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最終話 南へ
しおりを挟む少し遠くでゴブリンが女を抱えて走っているのが見える。
どう見てもお金は無さそうだ。
仕方が無い、行くだけ行くか…
「リヒト、あれ助けるの?」
「お金は無さそうだけど?」
「レイラ、フリージア…只の様子見だ」
リダとミルカは、少し辛そうな顔をしてこちらを見ているが…知らんな。
俺はゴブリンの一体を斬り伏せた。
ガタガタと女は体を震わせている。
周りにはまだ沢山のゴブリンが居る。
「おい、お前人間の男に抱かれる人生とゴブリンの苗床どちらが良い?」
「なにを…」
「だからー-っ!助けてやっても良いが…お金が無さそうだから、その場合は代金としてお前を『奴隷』として売り飛ばす…」
「鬼、悪魔…人の…足元見るなんて…」
まだ奴隷の方が幸せなのに…馬鹿な女。
「あっ、そう…ならお前は要らないや…それじゃ」
俺は女を見捨てて仲間の元に戻った。
◆◆◆
「どうだった?」
「お金も無いし、助かりたくないみたいだから…放って置いた、行くぞ」
「そうね…行こうか」
俺はこれで良いと思っている。
所詮、あの女は他人…どうでも良い存在だ。
こんなのを気にしても仕方が無い。
北の魔族領の傍では、次の勇者が生まれるまで沢山の人が死んでいく。
あの後、どういう基準か解らないがフリージアの聖女のジョブが消えた。
リダやミルカがワイバーンに敗北してジョブが消えたから、その影響からかも知れない。
だから、もう聖女じゃない。
これで本当に縁が切れた。
だから、俺はその事を教皇に報告して通信水晶を投げ捨てた。
だから此処に居るのは『ただのレイラ』『ただのフリージア』『ただのリダ』『ただのミルカ』そして元から何者でもない俺だ。
なんの責任も義務も無い。
「私は…」
「あれは可哀そう…」
リダとミルカは剣と杖を強く握っている。
「リダ、ミルカ、お前等助けたいのか? なら勝手にすれば」
「リヒト…ありがとう、ミルカ行くよ」
「うん」
「ああっ、但し助けるなら、お前等は此処に置いて行く…仲間じゃなくなるから勝手にして良い」
「「リヒト…」」
二人は武器から手を放した。
これで良い…
「行くぞ」
「「「「うん」」」」
俺達はもう誰も救わない。
救ってやっても…こちらを助けてくれない存在ならそれで良いじゃないか…
父親でも母親でも、自分の子供だから助けるんだろう。
よその子を助ける為に家族が犠牲になると解っていても助ける。
そんな事は普通はしない。
俺にとって此処に居る4人だけが家族だ。
あとは…カイト。
あとは精々、俺が生まれた村、ジムナ村の人達…そこまでがギリギリ助けたい…そう思える人だ。
『それ以外はどうでも良い』
赤の他人が何万死のうが…関係ない。
少なくとも俺はそう思っている。
「此処はもう聖教国との境界を越えて帝国領だ…此処から先、ようやく住処を探せるな」
「そうだね、家を買うかアパートメントタイプの街の建物を買うか迷うよね」
「私は、リヒトが一緒ならどこでも良いわ…寝室だけ大きければ問題は無いよ」
「私は…任せる」
「私も…」
「そうか? これから住む場所も家も、皆で住む家だから、リダもミルカも遠慮しないで良いんだぞ! レイラは妻…他の皆は…そう俺の娘みたいなもんだ」
「リーヒートーー-ッ 一線超えておいて、なにを言っているかー-なー-」
「あっごめん…フリージアも…妻みたいな者だ…」
「そうそう、解れば良いわ」
「でも、私は、正式にリヒトくんのお嫁さんなんだけどね」
「リヒト…どう言う事?」
そう言えば、しっかりギルドに婚姻届けを出しているのはレイラだけだ。
「解ったよ、フリージアも…次の街で入籍するから…それで良いだろう?」
「うん…絶対だからね」
「「あの…リヒト、私達も」」
「さぁ、リヒトくん行こうか」
「そうそう…早く行こう」
「ちょっと、レイラもフリージアもなんで邪魔するの」
「そうだよ…邪魔しないで」
この4人が居てくれれば…それだけで凄く楽しい。
此処にカイトが居れば…
それは望み過ぎだな…
チートも無い、勇者でも、英雄でも無い。
だが…それでも俺は凄く幸せだ。
だって…俺の大切な者は殆ど傍にいるんだから…な。
FIN
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