勇者のハーレムパーティを追放された男が『実は別にヒロインが居るから気にしないで生活する』ような物語(仮)

石のやっさん

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第16話 冒険者として

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暫くは街道沿いをただ歩くだけだ。

まだ街を離れてすぐだが、この辺りからきな臭くはなってくる。

前世とは違い街灯も無い。

そして盗賊や魔物も全く出ないわけじゃ無い。

「レイラ、手足の状態はどう? 何か違和感とか無い?」

「全然無いよ。色が黒いだけでまるで自分の手足みたい」

「それなら良かった。折角だからこの辺りで少し剣を振ってみないか?」

「そうだね、試しに少し振ってみようかな?」

今のレイラには勇者のジョブが無い。

多分、その分弱体化している筈だ。

だが、剣を振り戦った経験は残っている筈だから、そこそこは使え…

「凄いじゃないか?」

「そんな凄いもんじゃないよ? 多分、勇者だった時に比べたら半分の力も無い気がするけど?」

それでこれなのか?

レイラが剣を振ると大剣がブンブンと風を斬る音を立てる。

これを正面から受けたら俺じゃ剣を落としそうだ。

最悪、もし戦う事になったら、慣れる迄レイラを庇うつもりだったが、奴隷に落ちていたブランクは全く無さそうだ。

「いや、恐らく冒険者のランクで言うならAランク以上の実力はあるから、それだけ強ければ充分だから」

「だけど、これじゃ恐らく下級の魔族には勝てても中級クラスの魔族と戦ったら危ないよ」

俺が思った以上に魔族は強いようだ。

レイラの言う通りならカイト達は相当ヤバいな。

「そうか、だけど俺達が向かうのは南だ。進めば進む程相手は弱くなるし魔物は居ても魔族には、まず合わない。その位強ければ充分だよ」

「確かにそうだね『これからは魔族と戦わない』そう考えたら、魔物が狩れれば充分だよね」

「そう言う事。魔物や野盗に遅れを取らない実力があれば充分生活が成り立つ」

「うんうん、確かにそうだよ」

街道沿いを普通に歩く分じゃ、俺達にとって脅威は無い。

当たり前だよな。

元勇者と元勇者パーティメンバーなんだから。

◆◆◆

「誰かー-っ!誰かぁぁぁー――助けてくれー-っ!」

誰かが襲われている声が聞こえてくる。

「リヒト、誰かが襲われている。助けに行かないと」

「レイラ、なんでだ? もうレイラは勇者じゃない!そして俺も勇者パーティでは無いんだ!無理して助ける必要は無いよ」

「だけど…リヒト」

「解った。レイラが、そう言うなら助けには行くけど、レイラは離れた所から黙って見ていてくれ」

「解ったけど?なんで?」

俺達はもう『勇者』とは無縁の存在。

そして冒険者だ。

『助けない、今はその選択も出来る』

冒険者だからだ。

「良いから」

俺はレイラにそう伝え、悲鳴が聞こえる方に走り出した。

見つけた。

商人の馬車が盗賊に襲われていた。

商人の方は男1人に女2人。

恐らくは親子だろう。

それに対して盗賊は4人か。

周りに死んでいる人間は居ない。

馬鹿な奴だ。

街道を旅するのに冒険者を護衛として雇わないなんて。

声を掛けてから様子を見るか。

記録水晶で記録開始。

「ちょっと待て!」

俺はそう言い盗賊と商人の間に入った。

「お前、なんだ、邪魔をするなら…えっ」

「黙っていろ!」

俺は軽く盗賊を威圧した。

雑魚ならこの程度で充分だ。

「お困りの様ですが助けは必要ですか?」

「見て解るだろう!盗賊に襲われているんだ! 助けてくれ!」

「そうですか? それはお困りですね。俺は冒険者、それもA級だから『高い』ですよ! そうですね。積み荷の半分とお持ちのお金の半額で助けてあげますが如何ですか?」

「そんな事されたら、私達の生活が…」

「貴方」

「パパぁぁぁ怖い」

馬鹿な奴だ。

此処で俺を雇わなければ、全財産を奪われ妻も娘も奴隷として売り飛ばされる。

それなのに躊躇する馬鹿。

「そうですか? ならば結構です。盗賊の方、この方は俺を雇わないようだから、殺すも犯すも自由だ…それじゃ頑張って下さいね」

「なんだ、邪魔しないのか?」

「ええっ、俺は冒険者ですので依頼がなければ動きません」

「へへっ、そうかい、アンタを相手にすると手強そうだから助かった」

「待ってくれ! 積み荷の半分と有り金の半分を払うから助けてくれー-っ」

「お願い致します」

「助けて」

馬鹿な奴、もうその金額じゃ動かない。

一回蹴った金額で誰が動くか。

「最終通告だ。積み荷全部と有り金の半分。これで蹴るなら、俺は立ち去る」

「解った…助けてくれ」

「交渉成立だ」

「お前…」

依頼を受けたからには追行する義務がある。

「悪いな、依頼を受けたからには…死ね」

「お前ふざけるなよ」

「幾ら強そうでも1人だやっちまえー-っ」

「「「おー―――っ」」」

俺は勇者パーティ最弱の男。

だが、幾ら弱くても勇者と肩を並べて戦ってきたんだ。

『ただの人間』なら幾ら居ても雑魚だ。

「剣技、五月雨突き」

俺は素早く剣を繰り出すと4人の盗賊を突き殺した。

この世界盗賊に人権は無いから殺しても問題は無い。

「さぁ、助けてやったぞ…報酬を払えよ」

「ああっ…」

「ああっじゃ無くて約束しただろう?」

俺はそう言いながら馬車に積まれていた積み荷を片端から自分の収納袋に突っ込んでいく。

「俺の積み荷が…あっあああああっ」

「そんな、それを取られたら私達はどうしたら良いの、生活が出来なくなる」

「パパ、ママァァァァァー-っ、お兄ちゃん荷物を取らないでよ」

「取らないでじゃ無いよ? 物を買ったらお金を払うのは当たり前じゃないのかな?」

多分薬関係の仕事なのだろう。

安いポーションばかりだが、結構な量のポーションがあった。

それを全部収納袋に突っ込み終えてから、俺は商人の男に手を出した。

「ほら、あと約束の有り金の半分をくれ」

「積み荷だけじゃなく金迄とるのか…俺達の」

「それを聞く耳は持たない。商人なら約束は守れ! ちゃんと記録もとっている。渡さないなら報酬の未払いとして冒険者ギルドと商業ギルドに突き出すぞ」

「解った…」

俺は商人の革袋からキッチリ半分のお金を受け取り、商人を見送った。

「「「…」」」

商人たちは恨みがましい顔でこちらを見ていたが…これは正当な権利だ。

文句を言われる筋合いはない。

◆◆◆

「なぁリヒト、見ていろと言うから黙って見ていたが、あれは酷いよ」

全然酷いと思わないが、元勇者のレイラからしたらそうなのだろうな。

「いや、これが普通の対応だよ。俺達は冒険者だから、報酬無くして人を助けることは無い。俺が無償で助けるのは、大好きなレイラだけだよ」

大体、冒険者なんて前世で言うなら派遣警備員と傭兵と便利屋を併せたようなフリーランスだ。

顔見知りや仲間ならいざ知らず、他人を無償で助ける事なんて無い。

「いやリヒトのいう事は解らなくも無いけど、あそこ迄、吹っ掛けることは無いだろう? 可哀そうじゃない?」

「いや、当人たちは気がついて無いが、あれは凄く幸せな筈だ」

あの場で俺が助けに入らなければ、全財産どころか妻も娘も犯され奴隷として売り飛ばされた可能性もある。

それに商人本人も殺された可能性もある。

俺は自分の考えをレイラに話した。

「だけど、それでもあれは…」

「納得できないかな? そうだな、俺があの商人に売ったのは『命』だよ。レイラに置き換えてみて。嫌な言い方で済まないが、魔族の幹部と戦っていて仲間が死んでいき、レイラも手足を失った『あの時』もし助けられる存在が居て『金を払ったら助けてくれる』そう言われたら幾ら出す」

「多分、全財産、あっ!」

「全く同じだろう? その状況から助けたんだ。本来なら全財産でも安い。だって俺が助けなければ、命ごと全部奪われていたのだからな」

「確かに…そうだよね…うんそうだ!」

「俺達は冒険者だ。ましてAランク冒険者なんだから決して高くない。 リンゴだって、剣だって対価を払わないと買えない。だから俺達も対価を貰って仕事をする。それだけだよ」

「確かにもう勇者じゃないんだから、そうだよね」

もう俺達は勇者とは関係ない。

冒険者として報酬を貰う、普通に生活するだけだ。








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