上 下
12 / 50

キャンプ

しおりを挟む
「わあ、小さい滝ですアレン様。」

「ここだけでしか見られない貴重な花もあるんだよ。でも今は時期じゃなかったかな。」

「うーん疲れました。」

「じゃあスタンプ貰ったし行くぞー。」

今日は皆が待っていたキャンプの日。
午前中から一学年みなで移動し、王都からは離れた山に着いた。
ただ今年は王子が在籍しているということで例年と少し異なり、王子だけは警備のしやすい見晴らしの良い高台に一本道しかない小屋で滞在することになったらしい。
王都を離れることになって王子に何かあっては大変だからだ。
ただエイリークはイメージしていたものと違ったようで、「これが…キャンプ……?」と少々驚いていた。

着いてからは事前に決めていた四人組になって各ポイントにいる教師からスタンプを貰いながらゴールに向かうレクリエーションだ。
スタンプだけではなく、このキャンプが終わったら自然について各組でまとめてレポートを提出しなければならない。その為にポイントへの道すがら野鳥や自然の観察もしながら歩かなければならない。
将来は領主になる子達も多く、その土地の自然を観察することはとても大切で、怠けたりふざける者は意外と少ない。

「ふむふむ……植物は同じなのに向こうと違う色……花には綺麗な蝶々が……あ、アレン様だった。」

「お前ちゃんと書いてる?」

エイリークは花を前にプリントに書き留めながら冗談を言う。

「大丈夫だよルジェ。ほら、エイリはちゃんとしてるから。」

エイリークがプリントを見せると、きちんとびっしり書かれているのが見える。

「…確かに。」

「おまけにキミより字が綺麗デショ。」

「おー……。」

ルジェは自分のプリントをちらりと見るが確かにルジェの方が字が汚かった。
エイリークは心外だったようで、怒っている。

「レポートはチームでやるんだから。ボクがアレン様の足手まといをする訳ないでしょ。」

「エイリは冗談が好きで、とっても真面目なんだよ。」

「いや……。」

ルジェはとエイリークとアレンシカを交互に見ると、ひとつため息をついてから歩き出す。

「……まあ、さっさと行きましょう。」

ルジェに続くようにアレンシカが歩く、その後から更にエイリークも歩く。
葉をサクサクと踏みしめる音が静かな森に響くが、その音が少ない。
振り返るとふらふらと一人であらぬ方向に一人で行こうとするプリムが見えた。

「あ。そっちじゃないよ、プリム。」

思わず声をかけるとプリムは何でもないように振り向く。

「そうなんですね。」

「迷子になると危険だよ。出来るだけ離れないでおいで。」

アレンシカはプリムに並んで歩くことにした。





「プリム、そっちは危ないよ。」

「はい。」

「そっちは崖だから危ないよプリム」

「へえ。」

「戻っておいでプリム」

「はあ。」

プリムはどうやら方向感覚に自信がないようで気がつくとあっちにフラフラこっちにフラフラと皆から遠くに離れていってしまう。
その為アレンシカは気が気じゃなく、一時はコースから外れながらも何とか歩いていたが、そんなプリムに痺れをきらしたエイリークが対抗策を講じた。

「……アレン様大丈夫ですか?」

「あ、大丈夫だよ。プリムは?」

「あーとりあえずいるから大丈夫だけど……これ……。」

ルジェに繋がった丈夫そうな紐。あまりにもプリムが変な方向に行く回数が多い為に、危険だと思ったエイリークがルジェとプリムをガッチリと勝手に結んだのだ。
あまりに素早く結びしかも解けない為、アレンシカはびっくりした。

「ぷん!アレン様の視線を独り占めするやつはそうなるんだ!」

「解けないです…。」

「ゴール前で解いてあげる!それまではそのままでいてよね!」

「俺巻き込まれてる…。」

「アレン様はボクの面倒お願いしますね!」

「面倒…?」

エイリークはしっかりしているし、どこにも行かないので面倒になってないのにな、とアレンシカは思いながらも森は意外と危ないものだ。二人ずつで見るのもいいかもしれないと考えた。

「まあ、俺が一番力あるしね、たぶん。ミラーくらいは抑えられるし。」

と戸惑いながらもルジェは快諾してくれたが、後ろからプリムを見張ることにした。

「ま、もうゴール近いから大丈夫。」

「ありがとうルジェ。」

「早く着きたいです…。」

「キミがしっかりしてればもっと早く着いたんだけどね!」

「そうなんですかあ。」

「そういえばゴールしたらプリント確認されるよね。キミ書けたの?」

エイリークはパッとプリムからプリントを取った。
三人はそれに上から下まで見ると目を剥いた。

「ミラーのプリント真っ白じゃん!」
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

眺めるほうが好きなんだ

チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w 顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…! そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!? てな感じの巻き込まれくんでーす♪

人生イージーモードになるはずだった俺!!

抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。 前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!! これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。 何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!? 本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

室長サマの憂鬱なる日常と怠惰な日々

BL
SECRET OF THE WORLD シリーズ《僕の名前はクリフェイド・シュバルク。僕は今、憂鬱すぎて溜め息ついている。なぜ、こうなったのか…。 ※シリーズごとに章で分けています。 ※タイトル変えました。 トラブル体質の主人公が巻き込み巻き込まれ…の問題ばかりを起こし、周囲を振り回す物語です。シリアスとコメディと半々くらいです。 ファンタジー含みます。

乙女ゲームに転生したらチートだったけど平凡に生きたいのでとりあえず悪役令息付きの世話役になってみました。

ぽぽ
BL
転生したと思ったら乙女ゲーム?! しかも俺は公式キャラじゃないと思ってたのにチートだった為に悪役令息に仕えることに!!!!!! 可愛い彼のために全身全霊善処します!……とか思ってたらなんかこれ展開が…BLゲームかッッ??! 表紙はフレドリックです! Twitterやってますm(*_ _)m あおば (@aoba_bl)

処理中です...