬が目前に近づいてきた。
学生達にとっては待ちに待った冬休みがやって来る、と思いきや来るものは楽しみだけではない。休みに入る前に再びテストも一緒になってやって来るのだ。おかげで休みの楽しみはとりあえず横に置いておいて必死に勉強しなければならない。
その為に現在、アレンシカはエイリークとプリムのいつもの面々と一緒に図書館で勉強しているところだ。

「まーたここ間違えてる!何回言えば出来るの?頭どういう作りしてるの?」

「だってエイリーク君の教え方怖いんです。私いっぱい頑張ってます。偉いんです。アレンシカ様撫でてくださーい。」

「アンタのその態度がボクの怖さを9割増してるって気づかない?」

「びええ…。」

「……ずっと勉強してて疲れたんだよね?少し休憩しようか。」

「なでなで最高ですね。ふふん。」

「もっと怒ってほしい?」

休憩と言われて早々に教科書を閉じてしまったプリムはアレンシカの手にご機嫌になった。猫のようにゴロゴロ言い出しそうな彼は真正面の怖い顔は見えない選択をして。

「アレンシカ様ーアレンシカ様ー。アレンシカ様は冬休みはーどうするですか?」

「え?僕?」

休憩と言いつつ教科書を繰る手を止められないアレンシカにプリムは聞いた。
この学園は冬休みが長い。それは気候も理由ではあるが、充分に休みを取ることで健全に勉学に励めるという教えから来るものだ。

「……僕は……特に何もしないかな。プリムは?お家に帰るの?」

「私はー……うーん、エイリーク君はどうするです?お家帰るんです?」

「ボクはずっと寮にいる予定だけど。帰ろうにも帰れないしね。」

フィルニースは雪が多く積もるので、長期休暇であっても遠くに住む者が実家に帰るにはいつも以上に時間がかかる上に危険だ。
その為に夏休みは里帰りしていた学生も冬休みの間は寮に残る者が少なくない。エイリークは元々学園から遠い村出身なので残る側になるようだ。

「プリムみたいに近い家なら帰れるんだけどね。」

「うーん、私は考えちゃいます。家はお兄様もいるですしー。寮で年越しってのもいいですけどー。先輩達の話では寮の年越しはつまんないとか。」

「そうなの?」

「寮にいる間は門限もありますからー。お友達と年越ししても先に帰らないといけないってつまんないですー。」

「確かにね。」

「年越しの時だけに出るポテトポタージュの有名な出店があるんですけど、行けないかもしれないんですよ!嫌です!」

「まーた食べ物?」

「仕方ないから私はエイリーク君と年越ししてあげますよ。一応お友達ですからー。」

「一応って何な訳?」

「寮ってそんなにつまらないの……?」

唯一寮生活組ではないアレンシカには考えられないことだったが、隣りのプリムはひどく落ち込んでいる。それほど目当ての一品なんだろう。もしかすると毎年の楽しみなのかもしれない。

「はあ……ポテトポタージュ……ポテトポタージュ……。」

「そんなに落ち込んでも仕方ないでしょ、そりゃ年越しの時は多少融通してくれるけど、門限は仕方ないし。」

寮も流石に年越しの時には少し時間を遅くしてくれる程度の配慮はしてくれるのだか、なまじセキュリティの問題もあり、学園側が生徒を預かっている立場である以上門限に関してはどうにも出来ないらしい。
もちろん冬休みの間は寮から出ていて家に帰っているというなら、寮の門限は関係ないところではあるのだが、こればかりはしょうがない。学園に入学するにあたって配られる冊子にも記載されていることだ。

「……そういえば、寮って届けは出せるんだっけ?」

「アレン様?」

隣りであまりに落ち込んでいるのを見て、アレンシカはふと寮の決まりを思い出していた。

「確か、寮って届け出を出せば外泊が出来るんだよね。日にちをきちんと書いて、予定よりも長くなるようなら再提出すれば……。」

「ええ、確かにそうですけど……。」

貴族子息が通うこの学園において、家の仕事や社交で学園を離れることはよくあることだ。だから当然学園も寮も把握をしていて休みを取れたり外泊届けを出せる。また本家と分家の繋がりや仕える家との関係もあるので、きちんと届けを出しておけば帰る家や泊まる家を学園側が制限をすることもなかった。

それならば、とアレンシカは二人の顔を交互に見た後で言った。

「……二人とも、冬休みは僕の家に来る?」

「いいですか!」

「……え?……えー‼」
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