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監視

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喧騒から離れた場所。周りには一人もいない、はずだ。
先程までビッシリと着ていた制服は打って変わり、ボタンは二つ目まで開けて少し乱れている。
自分のものではない匂いも纏い、どこか気怠い雰囲気で扉から出た。

「教室棟は今日一日立ち入り禁止のはずだけど。」

誰もいないと思っていたが誰かがいた。いや、誰か何て昔から分かっている。
入学してから、入学前からもずっと近くにいて見られてきたのだから。

「……俺の『お友達』はこんな時まで見ていなくてはいけないんだね、ルジェ。」

「立ち入った理由を聞いているんだ。答えろ、ウィンノル。」

壁に寄りかかって、ルジェは疲れなど微塵も見せずに言った。

「そんなの、君なら分かるんだろう?」

「アタリをつけたが、案の定当たりだ。で?」

「ん?」

「あの人混みで俺が見失っている間、お前は何をしていた?」

「何をしてたんだろうね。我ながらよく撒けたと思うよ。」

「……連れていた奴らは。」

「……さあね?」

どこ吹く風な言い方に怒りがこみ上げて来たルジェは目の前まで足早にやって来るとウィンノルの襟ぐりを乱雑に鷲掴んだ。

「ふざけんな。学園のルールすら守れない、ふしだらな奴の何が王子だ。」

「男爵家の人間が王子に掴みかかってもいいと思う?」

「俺は入学前に特別に権限を持たされている。」

「……ああ、あの人達、先周りしてたのか。……まったく。」

掴んできた腕を掴み返してみても、それ以上の力で握っていて離れない。
それほどの怒りが込められていることは容易に想像出来る。

「君なんて、繫がりさえなければどうだって出来るのに。」

「あの方が許すと思うか。それこそ愚かな行いだ。」

「チッ。」

舌打ちをしたウィンノルに対し、ルジェも乱雑に襟ぐりから手を離した。

「君はもう少し俺に敬意を払ったらどう?」

「お前に対する敬意なんて、とっくの昔に消えた。」

ウィンノルはやっと服装を正した。品行方正な王子の姿に戻っていく。しかしいくら正そうと長年見てきたルジェの目は誤魔化せるものではなかった。

「学園に入ったら落ち着くのかと思ったら全く落ち着かない、王子であることを盾にやりたい放題、婚約者も蔑ろにする。これのどこに敬意を払う必要がある?お前が王子だとか俺が男爵家だとかそれ以前の話だ。人として敬意を払えない。命令でもなかったら『友達』もとっくに辞めてる。」

「出来れば辞めてくれて構わないんだけど。」

「辞めたら監視がなくなるだろ。」

ルジェは厳しい目で睨み続けているがウィンノルは何も気にならなかった。
誤魔化せないのも分かりきっている。

「まだ『遊ぶ』のか。」

「今日はもうおしまいにするよ。」

「今日で終わりにしろ。」

「……それはどうかなぁ。」

ルジェを気にせずに歩きだす。どうせ気にしたところでいつも知らないところで自分を監視しているのだ。いつものように無視していつものように監視される。それは変わらない。
ただいつもはそのままお互いに戻るだけなのだが、今日は沸き上がる怒りが収まらない様子のルジェが再びウィンノルの腕を掴んだ。

「……お前、アレンシカ様をどうするつもりだ。さっきも見るに耐えない行動だった。」

「さあ、どうなるんだろうね。」

「本当にいい加減にしろよ、お前。いつまでも傷つけていいと思ってるのか。自覚を持てよ。」

「それをしてどうなる?」

「お前は王子だ、その前にアレンシカ様の婚約者。やっていいことと悪いことの区別も付かないのか。」

「……で?」

「は?」

「だとしても変わらないよ。俺が何をしてもね。」

「……今日のことも報告させてもらうからな。」

「好きにすればいいよ。」

表情も変えずにそう言うウィンノルに対して、何も言葉は届かない無力さに力の抜けた腕をスルリと外されて今度こそ無視して歩き出した。
結局今日も変わらない。毎日監視して、何度注意しても変わることがない。ただそれを確認するだけだ。
離れていくウィンノルを背に、再び監視の為に動き出す。そんなルジェを横目で見ながら、今日もいつもと変わらない態度でいる。
たとえ監視されていても、注意されても、ウィンノルは分かっているからだった。

「自覚を持ったところで、何も変わらないのに。」

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