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疑惑

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あの後、天啓のことを話していた二人組は一度も司書に怒られることもなく勉強が一段落したのだろう後で普通に出て行った。
そうして近くには生徒がいなくなり静かになった後で、エイリークが慌ただしい様子で来た。
息咳っていてとても急いで来たようだったので、責めることもないし勉強で遅くなったのだから咎められることは何もないよと言ったら、エイリークは笑った。

「ただ、僕がアレン様と少しでも一緒にいる時間がほしくって急いで来ただけなんですよ。」

そう微笑みながらも真面目な顔で言ったエイリークを見ているとふいに先程の二人組の話を思い出してしまう。
大切な友達なのに、何だか悪いことを考えているみたいで、アレンシカは課題の続きをするふりをして視線をエイリークから離した。



図書館の閉館時間までエイリークと課題をした後、帰宅すると執事が慌ててこちらに向かって来た。
その様子にまさかと思い、執事が一言目を発する前に走り出すと応接間に入った。
慌てつつも丁寧に扉を開くと、普段遠くからでも見慣れている深い青の人がそこにいた。
入って来たアレンシカに対してギロリと鋭い視線を一瞬だけ寄越すと窓の外を見た。

「……殿下、お待たせして申し訳ありません。」

アレンシカが挨拶をしてもウィンノルはアレンシカを少しも見ない。
いつもの当たり前のことだというのに、今日は少しだけ大きなトゲが刺さったようだった。

「……来月のパーティーについて、公爵と話し合いをする予定だったが。」

「……そうだったのですか。申し訳ありません。失念しておりました。」

来月は父の仕事の付き合いでパーティーがあり、そこにウィンノルも出席予定だとは聞いていた。
ウィンノルは後々にリリーベル家に婿入りするのだから、ウィンノルが参加をすることも当然だった。婚姻後の為に必要なことだ。事前に示し合わせをするつもりでリリーベル家に来たのだろう。
王家としても貴族達との繋がりの為には大切なことだった。
アレンシカは出席をどうするかはまだ決めていない段階だった。夏休み中で時間はある上、何より婚約者のウィンノルが行くのだからアレンシカにも話が来るとは思ってはいたが、父からは学園にいる間は学業を優先にするようにと言われ、たまにパーティーから遠ざけられていると思う時があった。

「公爵はすでに先約の予定が入っていて出席出来ないと言われた。」

「はい。」

「お前は公爵の代わりに出るのだろうが、俺は出席を取りやめる。」

「えっ。」

「別にお前をエスコートする義理はない。する意味もないからな。」

「あの。」

それだけ言ってウィンノルは立ち上がる。
父の出席が取り止めになることはまだ聞かされていない。父は忙しい人だがきちんとアレンシカと話し合いをする人だ。今はまた仕事に出て行ってしまったのだろうが、帰って来た時にきちんとアレンシカに説明するだろう。
そして、公爵家として頼む。とも。
アレンシカとて父の分まで出席することには異論はないし、しっかりと父の代わりをこなそうと思う。
本来はウィンノルも出席予定で、アレンシカが出席するのならお互いに婚約者としての振る舞いを求められるはずなのだが、こうして先回りをしてウィンノルも用事があったことにでもして出席を止めるつもりらしい。
父がいないのならばアレンシカは意味がない。

「でも……。」

「くだらないパーティーに、お前と出席する意味があるか?」

冷たく言い放つウィンノルにアレンシカはただ拳を握って耐えるしかない。
何も用事があるのなら仕方ないと思うし、一緒に参加出来ないことも仕方ないとも思う。
ただウィンノルと一緒にパーティーに参加出来たらなんて思いすら持つ瞬間もなく断られた。
アレンシカが何かを言う前に釘を差しに来たのだ。
それにただアレンシカは悲しくなった。

何も言わないアレンシカを一瞥するとウィンノルは立ち上がり、アレンシカを振り返りもせず去っていく。
いつも見送りはいらないと言われるアレンシカは去って行く彼を見るしかない。
ウィンノルの広い背中を見ながらまた図書館での言葉を思い出した。

「天啓で見た。」

「相手も自分を見てた。」

二人組はそう言っていた。
もし、エイリークがウィンノルとの未来を見て、ウィンノルもエイリークとの未来を見ていたらアレンシカはエイリークとウィンノルの仲を将来は邪魔をする悪者なのだろうか。
ウィンノルはアレンシカを見ない。とても冷たい目で見る。
ウィンノルはその冷たい目で何を見たのだろうか。
ここまでアレンシカを嫌う何かを、アレンシカに冷たくする何かを見たのだろうか。
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