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第47話 傷跡

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結局は死人に口なし。

本来ならオーナーのマイケルを殺してしまった事は大きな問題になるが…文句を言ってくる存在が居ないから『無茶な試合』を持ちかけた挙句返り討ちにあった…そう言われる様になった。

元々ワルキューレは、業界で嫌われていた。

一切の降参は許さず、全ての人間を殺して来た…その独自ルール。

嫌われて当たり前だ。

戦わないで済むなら戦いたくもないが…ワルキューレは見栄えが良く…そして強いという評判があるからこそ『抜き』で世界戦は出来ない。

本当に興行主にとっては最悪の相手だった。

だが、今回泰明がそれを全員、皆殺しにしてしまった。

その影響が今、この業界を震撼させてしまっている。

そして今、大変な問題が山ほど起きている。

『ワルキューレが新人の殺人鬼に皆殺しされる位に弱いのなら、世界最強殺人鬼決定戦の価値は無いのではないか?』

そう裏の社会で噂が飛び交っている。

泰明が、軍人やプロの殺し屋なら良かった。

『世界最強殺人鬼決定戦』は他の物に例えるなら、そうオリンピックだ。

そして、ワルキューレ達はそこでメダルを取れる一流選手。

そう考えて貰えば解りやすい。

だが、もし、金メダリストがずぶの素人にあっさりと負けたら…本当にメダリストなのか?

その金メダルに価値があるのか疑う存在が出てくるだろう。

運が悪い事にワルキューレは全員見栄えが良い。

だからこそ裏で『アイドルとして作られた』そう考える人間が出てきている。

もし、彼女達が生きていたら、その実力を見せつけて払拭も出来るだろうが…

『死体は何も語らない』

お飾りの実力者だった。

そういう人間が沢山出てきている。

「困ったものだ!」

「ラビットファングの件ですか?」

「ああっ…思った以上にやり過ぎた。元から容赦しないタイプだとは思っていたが、あそこ迄とは…ツクヨミ、お前ならあれと同じ事は出来るか?」

「出来る…そう言うのが正しいのでしょうが…あれはなかなかできません! 種を知ってしまえば『殺す事』『制圧する事』は出来るかも知れませんが…あの後の残酷行為は恐らく私とて出来ない可能性が高いと思います、神9の中では未熟なサクヤヒメは…今」

「ああっ、聞いている…戦う事への恐怖からもう…」

「はい、廃人の様になり部屋から出て来なくなりました…今も恐怖からか毛布にくるまり、食事もとらず部屋で震えています」

無理もない。

ただ殺されるだけでなく、その後の凌辱は半端でない。

手足や乳房を切り取り挙句の果てにはそれで飾り物まで作っていた。

男の私ですら嫌悪する映像。

殺人鬼とはいえ女のサクヤヒメがそれを直接見て恐怖しない訳はない。

「もう、引退させるしかないか?」

「壊れてしましたね…もう戦いの場に立つ事も難しいかも知れませんね」

「そうか…また葬儀をあげるのか…今迄の功績もある、引き篭もって生涯暮らせる金位は用意してやるが…ハァ~」

「神9が神7になりましたね…」

「それもそうだが、泰明、まぁラビットファングの事だが…ぶっちゃけツクヨミ…お前は戦いたいか?」

「戦いたくないですね…その前に薬品を女に使うタイプは個人的に好きになれませんから避けたいです」

薬品を使い自由を奪い凌辱を与えて殺す。

『負けたら』

そう考えたら戦いたいとは思わないだろう。

「そうか…」

これも困った事に一つだ。

ボクシングで言うなら世界ランカーを纏めて葬り去った状態だ。

今現在ラビットファングと戦いたいという人物はいない。

「ツクヨミが戦いたくない…それじゃ仕方がない事だな」

ツクヨミが戦いたくない…その事実が問題なのだ。

◆◆◆

泰明の戦う次の舞台は『日本最強殺人鬼決定戦』だが…

日本一の殺人鬼を決める戦いなのだが…

「神代様、続々と大会の出場辞退の連絡が来ています」

「またか? 原因はラビットファングか?」

「はい…そのラビットファングが出るのであれば、出ない…そういう連絡です」

まぁ当たり前だ。

マネージャーやオーナーとしては自分が鍛え上げた『殺人鬼』が殺されたら目も当てられない。

勿論、こう言う大会だから『死ぬ』事もある。

戦う側の人間は『勝利』を信じて戦うのだ。

勝利すれば、どんな願いでも1つ叶う。

その代償が『命』の場合もある。

だが、勝てるからこその挑戦であり…確実に負ける。

それが解っていて挑む者はいない。

このままじゃ興行その物が潰れかねない。

どうするか?

このままではもう…潰すしかないのか…

仕方がない…

「今回の大会にはラビットファングは出ない…そう伝えてくれ」

「ハッ…でも宜しいのですか?」

「何がだ?!」

「日本最強殺人鬼決定戦は本来、日本で1番強い殺人鬼を決める大会です! ワルキューレを倒した程の実力者の出場を運営側が締め出したら…見学者側が黙って無いかも知れません」

ハァ~確かにそうだ。

「ならば、泰明を出場前からシードとし…今回の大会は2位の決定戦、最後の1人になった瞬間に賞品を授与…希望があれば、真の優勝決定戦とし、泰明と戦わせる…それでどうだ?!」

「どうでしょうか? それはそれで、戦いもしないのにと…文句が出ると思うのですが…」

「ならば、どうすれば良いと思う?」

「私に聞かれても困りますよ」

「確かに…」

今は保留にするしか無い…。





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