俺が死んでから始まる物語

石のやっさん

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第14話 死にたかっただけなのに

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俺は死ぬつもりだった…

俺が死ねばリヒトという存在はこの世から居なくなり…すべてが終わる筈だった。

三人の戦いも終わり…俺はバルモンとして生きていく…それで良かった。

だが…現実は違う。

勝てない筈のバルモンに勝ってしまった。

俺のこの体はバルモンの攻撃にも耐え…勝ってしまった。

可笑しい。

此処迄体が強いなら、なぜ俺はリヒトに殺された。

その理由は…解ってしまった。

『聖剣』だ。

鞘に入ったままだったとはいえ、俺を殴ったのは聖剣。

それにより、本来の牛鬼の力を出せずに…俺は死んだ。

最も殺した人間に乗り移り自分の者にしてしまう能力はそれでも防げなかった。

だが、それでも『聖剣』は俺にとって致命傷になりうる物なのかも知れない。



◆◆◆

森に入り走り回った。

バルモンを倒してレベルが上がったのもあるが、体の中の野生が目覚めたのか…異常なほどの力が目覚めた気がする。

何しろ周りが止まって見えるほど素早く動け、更にジャンプすれば木々を飛び越え手で飛んでいる鳥が捕まえられる。

「ハァー――っハァー-ツ」

直径で2メートルは超えるだろう大木ただ力任せに殴ったら、その大木だけでなく直線上にある9本の大木も吹き飛ばした。

最早、この力、勇者じゃなくバルモンすら超えたのではないか?

そう思える程に凄い。

そして、何より『聖剣』が効かない。

レベルが上がり進化したのか、この体が勇者であるリヒトの物が原因なのか、前と違って聖剣は致命傷にならない。

あてがって引いてもまず斬れないし、斬れても直ぐに再生する。

最早自分が『邪』なのか『聖』なのか解らない。

魔族でも神でも人間でもない…新たな生物になった、そんな気がしてならない。

聖剣を火山にでも放り込もうかと思ったが…その必要は無さそうだ。

◆◆◆

近くの街に立ち寄った。

バルモンによって破壊の限りを尽くされていたが…それでも生き残りは居た。

「勇者様…」

「遅かったです…」

「リヒト様でも…バルモンは…化け物」

弱いという事は辛い事だ。

この世界は弱い者にとって『生きる事は辛い事だ』

この間まで弱者だったからこそ知っている。

だから、収納袋から、バルモンの首を出した。

語る必要は無い。

ただ、大きなバルモンの首を掲げながら教会に歩いていった。

「バルモンをあの家族の仇を討って下さったのですかー――っ」

「よく見ると勇者様も血だらけじゃないですか、お休みに…」

俺は討伐に来たわけじゃ無い。

自殺に来たのだ…

だが、こんな物でも慰みになるならとつい出してしまった。

「これで妻も娘も浮かばれます」

「ありがとう…本当にありがとう」

俺は感謝なんてされる様な奴じゃない。

そのまま教会に行った。

司教とヒーラーが沢山の怪我人を治療していた。

「勇者…リヒト様…バババルモンを討たれたのですか?」

「ああっ、手を止めるな!治療中だろう…中央に報告して欲しいバルモンは俺が単独で討ち取った…このまま俺に仲間は邪魔だから『単独勇者』を続ける…間違ってもエルザ、クラリス、リタを戦いに引き込むな…それさえ守ってくれるなら…俺はこのまま魔王討伐の旅を続けるとな…」

「なっ…確かに街は壊れてしまっていますが、歴代勇者の中でバルモンを討ち取れるような存在は居ませんでした、一度、聖都に戻られては如何でしょうか? 恐らく褒賞や地位を」

「要らないよ…要件は伝えた、報告だけ頼む…俺は勇者だ魔族は倒せても人を癒す事は出来ない…頑張れよ」

そう声を掛けて俺はそそくさと立ち去った。

自殺しようとした結果生き残っただけだ…

後ろから「「「「「勇者万歳」」」」」 「「「「「リヒト様万歳」」」」」

声が聞こえてきたが…むなしいだけだ。

◆◆◆

私は信じられない報告を聞きました。

「あのバルモンを討ち取った…そういう事なのですか?」

緊急時しか使えない通信水晶が光るから私自らでたら…そんな報告を受けました。

あのバルモンを討ち取った存在がいる…そんな人間が居る訳はありません。

過去に帝国の連勝将軍と言われたブライが3万の兵を率いて戦ったのですが、1日で全滅です。

国単位で戦っても勝てない存在…

バルモンに襲われたら見捨てるしか無い…それがバルモンです。

帝国では確か、もし討ち取る存在があれば侯爵の爵位に王女との婚姻の褒賞も掛けていた筈です。

それでも誰も恐れて戦い等、挑みません。

「何処の誰が…あの化け物を倒したと言うのですか? 一体何人で?5万ですか10万ですか…」

優秀な将軍が3万を率いて全滅。

帝国辺りが総攻撃を掛けたのでしょうか?

ですが、そんな話は聞いていませんよ。

「戦ったのは勇者リヒト、たった1人です」

「冗談を」

「冗談ではありません…これを…」

水晶越しに私が見たのは大きなバルモンの首でした。

「これを、あの勇者リヒトがやったというのですか?」

「はい」

私はあの日、勇者リヒトが誓った言葉を信じていませんでした。

私にとって勇者は孫よりも愛しい存在。

だからこそ教会をあげて尻ぬぐいをしましたが…私は少し、ほんの少しだけ失望していたのです。

あの勇者が真面になるまで…落ち着いた大人になる迄まだまだ時間が掛かると思っていました。

あの日、私と約束した

「教皇様…俺を助けて下さりありがとうございました…これからは勇者としてこれまで以上に邁進いたします」

あの言葉に嘘は無かった。


今の彼は、本物の勇者様になられた。

「それで勇者様は何か言われていましたか?」

「はい『『単独勇者』を続ける…間違ってもエルザ、クラリス、リタを戦いに引き込むな…それさえ守ってくれるなら…俺はこのまま魔王討伐の旅を続けると』とおっしゃっておりました…そして褒賞や地位は要らないと」

この暫くの間になにが起きたのでしょうか?

『素晴らしい』

まるで別人のようです。

ならば、私も彼の願いを叶えるべきです。

『単独勇者』それにふさわしい功績まであげて、望むのですから。








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