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感謝祭

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晴れて清々しい空気が流れる今日。

「結構忙しいですー。」

「そうだね、休憩は僕達の番までまだあるけど、どうしても疲れちゃったら休んでいいからね。」

「休みませんー。アレンシカ様がいるから休みませんー。」

「そうだよ、アンタ付き人でしょ?アレン様を差し置いて休まないでよね。」

「なんでエイリーク君はここにいるです?」

「僕はアレン様のいるところにはどこでもいるから。」

「部員じゃないのに手伝ってくれるなんて、せっかくの感謝祭なのにいいの?」

「そりゃもう!いいんです!」

「ありがとうエイリ。」

今日は感謝祭。
たくさんの人たちが訪れて、生徒達と交流を図り、将来の偉い立場になる生徒達の顔を知ってもらう日。
学園は敷地内を一般開放し、屋台式に並んだ出店と立食式の飲食コーナーを設置して訪れた人たちをもてなす。

アレンシカ達園芸クラブも今日の為に準備された鉢植えとドライフラワーとそれから綺麗な紙に包まれたブーケで丁重におもてなしをしている。
由緒正しい園芸クラブである為、訪れる人たちもそれなりに多く、さばくのは大変だが、とても楽しい時間であった。

「じゃあ、もう少し頑張ろうか。休憩の順番になったら先輩たちが呼んでくれるし。」

「お休みになったら調理クラブのケーキ一緒に食べに行きましょー。フィグのパウンドケーキがあるんですって。」

「ボクも行くからね。」

「んー、しょうがないですねー。」

「決めるのはアレン様だから。」

「そうですねー。そこは一緒です。」

「三人で行こうね。」

少しだけ雑談をしながら、渡す品物を並べていく。
ブーケは花を選んでもらって渡す直前に水から出してから包んでお渡しするのだが、好調でだいぶ数が少なくなって来ていた。

「ごめん、ちょっとこっち来てくれる?ブーケ用の花増やしたいんだ。」

向こうでは作業をしていた先輩がアレンシカ達に声をかけた。

「あ、じゃあ僕が行きますよ。」

「アレンシカ様が行くなら私も行きます。」

「大丈夫、少しの間だけだから。プリムは前のスペースお願いしててもいい?」

「アレンシカ様から頼まれましたー。だからここの仕事をします。」

「うん、よろしくね。」

アレンシカが行ってしまった後で、プリムとエイリークが二人並んで作業を続ける。
あれからそれなりには仲良くなって来たとは思うが、やはりアレンシカがいるといないとでは大きく会話の頻度は下がる。
お互いに特に話すことも浮かばず無言で作業を続けていると、隣りで鉢植えの作業をしていた先輩がススッとさり気なく近くに寄って話しかけてきた。

「君達さ、リリーベル様と遊ぶんでしょ?後で。」

「そうですよ。パウンドケーキ食べに行きます。」

「いいねー、クッキーもいっぱいあるらしいから食べに行ったらいいよ。あそこのおいしいよねー。」

アレンシカが行ってしまった後、さり気なく寄って来た先輩はエイリークとプリムの横に並んで雑談を始めた。

「そうそう、分かってると思うけど感謝祭の間は教室棟と職員棟は出入り禁止だから、気をつけてね。一応許可取ればいいらしいけど教師は絶対同伴だから。何か用があったら先生に言ってね。」

感謝祭では学園は生徒以外にも開放はされるが、庭園や食堂までに限定され教室棟や職員棟は立ち入り禁止であり、終日無人である。たくさんの人が出入りする感謝祭では、警備をしやすくする為に学園の生徒でも出入りを禁じている。
もちろん全ての生徒に事前に周知されているので、エイリークもプリムも当然知っていることだった。

「まー、どっちみち行かないほうがいいけど……。」

「え?」

「ああ、君達はまだ一年だから知らないんだね。ウワサ。」

「……ウワサ?」

「感謝祭ってさ、教室棟出入り禁止でしょ。だから誰も入らないでしょ?それを利用してね……、お祭りマジックでハイテンションになっちゃった生徒たちが……ね、ソウイウコト、する為にこっそり入ったりすることもあるんだって。」

「うわあ。」

「下品ですねー。」

「警備員も巡回してるし、実際は出来そうにないけどね!……見ちゃったーなんて言う人もいるんだよ。ま、ただウワサ好きな人達が面白がって言ってるだけだろうけどね。」

「見たくないから行きませんー。」

「学園は勉強の場なのに…何考えてるんですかねその人達。」

あっけらかんとウワサはウワサだと笑った先輩だが、キョロキョロと周りを見た後、先程より声を小さくして二人に言った。

「二人ともリリーベル様の友達だし、ミラー君はリリーベル様の付き人なんでしょ?だから、ま、気をつけてあげたほうがいいよ。……あの方、なーんかちょっと爛れてるじゃん。一応、ね。」

「そうですねー。そんな爛れ人間は嫌ですもんねー。」

「……。」

どうやら忠告が本題だったらしい先輩は、苦笑いしながらも注意を促した。
その目はどことなく優しげで後輩を思う先輩からの忠告だった。アレンシカと殿下が婚約関係にあることは下級貴族には知らない人もなかにはいるものの、概ね知られていることだ。
そしてかの殿下がたくさんの人を侍らしていることも。
そんな様子を見ていて、先輩ながらアレンシカを心配して来たのだろう。
二人に話せて満足したらしい先輩は、二人の顔を見た後再び持ち場に戻ってしまった。

「おまたせ、花増やして来たよ。」

「お帰りなさーい。」

「お疲れ様ですアレン様。」

たくさんの花が入った大きな花瓶をいくつも載せた荷台を引きながらアレンシカが戻って来た。
重い花瓶から花を取り出して、空の花瓶に入れて綺麗に見えるように並べ直す。

「さてこれ終わったら僕たちの休憩時間だから、軽く周り綺麗にしたら行こうね。」

「わーい!ケーキ!ケーキ!」

「はあ……ちょっと疲れましたね。」

花は綺麗だが意外と重労働な為、好きでやっていることでも皆すっかりヘトヘトだった。
最後の一つの花瓶を埋めて、周りに溢れる落ちた水を拭き取ったり、落ちている枝葉も掃きまとめていく。
充分に綺麗になり立ち上がると、突然遠くでわっと声が大きくなった。
ザワザワと空気がざわめいているのを感じる。
周りの先輩たちも急に慌て始め焦っている様子に、後ろを振り返ると。

「花を一輪ください」

傍らに人を侍らして、腕にまで巻きついた、あの人がいた。
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