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決意

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「アレン様!」

自分を呼ぶ大きな声で目が醒める。
花壇でただただ呆然としていると息咳ってエイリークがこちらに向かって走って来た。

「よかった……はあ、見つかった。こっちの……花壇だったんですね。」

この学園はあまりに広いのにどうやらエイリークは走り回っていたらしい。

「もうクラブは終わったっていうのに、戻ってこないので。だから。」

「……ああ、もうこんな時間。」

ふと空を見ると夕暮れというにはだいぶ暗くなってしまっている。
どれほどぼうっとしていたのだろう。きっと迎えも心配している。
エイリークも心配して探しに来てくれたんだろう。ここ最近はずっと一緒に帰ってたから。
初めての友達はとても優しい。

「ごめんね、こんな時間まで。遅くなるから先に帰っててって言っておけばよかった。」

「……いいえ。」

「すぐに帰ろうか。エイリも寮は門限があるでしょう?ごめんね。本当に。」

「いいえ……。」

息を整えたエイリークは下を向いたりアレンシカの方を向いたり。何かあぐねいているようだ。

「エイリ、どうしたの?」

尋ねると、何かを言いたげなエイリークはそれでもまだ迷うような素振りを見せた後、やっと意を決したのかアレンシカの目を見て悪いことをした後のように言った。

「……ごめんなさい。」

「……何が?」

本当に分からなかった。だってエイリークは何も悪いことも謝らないといけないこともしていない。何も思い当たることがない。なのに突然謝って。
確かに今日はいろいろあってギクシャクしてしまったが、そんなささいなことでエイリークとの友情が消えるなんて御免だし、そもそもアレンシカひとりの心の問題だ。
だからエイリーク何ひとつアレンシカに謝らなくていい。
それなのに目の前で深く頭を下げていた。

「ボク、僕は、どうしても諦められませんでした。」

「……何、を?」

「初めて会って、夢見て、優しくしてもらって、まだ短い間だけど仲良くなって楽しくて、諦めなきゃいけないって分かってるのに、分かったのに!どうしても、どうしても、諦められないんです。諦めたくないんです!」

「え……。」

「僕はその為に誰もかも何でも飛び越えて、手にしたい。僕が手にしたい。手にする手段がある限り、僕は諦めたくない。……ごめんなさいアレンシカ様。」

突然の謝罪に呆気に取られたがエイリークの目を見ると真剣そのものだった。
真っ直ぐ。ただ真っ直ぐアレンシカに向けている。

ここまで言われたら気づく。どんな人でも気づいてしまう。

エイリークは確実に、ウィンノルと結ばれる天啓を見たのだろう。
幸せで愛する人との結婚を見た。
だけど学園に来て、愛する人の婚約者と友人になってしまった。仲良くなってしまった。
エイリークは友情と恋に板挟みになって、悩んで悩んでどちらを取るか悩みぬいて、それでも諦められなくて、今こうして自分の言葉でしっかりと意思表示をしに来たのだ。
友情だけではない。恋も手にしたい。その為に正々堂々と言いに来た。友人から婚約者を取ってしまうことを。

「エイリ、僕もごめんね。」

「……え。」

何を悩んでいる必要があったのだろう。ましてや落ち込むなんて本当に烏滸がましい。そんな必要も出来る立場なんてないだろうに。
エイリークの方がもっと、もっともっと悩んでいたのに。

殿下の未来は分からない。だけどいずれ二人は結ばれる。それは神の心が見せてくれた。
エイリークは殿下に心惹かれている。殿下がエイリークに心惹かれるのも時間の問題だ。
二人がお似合いで隣りに立つに相応しい人だということは今日証明された。
エイリークが努力家であることはこの友人になってから何度も近くで見てきたではないか。
友達が自分より上だった。それだけでこんなに落ち込んでいるふりをして。
平民だから自分よりも下だと思ったのか。いいや違う。素晴らしい友達なのだ。自分よりも遥かに上なんだ。
努力が身を結ぶだけの実力があることも充分分かっただろう。殿下に相応しいのは、並ぶだけの努力と実力がある人。並ぶ為の努力が出来る人。泥を塗らない人。
エイリークは殿下にぴったりだ。

なんだ。そうなんだ。

(それなら僕のすることは、ひとつしかないね。)

そんなに好きならば、そんなに大好きならば。
エイリークがそんなに愛している人ならば。殿下がそんなに愛している人ならば。
愛する二人が結ばれる為に、緩やかに静かに。違和感がないように。

自分は穏便に身を引いて、二人を祝福しましょう。


アレンシカは立ち上がってエイリークの手を取った。

「エイリ。エイリはいつでも勇気を出してくれるんですね。」

なんだか初めの日みたいだと思いくすりと笑った。
アレンシカにはもう迷いはなかった。

「大丈夫です。僕達は、明日もきっと仲良しです。」

「……アレンシカ様。」

ただ違うのはアレンシカとエイリークはもう深い友情の仲ということだ。
だからアレンシカは大切な友達の為にぎゅっとエイリークの手を握った。

「エイリ。僕と君は友達です。」

けっして友情が引き千切ることはない。引き千切りはしない。
アレンシカは大切な友に誓った。
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