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第49話 絶望と怠惰 王国SIDE
しおりを挟む「駄目だ、もうこの村は捨てて逃げるしかね―――っ」
「誰かお母さんを、お母さんを助けてよー-っ」
「お前だけでも逃げるんだ、お母さんは諦めろー――」
「嫌だ、嫌だよー――お母さんー-っ」
村をオークの群れが襲ってきた。
「誰か、誰か助けてー-っ娘が、娘がー-」
まるで悪夢にしか思えない…
村の自警団も簡単に殺され…依頼した冒険者6人は男はこん棒で頭を潰され殺された。
女の冒険者はそのまま連れていかれたから…これから先は死ぬ以上の苦しみが待っているだろう…
「わはははっ、終わりじゃ…もう終わりじゃ…」
村長は気が狂ったように「終わりじゃ」と叫んでいる。
確かにもう終わりだ…こんな事なら、村を捨てて逃げるべきだった。
この村に騎士が駆けつけてくるころにはもう、村は滅んでいるだろう。
『勇者』なんで来てくれなかったんだ。
本来ならこの村に勇者パーティが立ち寄る予定だった。
領主様から、勇者パーティが立ち寄るから歓迎するように言われていた。
勇者達は魔族や魔物を狩りながら旅を続けてくれている。
その『勇者パーティ』が…こない…幾ら待っても来なかった。
この村は昔からオークの被害が多く出ていた。
だから、皆でお金を出し合って冒険者を雇い、自分達で自警団を作り対処してきた。
それがもうすぐ終わる…そう俺達は思っていたんだ。
『勇者カイトが終わらせてくれる』そう信じていた。
オークというものは数が増えるのが早い。
女を攫い苗床にし、数を増す…
数が増え、膨れ上がったオークと戦うのは難しい。
だが『勇者パーティ』が此処に来れば、全てが終わる。
そう思っていた。
『だから待っていた』
村を捨てて逃げずに待っていた。
だが…来なかった。
歓迎の準備をした…
喜んで貰えるように貧しい蓄えから…頑張って用意したんだ。
『だが来なかった』
「壁が壊された…終わりだぁぁぁぁー――っ」
本当の終わりだ…
「豚野郎死ねぇぇぇぇぇー―――」
勝てない…俺は只の農民だから…
「ぶひぃぃぃぃー――っ」
本来なら1か月前には勇者が来てくれた筈なのに…
女神よ…我らを見捨てたのか….
勇者カイト…我々を見捨てたのか…
信じたくないが…見捨てたのか…本当に。
『勇者…俺は、お前を…許さない…からな』
グシャッ…
「…」
◆◆◆
密偵から報告が入った。
「勇者パーティが幾つもの村や街に寄らずに旅をしているだと!」
「はっ! それで間違いはありません」
儂事、ガルア4世は驚きを隠せない。
勇者カイトが、大きな街から大きな街へ途中の村や小さな街に寄らずに進んでいる…そういう報告だった。
その為、勇者が立ち寄らなかった村や街で多くの被害が出ている。
「信じられぬ」
「ですが…真実でございます」
密偵が嘘を言うわけが無い。
嘘で勇者を貶めたら死罪が待っている。
そんな事をするわけが無い。
何故このようになっておるのだ…解らぬ。
聖教国リキスタンからお目付けを兼ねて2人のヒーラーが派遣された筈だ。
なのに、一体何をしているのだ。
「それで一体何故、勇者カイト達は大きな街から街へ移動しているのだ…まさか少しでも早く魔王城にたどり着こうと強行で旅をしているのか?」
前の勇者レイラは鍛えながらゆっくりと歩を進め、実に10年以上かけて魔族領にたどり着いた。
そこ迄時間を掛けながらレイラは魔族に簡単に負けた。
そんな早く旅を続けては…充分な力がつかず不味い筈だ。
だが『勇者の旅は魔王を討伐する旅』
魔王を倒す為に急ぎ旅をする勇者を誰が責められよう。
強行軍であるなら、狩っている魔物の数が少ない事も仕方が無い。
『英雄色を好む』
随分と用意した施設に入り浸っているようだが…それも仕方が無いだろう。
「それが…その…申し上げにくいのですが…サロンのある街のみに立ち寄られている様です」
「なんの冗談だ」
「冗談ではございません」
馬鹿な…勇者の旅というのは聖女とは違う意味で『救世』の旅でもあるのだ。
魔物に襲われている街や村を助け、自分の力をつけ、救う。
そうする事で『勇者の知名度』は上がり、世の中に『希望をもたらす』存在として認知されていく。
そして自分もより強い存在になる。
前の勇者はストイックに『それを行っていた』
だが…今の勇者カイトは『それを行っていない』という事だ。
どおりで沢山の被害報告が上がってくるわけだ。
「聖教国からお目付け役を兼ねてヒーラーが派遣された筈だが、それはどうなっている!」
「それが…勇者やそのパーティの仲間と体を重ねた事で取り込まれてしまったようです。一緒にギャンブルやお酒、夜の生活を楽しんでおります」
「完全に機能しておらんじゃないか…」
「はい」
これが本当に『勇者の姿』なのか…
儂はリヒト殿との話の中で『15歳の少年少女にこれからの長い時間不自由を強いる』そう言われ…今回の提案を受け入れた。
勇者は魔王に勝てば栄誉が手に入るが、そこ迄が長い。
また負けて死ぬ可能性すらあるから…不憫に思ったからこそ、此処迄の事を許した。
それはあくまで『英雄色を好む』この範疇での話だ。
世界を救う『英雄』だからこそ『色を好む』のを許した。
だが『英雄』でないなら、そんな物を与える必要は無い。
今、勇者カイトが狩っている程度の魔物なら『一流冒険者』でも狩れる。
『人を救う』その事に動かないのなら、それは勇者ではなく、只の冒険者だ。
これから、勇者達をどうするか…メルカリオ教皇様と話す必要があるだろう。
今のままでは、恐らく歴史の中で、最悪の勇者として名前が残りそうな位酷い。
まさか…
リヒト殿は…この事に早くから気がついていたのか?
だから、泥船に乗るのを避け…逃げ出した。
密偵の話では『聖女フリージア』はある時から遊びに加わらず『ロマンスクラブに行かなくなった』と聞いた。
そこで何があったのか迄は解らない。
だが、聖女フリージアは、そこで立ち直ろうとした…そうとも取れる。
だから『リヒト殿が泥船から助けた』
流石に…これは考えすぎか…
15歳の少年にそこ迄出来る筈はないな。
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