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徳丸SIDE: 器じゃない
しおりを挟む俺はスマホで119番に電話を掛けた。
あそこ迄やる奴だ…この事に気が付いていない筈はない。
どうにかスマホのボタンを押してスピーカーを押し救急車を呼んだ。
指がかろうじて動く…多分これが田向の慈悲なのだろう…
それだけ終わらせると…俺は意識を手放した。
◆◆◆
此処は何処だ…
白い天井に壁にカーテン、鼻に刺してあるチューブ…そうか病院…だ。
体が動かない…手足は包帯でぐるぐる巻きだが…力を入れても動かせない。
俺の人生は終わったんだ…それが解った。
あの時、俺は足の骨を折った…その状態の俺の両足を彼奴はナイフで滅多刺ししていた。
凄い激痛が手足に走るが動かせない。
俺の手は潰されている。
田向に殴られて潰された時に俺の指の数本が飛び散ったのが見えた。
骨も飛び出しぐちゃぐちゃだった。
俺はきっと…もう真面に物を持つ事も出来ないだろう。
俺は…爺に憧れた。
自慢話で『喧嘩上等』『タイマン無敵』そんな爺に憧れた。
だが、親父は俺に言った。
「親父は俺には絶対に不良になるな…そう言ったんだぞ」
俺の親父は…多分喧嘩は強い。
だが健全に武道をしていた。
柔道三段、空手五段、剣道二段。
それが俺の親父だ。
だが、俺は親父を馬鹿にしていた。
幾ら試合に勝ったと言っても、インターハイで優勝したと言っても、使えなくちゃ意味が無い。
爺はなんなんだ?
自分の喧嘩自慢はするくせに人には『暴力NG』とかふざけている。
だが…親父と爺に言われるまま、俺は暴力を使わない人生を歩んでいた。
◆◆◆
そんな俺に転機が訪れたのは小学生3年生の時だった。
抵抗しないからと、クラスの奴らが俺にちょっとした虐めをしていた。
掃除当番、給食当番全部押し付けてきやがった。
殴っても殴りかえさない…そのせいだ。
「徳丸は木偶の坊だから、何しても怒らないから」
「あいつは奴隷な」
「女より弱いなんて最低…皆で無視しよう」
幾ら口で言い返しても無駄だ。
友達も居ない…好きな女の子にも馬鹿にされる毎日…地獄だ。
そして虐めはエスカレートして行く。
「徳丸…土下座しろよ」
「僕、何もしてないよ」
「関係ねーよ、ムカつくから土下座だ」
「土下座…土下座、土下座ぁぁぁー-」
「土下座」
「土下座」
給食のデザートも取られ続けても我慢した。
一人で掃除当番を毎日させられても我慢した。
だが…何もしていないのにクラスの皆に『土下座』これは我慢できなかった。
「うるせーよ」
「徳丸の癖に生意気だぞ」
「そうだ、そうだ、また殴られたいのか?」
「頭にきた…俺は全日本黒狼会、初代総長徳丸の孫だぁぁぁー――っ」
俺は思いっきり、虐めの首謀者を殴った。
そして、その暴力は止まらなかった。
「止めろ、止めてくれー――っ、いや助けて、ごめ」
「殺してやんよー-、ほら今までされた分全部返してやんよ」
「徳丸止めろ…もう伸ちゃん動けないよ…」
「知らねーな」
「可哀そうだから止めてあげなよ~」
「だったら、良子お前が身代わりだ」
「いやぁぁぁー-やめてー-っ」
俺は馬乗りになり良子を殴った。
「いや、いやぁぁぁぁー――助けてー-っ」
スカートを脱がしそのまま蹴りを入れて放り投げた。
「はぁはぁはぁ…次は誰だ」
誰も名乗り出なかった。
◆◆◆
その次の日から全てが変わった。
「今まで俺が給食当番と掃除当番1人でやっていたから、これから、伸二一人でやれよ…」
「なんで僕が」
「また殴られたいのか…次は殺すかもな」
「ひっ…解った」
「良子…なんだ白か色気のないパンツだな」
スカートをめくった。
「いや、やめてよ、いや」
「あのさぁ、殴られるのとパンツ見せるのどっちが良い? 好きな方選べよ」
「ひっ」
俺の好きだった奴は良子だった。
だが見下すような態度が許せなかったから殴った。
「今度から俺がめくるんじゃなくて、俺が見たいと言ったら自分からめくれよな…ほら早速めくれよ」
あはははっ泣きながら、めくってやんの。
ついでにませていた俺は、クラスの女の子でかわいい子全員と無理やりキスをした。
多分、このクラスの可愛い女の子の殆どのファーストキスは多分俺だ。
まぁガキだったからその程度だ。
だがこれが俺のスタートだ。
『暴力は正しい、強い方が良い思いが出来る、弱い奴は何をされても泣き寝入り』
強ければなんでも手に入る。
爺が作った黒狼会はまだ残っていた。
力をつけていつか、そこの頭になってやる。
そう思い喧嘩に明け暮れていた。
そして…俺はとうとう黒狼会の頭に上り詰めた。
初代の爺と当時のナンバー2はまさに伝説となっていた。
だが…その二人を妬んだ田向という野郎に裏切られ…今ではこんな小さな族になっていた。
『俺が来たんだ、またいつかは全国制覇だ』
初代総長の孫の俺だ…爺の意思は俺が….
「あのな、親だから言うがお前に族は無理だ」
「俺は親父とは違う」
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「族にもならなかった親父に言われる筋合いはねー」
「そこ迄言うなら、もう何も言わん…だが、親なりに一言言わせて貰う…『本当に凄い奴は強いんじゃない、怖いんだ』」
「何を言い出すんだ親父」
「俺の親父も偉そうな事未だに言うし、お前も喧嘩の自慢をするが、俺にはどう考えてもお前達が『人を殺せるような怖さ』を持っているとは思えない」
「親父、何を言っているんだ、俺は殺しなんてしない、そんなのは爺だってしてないだろう?」
「だから駄目なんだ…本当に危ない奴は違う…人を殺すのも、目を潰すのも、女を犯すのも、笑いながら出来るんだ。お前にできるか?」
「俺は」
「出来なければ、いつか潰れる…逆にそれが出来る外道なら、親子の縁を切る」
「親父…」
「まぁ、いつか解る」
◆◆◆
ようやく今になって親父の言っていたことが解った。
爺は、そこ迄強くない。
恐らく、裏で竜二が工作していたから『強いまま』でいられた。
多分、本当に強かったのは『田向竜二』だったんだ。
それを怒らせたから潰されたんだ。
そして俺は今回『本当の怖くて強い奴』とぶつかって潰された。
それだけだ…
人をおもちゃの様に跳ねて、笑いながらナイフを刺す。
俺にはできない…器じゃなかった…それだけだ。
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