15 / 21
第14話 死にたかっただけなのに
しおりを挟む俺は死ぬつもりだった…
俺が死ねばリヒトという存在はこの世から居なくなり…すべてが終わる筈だった。
三人の戦いも終わり…俺はバルモンとして生きていく…それで良かった。
だが…現実は違う。
勝てない筈のバルモンに勝ってしまった。
俺のこの体はバルモンの攻撃にも耐え…勝ってしまった。
可笑しい。
此処迄体が強いなら、なぜ俺はリヒトに殺された。
その理由は…解ってしまった。
『聖剣』だ。
鞘に入ったままだったとはいえ、俺を殴ったのは聖剣。
それにより、本来の牛鬼の力を出せずに…俺は死んだ。
最も殺した人間に乗り移り自分の者にしてしまう能力はそれでも防げなかった。
だが、それでも『聖剣』は俺にとって致命傷になりうる物なのかも知れない。
◆◆◆
森に入り走り回った。
バルモンを倒してレベルが上がったのもあるが、体の中の野生が目覚めたのか…異常なほどの力が目覚めた気がする。
何しろ周りが止まって見えるほど素早く動け、更にジャンプすれば木々を飛び越え手で飛んでいる鳥が捕まえられる。
「ハァー――っハァー-ツ」
直径で2メートルは超えるだろう大木ただ力任せに殴ったら、その大木だけでなく直線上にある9本の大木も吹き飛ばした。
最早、この力、勇者じゃなくバルモンすら超えたのではないか?
そう思える程に凄い。
そして、何より『聖剣』が効かない。
レベルが上がり進化したのか、この体が勇者であるリヒトの物が原因なのか、前と違って聖剣は致命傷にならない。
あてがって引いてもまず斬れないし、斬れても直ぐに再生する。
最早自分が『邪』なのか『聖』なのか解らない。
魔族でも神でも人間でもない…新たな生物になった、そんな気がしてならない。
聖剣を火山にでも放り込もうかと思ったが…その必要は無さそうだ。
◆◆◆
近くの街に立ち寄った。
バルモンによって破壊の限りを尽くされていたが…それでも生き残りは居た。
「勇者様…」
「遅かったです…」
「リヒト様でも…バルモンは…化け物」
弱いという事は辛い事だ。
この世界は弱い者にとって『生きる事は辛い事だ』
この間まで弱者だったからこそ知っている。
だから、収納袋から、バルモンの首を出した。
語る必要は無い。
ただ、大きなバルモンの首を掲げながら教会に歩いていった。
「バルモンをあの家族の仇を討って下さったのですかー――っ」
「よく見ると勇者様も血だらけじゃないですか、お休みに…」
俺は討伐に来たわけじゃ無い。
自殺に来たのだ…
だが、こんな物でも慰みになるならとつい出してしまった。
「これで妻も娘も浮かばれます」
「ありがとう…本当にありがとう」
俺は感謝なんてされる様な奴じゃない。
そのまま教会に行った。
司教とヒーラーが沢山の怪我人を治療していた。
「勇者…リヒト様…バババルモンを討たれたのですか?」
「ああっ、手を止めるな!治療中だろう…中央に報告して欲しいバルモンは俺が単独で討ち取った…このまま俺に仲間は邪魔だから『単独勇者』を続ける…間違ってもエルザ、クラリス、リタを戦いに引き込むな…それさえ守ってくれるなら…俺はこのまま魔王討伐の旅を続けるとな…」
「なっ…確かに街は壊れてしまっていますが、歴代勇者の中でバルモンを討ち取れるような存在は居ませんでした、一度、聖都に戻られては如何でしょうか? 恐らく褒賞や地位を」
「要らないよ…要件は伝えた、報告だけ頼む…俺は勇者だ魔族は倒せても人を癒す事は出来ない…頑張れよ」
そう声を掛けて俺はそそくさと立ち去った。
自殺しようとした結果生き残っただけだ…
後ろから「「「「「勇者万歳」」」」」 「「「「「リヒト様万歳」」」」」
声が聞こえてきたが…むなしいだけだ。
◆◆◆
私は信じられない報告を聞きました。
「あのバルモンを討ち取った…そういう事なのですか?」
緊急時しか使えない通信水晶が光るから私自らでたら…そんな報告を受けました。
あのバルモンを討ち取った存在がいる…そんな人間が居る訳はありません。
過去に帝国の連勝将軍と言われたブライが3万の兵を率いて戦ったのですが、1日で全滅です。
国単位で戦っても勝てない存在…
バルモンに襲われたら見捨てるしか無い…それがバルモンです。
帝国では確か、もし討ち取る存在があれば侯爵の爵位に王女との婚姻の褒賞も掛けていた筈です。
それでも誰も恐れて戦い等、挑みません。
「何処の誰が…あの化け物を倒したと言うのですか? 一体何人で?5万ですか10万ですか…」
優秀な将軍が3万を率いて全滅。
帝国辺りが総攻撃を掛けたのでしょうか?
ですが、そんな話は聞いていませんよ。
「戦ったのは勇者リヒト、たった1人です」
「冗談を」
「冗談ではありません…これを…」
水晶越しに私が見たのは大きなバルモンの首でした。
「これを、あの勇者リヒトがやったというのですか?」
「はい」
私はあの日、勇者リヒトが誓った言葉を信じていませんでした。
私にとって勇者は孫よりも愛しい存在。
だからこそ教会をあげて尻ぬぐいをしましたが…私は少し、ほんの少しだけ失望していたのです。
あの勇者が真面になるまで…落ち着いた大人になる迄まだまだ時間が掛かると思っていました。
あの日、私と約束した
「教皇様…俺を助けて下さりありがとうございました…これからは勇者としてこれまで以上に邁進いたします」
あの言葉に嘘は無かった。
今の彼は、本物の勇者様になられた。
「それで勇者様は何か言われていましたか?」
「はい『『単独勇者』を続ける…間違ってもエルザ、クラリス、リタを戦いに引き込むな…それさえ守ってくれるなら…俺はこのまま魔王討伐の旅を続けると』とおっしゃっておりました…そして褒賞や地位は要らないと」
この暫くの間になにが起きたのでしょうか?
『素晴らしい』
まるで別人のようです。
ならば、私も彼の願いを叶えるべきです。
『単独勇者』それにふさわしい功績まであげて、望むのですから。
88
お気に入りに追加
394
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる