上 下
6 / 67

第6話 俺の好み

しおりを挟む
取り敢えず、余り人が居ない小さな公園のベンチ迄きた。

もし、レイラの四肢が健康な状態なら、このまま公衆浴場に直行してお風呂に入って貰い、俺が下着や服を買ってくる。と言うのが理想だが、今のレイラにはそれすら難しい。

だから、もう少し話をしようと思った。

こんな状態のレイラを酒場やカフェに連れていく事は出来ないし、宿屋に直行も誤解されそうだ。

公園という選択は間違ってない気がする。

だが、いざ横に座ってみると、なにから話して良いか解らない。

ただ、目が合うだけで心臓のドキドキが止まらなくなる。

『やはり幼馴染とは違う』

あいつ等も巷では美少女と言われていたけど、どうしてもガキにしか思えなくて、こんな気持ちには成らなかった。

「そんなに見て、今買って損した。そう思っているんじゃないですか? オークション会場じゃ遠目だから、気がつかなかったかも知れないけど! 私、結構なおばさんでしょう?『綺麗』とか『理想』なんて言われる女じゃないよ。貴方より貴方のお母さんやお父さんの年齢に近いはずよ。それに顔には大きな傷があるし、手足なんて、これだからね」

そう言うとレイラは、木の棒にしか見えない義足をばたつかせて見せた。

顔の傷だが、前世、俺の生きた昭和という時代には『顔に傷がある美少女』は結構居た。

スケバンという女の不良がいる時代で、その中でも凶暴な奴はカミソリの刃を武器に使う。

良く『二枚刃の京子』とか『二枚刃の明美』とか『二枚刃』を自分の名前の前につけるスケバンは人差し指と中指、中指と薬指の間にカミソリの刃を挟んで2枚の刃で『人の顔を斬る』事を得意としていた。

こうすると、片方を縫っても片方の口が開くから醜い傷跡が残るんだ。

だから、不良の女の子で顔に傷がある女の子も多かったし、『可愛い』『綺麗』な女の子は、やっかみからスケバンに『顔を斬られる子』も結構な数居た。

だから…そこ迄気にならない。

実際に俺の子供の頃のヒーロやヒロインには顔に傷があるキャラも多かったしな。

「レイラは顔の傷や、手足を気にしているかも知れないけど、俺はそこ迄気にならない。勇者だったから解らないかも知れないけど、普通に冒険者をしていれば、怪我する事もあるし命すら落とす事だってある…そう珍しい事じゃない」

これで良い筈だ。

これなら普通に納得してくれるだろう。

「確かにそうかも知れないわ。だけど私は奴隷ですよ?わざわざ顔に傷があって手足が不自由な人間選ぶわけ無いじゃないですよ? しかも、貴方みたいな若い子が…こんなおばさん…なんで買うんですか? お話しましたが、お世話が必要なのは…私です…片手片足だから、生活するのに人の手を借りないと生きていけないんです! 見た感じ、特に女性に不自由するように見えませんが、なにかあるんですか」

これは幾ら話しても押し問答にしかならないな。

今は、なにを話しても駄目かも知れないな。

「信じて貰えないかも知れないけど、俺にとってレイラは好みの女性だ。それは、これからの生活で知って貰うよ」

「強情ですね! こんなゴミみたいなおばさんに、まだ言うんですか? もう良いですよ、犯罪奴隷ですから、私は貴方から離れることは出来ませんし1人じゃ生きられませんから、若い子がなんで私を買ったか知りません。貴方の人生を汚したくなかったのに…もう知りませんから」

「もう、その話は今は止めようか? それでレイラはお風呂は1人で入れるの?」

「ごめんなさい…」

普通に考えてそうだよな。

「それじゃ…あのその…なんだ、宿屋に行こうか?」

「はい」

別に下心は無いけど、凄く緊張するな。

◆◆◆

宿屋についた。

最初、宿屋の主人はレイラをみた瞬間嫌な顔をしたが、俺が黙らせた。

まだ、冒険者証を更新していないから、俺の冒険者証は『勇者パーティ』のままだ。

これを見せれば大体の事は問題ない。

「お金には余裕がある。お風呂がついた良い部屋でベッドが二つある部屋を頼むよ」

「畏まりました。お風呂付の部屋だと1日当たり銀貨1枚になりますが宜しいでしょうか?」

現金な物だ。

高い部屋を頼むと急に笑顔になるんだからな。

「ああっそれで頼むよ」

レイラの事を考えたら、風呂付は譲れないからな。

◆◆◆

「それじゃレイラ悪いけど、服を脱いで、毛布に…くるまってくれるかな?」

「まぁ良いわ! 多分見てもがっかりするだけだよ…おばさんだから」

見てがっかりすることは無い。

「そんな事ないけど、今回は違うよ!必要な着替えや下着を買いに行ってくるから、その寸法が解るように、今着ている服が必要なだけだから」

「あはははっ!そりゃそうだよね…態々おばさんの裸は見ないよね…解ったわ」

見たいか見たくないかと言えば見たい。

だが『今は違う』

尤も、後で体を洗う介助はしないといけないから、見る事にはなると思う。

俺はレイラからボロ布のようになった服を受け取ると、そのまま部屋を後にした。

◆◆◆

速攻で古着屋に向かった。

この世界じゃ、服はオーダーメイドか古着しかない。

「おばさん、悪いんだけど、この服や下着と同じサイズの物を3着下さい」

俺が手渡すと…

「うぷっ、なんだいこのゴミ、臭いったらありゃしないよ!」

まぁ奴隷として着たっきりだったんだろうからな。

臭くて当たり前だ。

「すみません」

「まぁ商売だからね、女性にしちゃ大柄だね。今探してあげるから待ってな」

「お願いします」

レイラは勇者だけあって女にしてはかなり大柄だ。

そうは言っても前世で言うならグラビアアイドルみたいな感じだ。

俺の生きた時代は『背の高い女性』というのもモテる女の条件だった。

『ワンレンボディコン』が流行っていた。

ロン毛で足が長くてスラっとした感じだ。

だから、こそ凄く良いんだ。

「サイズ的に選り好みは出来ないけど、こんな感じでどうだい?」

「ありがとう」

俺はお礼を言ってから、古着3セットと新品の下着を受け取った。

「これはどうする?」

「捨てて置いて下さい」

まずはこんな物か?

他に必要な物は、後日で良いだろう。

宿に戻って来た。

部屋には毛布で体を包んだレイラがいる。

これから『お風呂』に入れないといけない。

それには、どうしても見ないといけない。

そう、思い緊張しながら部屋のドアを開けた。

やけに静かだな。

「助けて…」

レイラはどうやら寝てしまったようだ。

「助けて…嫌だ…嫌だ、あっああああっ仲間を殺さないで…」

「助けて、助けて下さい…私の腕がぁぁぁぁー-嫌ぁぁぁぁぁー――っ」

「足…私の足―――っ返して、私の足を返してー――っ」

これは恐らくは魔族との戦いの記憶だ。

これが勇者の実態だ。

確かに魔族と戦っている間は誰もがチヤホヤする。

だが、魔王迄辿り着けて勝利出来る勇者は少ない。

そして戦いに負けたら『死ぬ』

万が一助かっても、五体満足で済むはずはない。

そして命からがら帰ってきた後は悲惨極まりない。

使えないと解ると『用済み』とばかりに全てを押し付けられ責任を取らされる。

これなら、借金まみれで鉄骨を渡らされたり、地下収容所で働かされる方がまだましだ。

魔族も最低だが、この世界の人間も最低だ。

散々助けて貰ったのに…負けたら石を投げつける様な奴ばかりだ。

「レイラ…レイラ」

俺はレイラを起こそうとしたが疲れているのかなかなか起きない。

無理もない。

恐らくは奴隷として檻の中で生活していたんだろうし、まして『犯罪奴隷』だからきっと待遇は悪かったに違いない。

綺麗な筈の髪からはフケが出ているし、体も垢だらけで体臭も臭い。

どんな美女でも、水浴びも満足に出来ないならこうなるよな。

「助けて…」

今もレイラは悪夢にうなされているみたいだ。

寝返りを打った瞬間に毛布がズレた。

見た瞬間思わず目を覆いたくなった。

左手は肘から下が無くなっていた。

これは解る。

魔族との交戦中に斬られたのだろう。

だが、そこが下手糞に縫合されたのだろう、傷跡が凄かった。

ちゃんとしたポーションを使えば、元からそこに腕が無かったみたいに見える位綺麗な筈だ。

だがレイラには傷後があった。

これはポーションすら使われなかった証拠だ。

失った右足の膝から先に代わりに義足が…これを義足と言って良いのか?木の棒2本で太腿を挟み込みボロ布で固定しただけだ。


これだったら、多分歩くのも辛い筈だ。

ボロ布からは血が滲んでいて、恐らくは長い事交換もされて居なかったのだろう、血の一部は乾いていた。

『本当に酷いな』

俺がそう思って見ていたら、目を覚ましたレイラと目が合った。

「なにしているの?」

さてどうしようかな?
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

処理中です...