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プロローグ
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「アレンシカ・リリーベル。お前とは婚約破棄をする!」
自分ではない、柔らかいカシスゴールドの髪を持つ可愛らしい男の子を抱き寄せながら、冷たい目で言い放たれる残酷な言葉。
それが必ず訪れる未来だった。
14歳になったアレンシカ・リリーベルは街で一番大きな教会の前にいた。
この国では、14歳の誕生日を迎えた者はどんなものでも等しく教会に行く。
そこでは大きな七色に輝く水晶が輝いている。
それはこの世界を創造した神が八つに分けた大陸にそれぞれ最後に分け与えた心の一部とされ、今ではさらに全国の教会に分けられた水晶は全てその水晶を御神体として大切にされている。
そうして深く国と民に根付いた水晶は、この世界には人が使える魔法こそ無いものの、神の心たる水晶がいくつかの奇跡を人々に与えてくれる。
そのひとつがこの慣例の行事だ。
14歳になった人間がその水晶の前に立ち少し触れると、その者の未来で最も大きく自分の歴史が動く時を映しだす。
初めに誰がそれを発見したのかは、あまりに昔で分からない。ただ、この国に住む人間は必ずその行事を敢行しなければならない。
それはその未来を見る人間の為であり、国の為であり、世界の為。
良い未来ならばそのまま良い未来に進むように邁進し、悪い未来ならば悪い未来にならないように自己を省みて悪い人間にならないように努めること。
それこそが、この世界にこのフィルニース国にとって大切なことであるからだ。
誰もが等しくどんな身分であろうとも。
「アレンシカ様。それでは私は天啓の儀が終わるまではこちらに待機しております。」
「ありがとうディオール。」
執事から告げられ教会の門の前で別れると、アレンシカはそのまま真っ直ぐに教会の大きな扉の前に立つと深呼吸をした。
天啓の儀は未来を見る者一人しか入れない。たとえ公爵家の優秀な執事であろうと天啓を受ける者と伴って入ることは許されない。
未来を見ることが出来るのはまさしく自分ただ一人。
普段は信仰心の強い者たちで賑やかな教会も、この時ばかりは静かだ。
偉大な創造神の像の奥の、小さいながら重厚でびくともしないだろう扉。その奥に創造神の心が眠っている。
教会の者がアレンシカを確認するとその扉がゆっくりと開かれる。
その扉から真っ直ぐ伸びた紺色の絨毯の先にあるのは虹色に輝く巨大な水晶だ。
アレンシカが三歩進むと扉はまたゆっくりと閉まり、しんと静まった空間に一人いるだけだった。
そのまま足音を立てずに歩くと、不思議な輝きを持つ水晶が目の前に現れる。
神の心。水晶。教会の御神体ともいえる存在。
その美しい光を放つ結晶を前に、アレンシカは今まで覚悟を決めていたというのに、心が落ち着くのを止めた。
大抵映されるのは誰かと結婚する時や何か職に就いた時だ。だが万が一にも悪い時を映し出さないとは限らない。
(僕の未来が大きく起きる時が映し出されるなら、それは殿下との結婚式の筈だ。)
6歳の頃からいる婚約者。それはこの国の第二王子。
王子との結婚は確実に一番人生が大きく動く時だ。だから必ずこの天啓の儀では映し出される。そうに決まっているとアレンシカは思っていた。
それでも未来を見るという厳かで大切な儀式の前に乱れた呼吸を整えて、一度両手をすり合わせてから繊細そうな水晶に恐る恐る指先から触れた。
その瞬間、まるで水面に触れた時のように水晶が揺らめき始め、何かが映り始めるが、酷く乱れて不鮮明な映像でしっかりと見ることが出来ない。
そうしてしばらく朧気な映像が静まり鮮明になった時にようやくアレンシカが見たものは、第二王子が自分ではない人を抱き寄せながら衆人環視の中こっ酷く婚約破棄を告げる未来だった。
自分ではない、柔らかいカシスゴールドの髪を持つ可愛らしい男の子を抱き寄せながら、冷たい目で言い放たれる残酷な言葉。
それが必ず訪れる未来だった。
14歳になったアレンシカ・リリーベルは街で一番大きな教会の前にいた。
この国では、14歳の誕生日を迎えた者はどんなものでも等しく教会に行く。
そこでは大きな七色に輝く水晶が輝いている。
それはこの世界を創造した神が八つに分けた大陸にそれぞれ最後に分け与えた心の一部とされ、今ではさらに全国の教会に分けられた水晶は全てその水晶を御神体として大切にされている。
そうして深く国と民に根付いた水晶は、この世界には人が使える魔法こそ無いものの、神の心たる水晶がいくつかの奇跡を人々に与えてくれる。
そのひとつがこの慣例の行事だ。
14歳になった人間がその水晶の前に立ち少し触れると、その者の未来で最も大きく自分の歴史が動く時を映しだす。
初めに誰がそれを発見したのかは、あまりに昔で分からない。ただ、この国に住む人間は必ずその行事を敢行しなければならない。
それはその未来を見る人間の為であり、国の為であり、世界の為。
良い未来ならばそのまま良い未来に進むように邁進し、悪い未来ならば悪い未来にならないように自己を省みて悪い人間にならないように努めること。
それこそが、この世界にこのフィルニース国にとって大切なことであるからだ。
誰もが等しくどんな身分であろうとも。
「アレンシカ様。それでは私は天啓の儀が終わるまではこちらに待機しております。」
「ありがとうディオール。」
執事から告げられ教会の門の前で別れると、アレンシカはそのまま真っ直ぐに教会の大きな扉の前に立つと深呼吸をした。
天啓の儀は未来を見る者一人しか入れない。たとえ公爵家の優秀な執事であろうと天啓を受ける者と伴って入ることは許されない。
未来を見ることが出来るのはまさしく自分ただ一人。
普段は信仰心の強い者たちで賑やかな教会も、この時ばかりは静かだ。
偉大な創造神の像の奥の、小さいながら重厚でびくともしないだろう扉。その奥に創造神の心が眠っている。
教会の者がアレンシカを確認するとその扉がゆっくりと開かれる。
その扉から真っ直ぐ伸びた紺色の絨毯の先にあるのは虹色に輝く巨大な水晶だ。
アレンシカが三歩進むと扉はまたゆっくりと閉まり、しんと静まった空間に一人いるだけだった。
そのまま足音を立てずに歩くと、不思議な輝きを持つ水晶が目の前に現れる。
神の心。水晶。教会の御神体ともいえる存在。
その美しい光を放つ結晶を前に、アレンシカは今まで覚悟を決めていたというのに、心が落ち着くのを止めた。
大抵映されるのは誰かと結婚する時や何か職に就いた時だ。だが万が一にも悪い時を映し出さないとは限らない。
(僕の未来が大きく起きる時が映し出されるなら、それは殿下との結婚式の筈だ。)
6歳の頃からいる婚約者。それはこの国の第二王子。
王子との結婚は確実に一番人生が大きく動く時だ。だから必ずこの天啓の儀では映し出される。そうに決まっているとアレンシカは思っていた。
それでも未来を見るという厳かで大切な儀式の前に乱れた呼吸を整えて、一度両手をすり合わせてから繊細そうな水晶に恐る恐る指先から触れた。
その瞬間、まるで水面に触れた時のように水晶が揺らめき始め、何かが映り始めるが、酷く乱れて不鮮明な映像でしっかりと見ることが出来ない。
そうしてしばらく朧気な映像が静まり鮮明になった時にようやくアレンシカが見たものは、第二王子が自分ではない人を抱き寄せながら衆人環視の中こっ酷く婚約破棄を告げる未来だった。
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