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忠告

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これから友人達と昼を食べるから一緒にどうかとルジェに言われて、二人とも頷き一緒になることにした。
何となく二人だけでの空間は保たないと思ったのかもしれない。今はルジェ達のグループの明るさにはかなり助かったし、アレンシカとエイリークの間には会話がなかった。
友情が壊れた訳ではない。これくらいで友情が壊れることではないのは分かっている。
ただエイリークには何も関係のないところだが、アレンシカには大いに関係のあることだった。それくらい二つ並んだ名前はアレンシカには衝撃で、同時にとてもしっくりと来るお似合いの並びだったのだ。

その後も会話が始まることはなく、そのまま授業に突入してしまった、
エイリークに申し訳ないとは思う。自分でもどうかと思う
エイリークが話しかけようとして、それでもどうしようもなく開けた口を閉じるのを何度も視界の端に見た。
なのにアレンシカからエイリークに話しかけることは出来なかった。





気持ちがどうにもならない時は草花に限る。ただ静かに寄り添ってくれるからだ。
今日はクラブ活動のある日で本当に助かった。でなければアレンシカは今もこの心に抱える糸の絡まりを冷静に解く時間はなかったかもしれない。
今日はもくもくと土作りだ。秋用の花を植える。目の前の土が草花の栄養になると思うとワクワクする。
こうして自分が手をかけた分だけ、立派な葉をつけ立派な花を咲かせる。
努力と同じだ。

(エイリークは、努力したんだよね。)

エイリークは努力した。頑張って、頑張って、自分の知らないところでもとてつもなく努力をして、花のように結果を咲かせた。
思えば何度も教師に勉強を聞きに行っていた。自分の知る限りでも何でも。

平民出身はあまりに成績が悪いと在籍する権利を失くしてしまう。すなわち退学だ。
だから当然エイリークも努力をする。退学にならない為に。

(でも……。)

エイリークの努力は、退学にならない為だけではない気がした。
確かに退学にはなるが、それは将来性が見込めないと判断されるくらい本当に成績が悪い場合の話だ。
順位表に載らない程度では絶対にならない。そもそも順位表に載らないからといって成績が悪い訳ではない。
つまりエイリークは、順位表に載る程の、ニ位になる程の、努力をし実力で勝ち取ったのだ。

(すごいなあ。エイリは)

素直にそう思う。
自分には知らないところで相当の努力をしていたエイリークを。
素晴らしい実力を出すエイリークを。

(僕は、すごい友達を持ったんだね……。)

砕いた貝殻を混ぜる。いつのまにか土は出来ていた。次の活動日には新しい種を植える。
真っ更な花壇を見て、教師の一言で今日の活動は終わった。




「あ……。」

「……今日は園芸クラブの日か。」

活動も終わり片付けをして薔薇園から出た先で、ばったりとウィンノルに鉢合わせしてしまった。
珍しく周りには誰もいない。一人だ。

「こんにちは殿下。」

挨拶をしてからウィンノルの目を見ると、あの順位表が浮かんでしまいつい目をそらしてしまう。いつもならばどんな冷たく見られても少しでも会えたら嬉しいはずなのに。
一人で来たのなら尚更、嬉しい。本当なら。

「……お前、今回のテストは五位だったな。」 

ウィンノルからそう言われてアレンシカは顔を上げた。

「俺は当然一位だが、婚約者のお前が五位とは何事だ?おまけに平民にすら負けたそうだな。周りで噂になっている。」

ウィンノルは順位表を見に行くタイプではない。自分の結果に興味はない。分かりきっているからだ。王族に恥じない、素晴らしい人なのだ。
そんなウィンノルの耳にすら入ってしまうほど噂になっているというのか。
アレンシカはただ青い顔をするしかない。

「仮にも王子の婚約者の立場で、そんな順位しか取れないとは何事なんだ。まったく嘆かわしい。……お前が婚約者に相応しくないことが一つ証明されたのだな。」

アレンシカは頭を殴られたような衝撃を受けだ。それくらいショックを受けた。
ウィンノルから面と向かって相応しくないと言われることはひどく苦しい。
今までアレンシカに対して何度も何度も冷たい目で冷たい声で接してきた。
それでも何とかここまで婚約者としていられたのだ。
だけど、今日、今突きつけられた。

(婚約者に、相応しく、ない。)

その言葉はまるで冷たく鋭いつららのようになってアレンシカの心に刺さる。

(僕はひどいことをした。ウィンノル様に、殿下に、なんて酷いことを!)

アレンシカは謝ろうとどうしても下がってしまう顔を何とか上げる。
しかしウィンノルはふんと一つ息を吐くとアレンシカに背を向けた。

「貴族は平民と違って成績が悪いからといって退学にはならない。それを念頭に入れてせいぜい卒業まで俺の顔に泥を塗らないことだな。」

けして恥をかかせるな。殿下からの厳しい忠告だった。
自分は、恥をかかせたのだ。王族に。殿下に。婚約者に。
一度も振り返ることはない。
いつももより更に冷たいその声音に、アレンシカはただ立ち尽くすしか出来なかった。


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