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sideちか
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「今日は、全校集会があります。各クラス、指定の時間までに整列しているようお願いします。」
学校に行くと校内放送が流れる。その瞬間周囲の生徒に流れる空気は「まただ……」というもの。
全校集会が好きな生徒はあまりいないのだろう。移動が面倒だったり先生の話をうざいと思ったり。特にこの学校の全校集会は時間が長く、頻度も多いことで評判だ。わざわざ好き好んでいる人もいない。
しかしそれはこの小さな男子生徒には例外だ。
「ぜ、全校集会だって広弥くん!」
校内放送を聞いた途端、目を輝かせながら隣りにいる友に話かける彼こそ、例外の人間、篠地哉だ。
「今日の内容はね、3つあるんだよ。すごく楽しみで……わっ。」
「いやはしゃいどらんでそこでも捕まっとれ。」
すでに体育館に向かって行く人波に飲み込まれ、友達のカーディガンを必死に掴んでいなければすでにここにはいないのではと思う程小さい。
彼はその辺りの女子並みに、ともすれば女子よりも小さいのだ。
現に今、女子生徒の荒波に揉まれて流されそうになっている。
「カーディガン伸びる伸びる。」
「わー!ごめん広弥くん!」
「いんやーいつものことだし平気平気。」
「ぎーやー!」
「哉ーそっちじゃなーいから!」
広弥はまた集団に飲み込まれそうになっている自分よりも幾分も小さい彼の腕をしっかりと掴む。
離れたところで背の高い広弥からすればすぐに気付くことが出来るけどこの人波の中では厄介だ。
哉もいつものことなので多少力強く引っ張られたところで気にも留めることはない。
「こんな毎回毎回大変な思いして体育館行くんだから少しくらい減らしてくれてもいーのにね。」
「うち集会多いもんねえ。」
「んー。まあそうねー。」
広弥の記憶の限りでは新年度になってから全校集会は特に多いらしい。同じ委員会の先輩がそうボヤいていたのを覚えている。
それは教師陣が熱血だからということもあるが、明らかに新年度から多く登壇する人物が「原因」なのではないかと、多くの生徒達は睨んでいた。
広弥も少なからずその人物が原因なのではないかと思っている一人だった。
「なーにがそんなにいいんだろうねえチカチカ君はー。」
「もーおれチカチカじゃないよ。哉だよ。」
時々謎のあだ名をつけて呼ぶ、高校生になってから初めての友達の広弥に腕を捕まれながら半ば引きずられるようにして体育館へ向かった。
体育館は人気と夏に差し掛かろうとしてる季節のせいで一歩入るだけで湿気を含んだ空気がどっと迫って来る。
中にいる生徒達も皆一様に汗を拭ったり手で仰いで僅かな風でも摂取しようとしている。
それでも哉はそんな熱気も何ともないようで、ただただこれから来ることへの期待しかない瞳だった。
皆は早くこの暑い時間が過ぎればいいのにと思っている。なのに哉だけが早く全校集会が始まらないかとワクワクしながら時間が過ぎることを待っている。
「早く早く始まらないかなあ。」
「いや、そーんなに楽しみなの?あいつ。」
「だって今日と見れるから。」
哉がそんなにも楽しみにしている理由。それは全校集会に出る人が目当てだからだ。とは言っても目当ては教師陣ではない。
この学校には一年生ながら、有名な生徒が一人いるのだ。
その人物は数々の大会を大小かかわらず全て賞を総ナメにして来たからだ。
あまりに賞を獲るので、一時期あの人は道場破りでもしているのではないかと噂されたほどだ。
そうしてしばらく長々とした校長の話も生徒指導の教師の話も受け流し、全校集会を一旦閉めて期待させたところでそれは始まる。
「では次に、表彰を行います。」
まとめ役の教師が言った時、哉のそわそわした気持ちは最高潮になる。周囲の早く終わりたい生徒達に反して、哉の待ちに待っていた時間が始まった。
「特進科1年1組、天川光稀君。」
教師に呼ばれて壇上に上がるのは、まさに今噂されていた人物だった。
彼がただでさえこの長い全校集会の時間を長くしている張本人といっていいだろう。
いや、実際のところ、彼自身には何も非がない。ただ教師陣の長い話がやっと終わった後に登場するのが彼なだけで、半必然的に彼に辟易とした気持ちが向かいやすいだけだった。
「広弥くん、天川くんだよ天川くん。」
「あーはいはい。」
皆が皆ヘトヘトの空気が流れる中、一人だけ目を輝かせている。
今回は県の習字コンクール、環境についての言論大会、手芸の大会で表彰される。
すでにそれぞれの場で表彰はされたというのに、学校に一度表彰状を渡して再度表彰されなければならないのだから、二度手間だと思う人も当然多いのだろう。
その上天川は何度も何度も表彰される。
また天川か……と思う人も多い。
しかし、それでも哉は目をキラキラさせて壇上にいる天川光稀を見つめている。
「すごいねえ、天川くん。こんなに何でも出来るなんてかっこいいね。」
「んー、まあそこはそれぞれの主観だけど、まあそーなんじゃん?」
いつもと同じくキラキラして瞳で見つめている哉を広弥は軽く流した。
確かに彼はすごい。普通に学生をしているだけじゃ受けないような賞にどんどん受けていて、きっと中には将来に役立つことも多いのだ。
だけど広弥にはよく分からなかった。
「あんなに沢山頑張ってて、すごいよね。」
「うーんそんな崇高な感じではないと思うけどさー。」
包まれるほどの大勢の拍手にも物ともせず壇上から降りて行く天川を、人の山で見えなくなる最後まで哉は見続けている。
「こんな時、おれの背が悔しい……!」
「チカチカは小さいからなあ。」
「もっと大きくなって天川くんを見続けたい。」
「どーしてそこまで憧れてんのかが俺には分からーん。」
哉にとって天川光稀は憧れそのものだった。
自分と同じ程の小ささなのに、堂々としていて優秀。しかし努力こそ怠らず自分の優秀さに胡座をかくこともなく頑張り続ける天川はまるで星を集めたかのようにキラキラと輝く存在だった。
もちろんいつかは仲良くなれたら、と思うことは何度もある。
そんなに憧れてるなら何でもいいから一度話しかけにでも行ってみたらいいんじゃないか?と広弥にも言われたことがある。
憧れるばかりでなく実際に近付いてみたら、とも。
でもクラスも違い共通点もない自分には勇気も度胸もない。
それに相手とは委員会も違うし、天川は部活に入ってないから同じ所に所属して近づくことも出来なかった。
「おれの背があと1cm高くなったらなあ。」
「チカチカ伸びそうなの?」
「きっと1cmなんてあっという間だよ……でもちょっと時間が欲しいけど。」
「ダメじゃんね。」
「大丈夫大丈夫!毎日牛乳も煮干しも摂ってるから!」
「俺は何もしなくてこの身長だけど。」
それにきっと天川を目の前にしたらあまりにキラキラに輝いている姿を目の当たりにして失神でもするかもしれない、と哉は思っている。
ただでさえ普段から沢山表彰をされている彼と自分とではレベルも中身も何もかも違うのだ。
彼のような存在になれるには一長一短の努力では毛先ほども彼のレベルまで掠れない。
だからせめて天川を少しでも長く見られるように身長が欲しかった。
そうして1cmでも背が高くなることで彼へ近づけるのではないかとすら叶わない幻想を抱いてしまう。
自分が広弥と同じくらいの背丈だったらいいのに、と思っていながらもう見えない天川が去って行った方向を名残り惜しく見続けていると、また教室へ急ぐ生徒達の人波に飲み込まれそうになった。
「はいじゃーまた迷子になるから掴んで帰ろうねー。」
「ぐぬう。」
学校に行くと校内放送が流れる。その瞬間周囲の生徒に流れる空気は「まただ……」というもの。
全校集会が好きな生徒はあまりいないのだろう。移動が面倒だったり先生の話をうざいと思ったり。特にこの学校の全校集会は時間が長く、頻度も多いことで評判だ。わざわざ好き好んでいる人もいない。
しかしそれはこの小さな男子生徒には例外だ。
「ぜ、全校集会だって広弥くん!」
校内放送を聞いた途端、目を輝かせながら隣りにいる友に話かける彼こそ、例外の人間、篠地哉だ。
「今日の内容はね、3つあるんだよ。すごく楽しみで……わっ。」
「いやはしゃいどらんでそこでも捕まっとれ。」
すでに体育館に向かって行く人波に飲み込まれ、友達のカーディガンを必死に掴んでいなければすでにここにはいないのではと思う程小さい。
彼はその辺りの女子並みに、ともすれば女子よりも小さいのだ。
現に今、女子生徒の荒波に揉まれて流されそうになっている。
「カーディガン伸びる伸びる。」
「わー!ごめん広弥くん!」
「いんやーいつものことだし平気平気。」
「ぎーやー!」
「哉ーそっちじゃなーいから!」
広弥はまた集団に飲み込まれそうになっている自分よりも幾分も小さい彼の腕をしっかりと掴む。
離れたところで背の高い広弥からすればすぐに気付くことが出来るけどこの人波の中では厄介だ。
哉もいつものことなので多少力強く引っ張られたところで気にも留めることはない。
「こんな毎回毎回大変な思いして体育館行くんだから少しくらい減らしてくれてもいーのにね。」
「うち集会多いもんねえ。」
「んー。まあそうねー。」
広弥の記憶の限りでは新年度になってから全校集会は特に多いらしい。同じ委員会の先輩がそうボヤいていたのを覚えている。
それは教師陣が熱血だからということもあるが、明らかに新年度から多く登壇する人物が「原因」なのではないかと、多くの生徒達は睨んでいた。
広弥も少なからずその人物が原因なのではないかと思っている一人だった。
「なーにがそんなにいいんだろうねえチカチカ君はー。」
「もーおれチカチカじゃないよ。哉だよ。」
時々謎のあだ名をつけて呼ぶ、高校生になってから初めての友達の広弥に腕を捕まれながら半ば引きずられるようにして体育館へ向かった。
体育館は人気と夏に差し掛かろうとしてる季節のせいで一歩入るだけで湿気を含んだ空気がどっと迫って来る。
中にいる生徒達も皆一様に汗を拭ったり手で仰いで僅かな風でも摂取しようとしている。
それでも哉はそんな熱気も何ともないようで、ただただこれから来ることへの期待しかない瞳だった。
皆は早くこの暑い時間が過ぎればいいのにと思っている。なのに哉だけが早く全校集会が始まらないかとワクワクしながら時間が過ぎることを待っている。
「早く早く始まらないかなあ。」
「いや、そーんなに楽しみなの?あいつ。」
「だって今日と見れるから。」
哉がそんなにも楽しみにしている理由。それは全校集会に出る人が目当てだからだ。とは言っても目当ては教師陣ではない。
この学校には一年生ながら、有名な生徒が一人いるのだ。
その人物は数々の大会を大小かかわらず全て賞を総ナメにして来たからだ。
あまりに賞を獲るので、一時期あの人は道場破りでもしているのではないかと噂されたほどだ。
そうしてしばらく長々とした校長の話も生徒指導の教師の話も受け流し、全校集会を一旦閉めて期待させたところでそれは始まる。
「では次に、表彰を行います。」
まとめ役の教師が言った時、哉のそわそわした気持ちは最高潮になる。周囲の早く終わりたい生徒達に反して、哉の待ちに待っていた時間が始まった。
「特進科1年1組、天川光稀君。」
教師に呼ばれて壇上に上がるのは、まさに今噂されていた人物だった。
彼がただでさえこの長い全校集会の時間を長くしている張本人といっていいだろう。
いや、実際のところ、彼自身には何も非がない。ただ教師陣の長い話がやっと終わった後に登場するのが彼なだけで、半必然的に彼に辟易とした気持ちが向かいやすいだけだった。
「広弥くん、天川くんだよ天川くん。」
「あーはいはい。」
皆が皆ヘトヘトの空気が流れる中、一人だけ目を輝かせている。
今回は県の習字コンクール、環境についての言論大会、手芸の大会で表彰される。
すでにそれぞれの場で表彰はされたというのに、学校に一度表彰状を渡して再度表彰されなければならないのだから、二度手間だと思う人も当然多いのだろう。
その上天川は何度も何度も表彰される。
また天川か……と思う人も多い。
しかし、それでも哉は目をキラキラさせて壇上にいる天川光稀を見つめている。
「すごいねえ、天川くん。こんなに何でも出来るなんてかっこいいね。」
「んー、まあそこはそれぞれの主観だけど、まあそーなんじゃん?」
いつもと同じくキラキラして瞳で見つめている哉を広弥は軽く流した。
確かに彼はすごい。普通に学生をしているだけじゃ受けないような賞にどんどん受けていて、きっと中には将来に役立つことも多いのだ。
だけど広弥にはよく分からなかった。
「あんなに沢山頑張ってて、すごいよね。」
「うーんそんな崇高な感じではないと思うけどさー。」
包まれるほどの大勢の拍手にも物ともせず壇上から降りて行く天川を、人の山で見えなくなる最後まで哉は見続けている。
「こんな時、おれの背が悔しい……!」
「チカチカは小さいからなあ。」
「もっと大きくなって天川くんを見続けたい。」
「どーしてそこまで憧れてんのかが俺には分からーん。」
哉にとって天川光稀は憧れそのものだった。
自分と同じ程の小ささなのに、堂々としていて優秀。しかし努力こそ怠らず自分の優秀さに胡座をかくこともなく頑張り続ける天川はまるで星を集めたかのようにキラキラと輝く存在だった。
もちろんいつかは仲良くなれたら、と思うことは何度もある。
そんなに憧れてるなら何でもいいから一度話しかけにでも行ってみたらいいんじゃないか?と広弥にも言われたことがある。
憧れるばかりでなく実際に近付いてみたら、とも。
でもクラスも違い共通点もない自分には勇気も度胸もない。
それに相手とは委員会も違うし、天川は部活に入ってないから同じ所に所属して近づくことも出来なかった。
「おれの背があと1cm高くなったらなあ。」
「チカチカ伸びそうなの?」
「きっと1cmなんてあっという間だよ……でもちょっと時間が欲しいけど。」
「ダメじゃんね。」
「大丈夫大丈夫!毎日牛乳も煮干しも摂ってるから!」
「俺は何もしなくてこの身長だけど。」
それにきっと天川を目の前にしたらあまりにキラキラに輝いている姿を目の当たりにして失神でもするかもしれない、と哉は思っている。
ただでさえ普段から沢山表彰をされている彼と自分とではレベルも中身も何もかも違うのだ。
彼のような存在になれるには一長一短の努力では毛先ほども彼のレベルまで掠れない。
だからせめて天川を少しでも長く見られるように身長が欲しかった。
そうして1cmでも背が高くなることで彼へ近づけるのではないかとすら叶わない幻想を抱いてしまう。
自分が広弥と同じくらいの背丈だったらいいのに、と思っていながらもう見えない天川が去って行った方向を名残り惜しく見続けていると、また教室へ急ぐ生徒達の人波に飲み込まれそうになった。
「はいじゃーまた迷子になるから掴んで帰ろうねー。」
「ぐぬう。」
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