29 / 67
第29話 ギルド婚
しおりを挟むかなり南に進んできた気がする。
もう既にお金は多少贅沢しながら2人して一生暮らせる位の額は溜まっている。
尤も聖都(聖教国リキスタンの首都)は物価が高いと聞いたので、そこで暮らすにはもう少し稼いだ方が良いかも知れない。
俺もレイラも貴金属やブランド品に興味はない。
精々が『美味しい物』を食べたい。
それ位だ。
此処迄くると、最早安全に近い。
この近隣で一番強い魔物でキラーウルフ。
偶にオークがでるが、それもほぼ単独。
もう余り恐れることは無いな。
だから、討伐もレイラと一緒に出ているし…それが終われば…まぁいつもの通りだ。
「今日の夜は、特製ステーキカレーだ」
「うわぁ、今日も凄く楽しみ!しかし、リヒトくんのレパートリーは凄いね」
この世界では割と早くに親を亡くしたし、前世でも自炊していたからレパートリーは多い。
尤もご覧の通りお子様メニューばかりだけどな。
「まぁね、家事は得意だからな…それにレイラみたいに喜んで貰えるなら、それが励みになる」
「そう? 食べるのは任せておいてね」
「それじゃ沢山作るから、じゃんじゃん食べてくれ」
「うん、沢山食べてスタミナをつけないとね」
流石、元勇者、気持ち良いほどの食べっぷり。
モリモリと食べてくれる。
「そうだね」
「今日も凄く美味しいし、凄く幸せ!」
笑顔のレイラに凄く癒される。
最近は後片付けをそのままレイラがしてくれるのだが…
「それじゃ、さっさと洗っちゃおうね」
今のレイラの恰好は可愛らしいキャミソールに下は履いてない。
同じ事を何度もいうが『履いてない』
そんな状態でお尻をフリフリしながら鼻歌交じりで皿洗いをしている。
「そうだね、うん、だけど…それ」
「あはははっ、ほら、私『そっち』を頑張るって言ったじゃない?だから何時でもしやすい様にね」
かなり、ぶっ飛んでしまったがこれはこれで嬉しい。
まぁ、新婚みたいな物?だ。
『新婚みたいな物』だから仕方が無い。
『新婚』
そうだ、よく考えたら俺達はまだ結婚していない。
ちゃんと結婚して置いた方がレイラの事を考えたら良い。
この世界の結婚には二通りある。
『教会婚』と『ギルド婚』だ。
教会は何となく、嫌な予感がするから『ギルド婚』が良いかも知れない。
今迄、かなり教会とは良好な関係を築いていたから、問題はないと思うが、勇者パーティに絡むから少しでも距離は置いた方が良い。
履いてないレイラの綺麗なお尻に手が出そうになるが、今日は我慢しかないな。
「レイラ、少し出かけてくる!」
「今日は…そのしなくて良いの?」
キャミソールを少したくし上げ噛んでいるレイラに後ろ髪をひかれるが、此処は我慢しかない。
ヤリ始めたら、今日もまた外に行けなくなる。
「今日はどうしても外せない用事があるから、それと午後から一緒に出掛けるから、用意して置いてくれる」
「少し寂しいけど…うん解った」
ちょっと悲しい目をするレイラに見送られながら、俺は宿を後にした。
◆◆◆
結婚と言えば、前世だと指輪だがこの世界では『ネックレス』の方がメジャーだ。
特に冒険者の間では軍の認識票に似たドッグタグみたいな物に愛を刻んだ物を用意して、お互いに身に着けるのが流行りの様だ。
これは別にルールは無く、一番重要なのは書類の提出。
ギルドに『夫婦』になった。
そういう書類を出せば、俺が亡くなった後に財産が全部レイラに行くし、逆も同じだ。
そういう意味で教会より冒険者なら『ギルド婚』の方がよく利用される。
よく考えたら『一番最初にしなくちゃいけなかった』
もし、今の状態で俺にもしもの事があったらレイラが困る事になる。
失敗した。
俺はまず古着屋に行った。
この世界ではオーダーメイドか古着しかなく、オーダーメイドは時間が掛かるから急ぎなら古着一択となる。
「すみません。女性用のドレスと上等な男物の服を下さい」
「あいよ…この辺りが女性用のドレスだよ。それと男物はこの辺りだな」
この世界は余程の事がなければ、ウエディングドレスは出回らない。
ウエディングドレスを着るのは余程の金持ちか貴族や王族だけ。
そして、思い出の品だから、余程の事が無い限り手放さない。
だから、古着には無い。
やはり探しても見つからないな。
なにか代用できそうな物はないかな。
よく考えたら、手足の事もあるし、う~ん。
なんでこれがあるのか解らないが『チャイナドレス』があった。
色も白。
丁度よい。
「ドレスはこれで、俺の服はこれで良いや、あとは白くて綺麗な布をくれ」
「あいよ」
これで、服は整った。
あとは貴金属だな。
貴金属店に飛び込み、
「すいません、簡単なお揃いのリングを下さい。デザインが凝って無い奴、出来たら2つだけしかない物があれば、なお良いのですが…」
王都とかでなく地方の街だから高級な物は少ない。
この世界のリングは後ろが切れていて調整は自分でするから寸法を知らないでも問題がないから楽で良い。
「この辺りでどうだい? まぁ何も変哲が無いリングだが…ハンドメイドで2個しかないよ」
飾り気のないただのリング。
結婚指輪には丁度よい。
「それを下さい」
これで指輪も手に入った。
後は冒険者ギルドに言ってあらかじめ、後でくるって事を連絡すれば準備万端だ。
「冒険者ギルドへよう」
受付嬢の話を遮り話をした。
「すいません、後でギルド婚をお願いしたいのですが、本日は空いていますか?」
「え~とギルド婚は書類をだしてタグを受け取るだけですので何時でもできますが」
確かにそうだが『祝って貰えるのは1日1組だけの筈だ』
「いえ、酒場の代金を今日一日俺のおごりにしたいのですが」
受付嬢は少し驚いた顔をしている。
「確かに大きなギルドではよくある話と聞いていますが、ここはこの通り小さいので、余りしたことは無いですが可能ですよ。金貨1枚(10万円位)でどうでしょう?」
「安いな、あとギルド婚のお金も置いて行きます」
「それじゃ全部で金貨1枚と銀貨2枚です」
「はい、宜しくお願い致します」
支払いを済ませ、これで準備は整った。
後は…
◆◆◆
「おかえりなさい、リヒトくん」
「ただいま、レイラ、早速だけどこれに着替えて」
「え~と、これに着替えれば良いのかな? 随分とまた、そのセクシーなドレスだね」
確かにチャイナドレスだから足元は凄いな。
「確かにそうだけど…」
「うんうん、気にしないで良いよ!リヒトくんが喜ぶなら喜んで着るから」
レイラの着替えに合わせて俺も着替えた。
レイラが着替え終わると俺はレイラの手を取り宿からつれだした。
「さぁ行こうか?」
「リ、リヒトくん、流石にこれは恥ずかしいから、外は…その凄く恥ずかしいよ」
「良いから行こうよ」
「ハァ~仕方ないな…流石にこの歳でこれを着て歩くのは抵抗があるんだけど…良いよ。まったくもう」
「それじゃ行こうか」
「こんな姿で連れまわして何がしたいのかな?」
「良いから、良いから」
「まったくもう、本当にリヒトくんは…」
諦め顔だがレイラは俺と一緒に出掛けてくれた。
『親子なのかな?随分お母さん痛い服着ているけど』
『色っぽい服着ているから見てしまったがあれ結構な齢だよな?』
『どうみても痛いおばさんだな』
『BBAなのに見ちまった、キモッ』
『エロババアだぁ~』
周りの声を聞いてレイラが少し、しょげているが気にしたら負けだ。
「俺たちこれでも『恋人』だから」
「リヒトくん、良いから行く所があるなら行こうよ…」
「そうだね」
俯いているレイラの手を引き俺は冒険者ギルドへ向かった。
◆◆◆
「え~と、冒険者ギルドへ来るのになんで武器を持ってこなかったの?なにか依頼を受けるなら必要だよ」
「違うよ、今日は此処に結婚しに来たの」
「えっえー-っリヒトくん」
驚いている、驚いている。
「リヒト様、レイラ様、ギルド婚の書類が出来ています。こちらにサインをお願いします」
「レイラ、遅くなってごめん、俺と結婚してくれないか?」
少しドキドキしながら告白をした。
「リヒトくん…」
「駄目かな?」
断られないその自信はあるが、それでも緊張する。
「駄目じゃない…ううん絶対に違う!だけど私おばさんだよ!本当に良いの…」
「俺から結婚を申し込んでいるんだけど?」
「そうか…うんそうだよね!喜んでお受けします」
良かった、本当に良かった。
耳まで赤くしたレイラが凄く可愛い。
「それじゃ、こちらにサインをお願いします」
二人してサインしてタグを受け取った。
お互いに相手の首にタグを通して、これで無事ギルド婚は終了。
「リヒトくん…私、私…」
レイラは喜んで少し涙ぐんでいるが、結婚式はこれだけで終わりじゃない!
「レイラ左手出して」
ゆっくりと差し出されたレイラの左手。
俺はその薬指に指輪をはめた。
「リヒトくん、これはいったい…」
「これは俺の村の風習なんだ、結婚したらお互いの薬指に指輪をはめるんだ」
「そうなんだ…わた、私も嵌めてあげるね」
レイラは手を震わせながらもどうにか俺の左手薬指に指輪を嵌めた。
それと同時に冒険者ギルドから歓声があがる。
「「「「「「「「「「ご結婚おめでとう」」」」」」」」」」
「結婚おめでとう、頑張れよ」
「まぁ…良かったじゃねーか?」
「おめでとう!若い子捕まえて羨ましいわ」
今日一日、酒場の代金を持つことでその場に居た冒険者が祝ってくれる。
そういう風習を聞いたから利用した。
結婚と言ってもギルド婚だから、こんな物だけどな。
「リヒトくん!」
「どうした?」
「私、凄く嬉しいよ! リヒトくん、大好き!」
「俺も大好き!」
思いっきりレイラに抱きしめられた。
こんな可愛らしく綺麗なレイラが見られるなら、うん、やって良かったよ。
37
お気に入りに追加
855
あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

【石のやっさん旧作】『心は』●●勇者…さぁ勇者褒美をとらす! 欲しい物をなんでも言うが良い! 「はい、では●●●で!」
石のやっさん
ファンタジー
主人公の理人(りひと)はこの世界に転生し、勇者に選として、戦い続けてきた。
理人は誰にも言っていなかったが、転生前は42歳の会社員の為、精神年齢が高く、周りの女性が子供に思えて仕方なかった。
キャピキャピする、聖女や賢者も最早、子供にしか見えず、紳士な彼からしたら恋愛対象じゃない。
そんな彼が魔王を倒した後の物語…
久々の短編です。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す
名無し
ファンタジー
アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。
だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。
それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる