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第45話 王と
しおりを挟む今度は国王ガルア4世か…
本当に面倒くさい。
「リヒト殿、教皇様から聞きましたぞ、聖女に元勇者まで抱えながら、戦闘とは一切関らずに生きて行くとは本当の事か?」
きっと教皇が告げ口したんだな。
「その通りです。怠惰で退廃的な生活をしながら、戦闘とは無縁の人生を楽しく送るつもりです」
「今も魔族に襲われて、死に瀕している人が居るなか、力ある者として余りに無責任とは思わぬのか?」
「お言葉ですが、私は正式に勇者カイトから役立たずとして追放されています。それにレイラは正式に裁判で『犯罪奴隷』にされました。つまり、私を役立たずと判断したのは『勇者』です。レイラの犯罪奴隷を決めたのは『国』という事になります。もし、私達が戦力になると言うのなら…それを見誤った者に責任を取って貰う必要があると思いますが、如何ですか?」
流石に『勇者』や『貴族』『裁判官達』に謝らせる事は出来ないだろう。
幾ら王とはいえ、裁判で決まった事を覆す事は出来ない筈だ。
「それが、カイト殿達、勇者パーティのメンバーと話したのだが『あれは俺(私)の間違いだった。戻ってくるなら詫びる』と言っておる」
ヤバいな…しかし、なんで俺に固執するんだ。
しおりを見れば、俺の仕事は全部出来る。
更に、俺の進言どおりにしたなら、よりカイトのハーレムパーティが固まるから『俺は邪魔な筈』だ。
「それではレイラの件はどうなるのですか? たった一度の負けで『犯罪奴隷』そんな話は他に聞いた事がありません。もし今も戦える存在だとしたら…その裁判は間違いだった事になりませんか。戦いの中で挽回させることも出来た筈です」
「確かにそうかも知れぬ。ならば、当事者である裁判官と原因となった賢者ジャミルの実家である公爵家に責任を取らせ、儂が頭を下げれば許して貰えるのか」
ヤバい。
これじゃ逃げられなくなる可能性が高い。
そうだ…
「それもそうですが、もし我々に戦いの道を選ばせるなら…レイラに掛かった治療費の負担をして頂けますか?」
「それは勿論だ…では『勇者の謝罪』『裁判に関わった者の処分』『儂の謝罪』『レイラに掛かった治療費』で戦いに加わってくれる…それで良いか?」
「それで構いません。ですが高額ですよ」
掛かった。
「この際だ、構わぬ」
「それでは、サービスしまして『王城』と『宝物庫の宝半分』で手を打ちます」
「冗談はよせ。王城と宝物庫の宝の半分だとふざけるでない…王である儂に吹っ掛ける等言語道断」
いや、ところがそうでもない。
「王ならご存じの筈です。レイラを私が奴隷として購入した時は手足が1本ずつ無かった筈です。王ならこの状況から手足を生やす方法に何を使ったのか解ると思いますが」
あの時の謎の男性ありがとう…
おかげで言い逃れが出来る。
「まさか…」
「はい、エリクサールに匹敵する薬を使っています。エリクサールは現存する物はこの世界に8本。その多くは教会が管理しており、教皇様や王様の命に係わる場合でも使えない品です。その価値は王城2個分とも3個分とも言われています。劣化品なので半額に負けておきますよ」
「エリクサール…そんな人類の至宝をレイラに使った…そういうのか? 9本目のエリクサールその価値はとんでもない価値だ…それこそ献上すれば貴族の地位や領地を与え莫大な金額で買った…」
あの謎の男に感謝だ。
「それで、劣化版とはいえ、エルクサールの代金は王城以上にするのは確かな筈です…お支払い頂けるという事で、王城と宝物庫の宝半分、頂けるという事で宜しいのですね」
流石にこれは払えないだろう。
「待って下され…それは無理だ」
「当たり前だと思います。だからこそ『全てが間違ってなかった』という事で終わらせませんか? そうすれば『勇者の威厳も裁判所の威厳も公爵家や王家の威厳も傷つかない』それで良いじゃありませんか?」
「それではリヒト殿は…戦ってくれぬと言うのか?」
「はい…決して表舞台に立たず、怠惰な人生を楽しみながら生きて行こうと思います」
「それで民に犠牲が沢山でてもか…」
「勿論民などどうでも良い! 世界を救うために戦い敗れた勇者を世界は救わなかった。沢山の人を助けたレイラを誰も助けようとしなかった。だったら『もう関わらない』それだけです」
「だが、それでも」
「いい加減にして貰って良いですか! ガルア4世様、貴方は王だ。裁判の前に幾らでも手を打つことが出来た筈です。レイラと共に戦った騎士や関わった貴族、彼らが何故奴隷市場に顔を出さなかったのでしょうか? 少なくとも買い取り、その後の生活の保障位は出来た筈です…それ以前に、他の人間や過去の勇者が魔族に負けてもお咎めになった事は無かった。寧ろ、年金や慰労金を貰った存在も多く居ます…何故レイラだけが、この様な状態になったのか…巷では王族に連なる公爵家の子息が賢者だったから、そう言う話もありますが…お詫びというならその方たち全員から頂かないとなりませんね」
「だが、流石にそんな事は出来ぬ…別の事で償うから戦って貰えぬか…儂らの事は良い、民の為にじゃ」
その民も敵なんだよ。
「その民も誰もレイラを助けなかったではないですか? 奴隷市場でレイラの状態を見て、皆がその場を後にした。つまり民も見捨てた…そう言う事だろう? 正直言えば『恨みしかない』それを押さえて『関わらない』そう言っているのが解りませんか?」
「だが、元勇者パーティのリヒト殿、聖女フリージア、元勇者のレイラの戦力を手放すのは惜しすぎるのだ」
いい加減煩いな。
「ガルア4世様。今現在、勇者カイト達は魔王討伐の旅に出ていて不在。そして我々はそれに次ぐ戦力だと言うのなら…怒らせて大丈夫ですか? 例えばどこかの国の王様が私達を怒らせて敵対して、王城に攻め入って来られたらどうするのですか? 防げますかね?」
「リヒト殿? 冗談は…」
「勿論これは冗談です。ですが、もし謝罪というなら、勇者のカイトには非公式ではなく『公式の場』での謝罪を俺は求めます。そしてレイラの裁判が間違っているのなら関わった者の謝罪は『全員が犯罪奴隷』にして初めて同等の謝罪かと思います。言葉の謝罪ではなく『トード公爵家の全員』『裁判官』『バルチール牢獄の責任者』さらに刑の執行にサインした『大臣』は全員犯罪奴隷として奴隷市場行き。最低でもこれだけの罪が発生しますよ。更に言うなら、それを止めなかったガルア4世様に教皇様にまで責はあるとも考えられます。それに費用として王城と宝物庫の宝半分を徴収します」
「無理だ…」
「その通りだと思います。だから、今迄通りで良いじゃないですか?リヒトは無能だから勇者パーティを追放された。レイラは魔族に敗北して役立たずだから『犯罪奴隷』になった。そして聖女フリージアは戦いが苦手だから『救世』を選んだ…そのままで行けばだれも責任を取らないで良いし…揉めない」
「それでリヒト殿達はどうすると言うのだ」
「南に進み、魔族とは無縁な場所で、平和で怠惰な人生を送ろうと思っています。表舞台に立たず生きて行くのでこのまま放逐してしまうのが1番ですって…」
「最早なにを言っても駄目なのだな。『悪かった』としか儂には言えぬ。そして今の話を聞いて、本当に『償え』という話であれば、『感情に任せ功績のあった者を不当に『犯罪奴隷』にした』のだから、それに関わった当事者を『犯罪奴隷』にせよ。というのも当たり前の話だ。リヒト殿もクビにしたのは勇者、そう考えたら全部こちらの落ち度だ…すまぬな。この通りだ」
まさか王が謝るとは思わなかった。
「…」
「それでじゃ…もう儂は戦えとは言わぬ。今回の話はリヒト殿の言う通りにしよう。その上でレイラの分の慰謝料として幾ばくか儂が払う事にする」
なにか裏があるのか?
今一読めない。
「それはありがとうございます」
「その代り、なにか必要な事があった時に『交渉』のテーブルに着きたい…だから通信水晶はそのまま持っていてくれぬか?」
通信水晶を返却して…繋がりを絶とうと思ったのに、甘く無いな。
「解りました」
早目により南に逃げた方が良いな。
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