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第18話 人間じゃないな
しおりを挟む「私は血が欲しいだけですので、他は皆さまに差し上げますわ」
「私は…肉、肉だけで良い…」
「あたいは、脳味噌と臓物が好きだから、丁度良いかもね。あと、骨はどっちでも良いけど? 要らないなら処分してあげるよ」
「骨は要らないですわ」
「骨要らない…」
美少女と美女が熱心に話をしている。
内容を知らなければ実に微笑ましい風景だが、話を聞いたらホラーだな。
だって、内容は『人間を食べる時の分配』の話なんだから。
しかし、まるでご都合主義の様に人間一体食べ尽くせるんだな。
昔、何処かで『牛一頭食べ尽くし』という祭りがあったけどこれは『人間一体食べ尽くし祭り』だな。
これから先の人生…彼女達の食事を見る事が多くなるはずだ。
気にしたら負けだ。
「ふふふっ…」
「どうかされましたか? 瞳様急にお笑いになるなんて」
「笑っている…素敵」
「どうかしたのかな?」
「内容は物騒だけど、美少女2人に美女が1人…凄く絵になるなと思って…今までの俺にはこんな、安らかな心で居られる時が無かったからさぁ…凄く嬉しくて…ありがとう」
「あの、感謝しているのは私の方ですわ。私は人形ですから、誰かの傍に一緒に居たい…そこのお気持ちが強いのですわ。凄く幸せですわ」
「私も姉さまと同じ…ありがとうしか言えない…」
「あたいは…まだ解かんない。だけどこんな私を引き取ってくれたのと、その二人や私を見ている目が優しいし、あんた…あっごめん、瞳が優しいし、あたいたちの事が好きなのは解るよ」
そう思って貰えるのは凄く嬉しい。
此処には本当の『安らぎ』がある。
この目になってから、こんな日々が送れると思わなかった。
この三人が居れば…きっと。
「どうかしたのですか? 瞳様」
「なんで泣いているの?」
「もしかして感動していたのかなぁ~」
「ああっ、感動しているよ…今が本当に幸せだ」
此処には恐怖は無い。
化け物の中に1人居る。
その恐怖が無い、悍しい存在じゃ無く、綺麗で可愛い女性に囲まれている状態の幸せ。
『今迄の俺はゾンビに囲まれた状態で1人で生活していた。ただ、そのゾンビが襲って来ないでそこそこ親切。その状態、いやそれ以上だ』
そんななか…普通の人間に見える仲間を見つけたらどれだけ嬉しいか…
今の俺が正にその状態だ。
後は自分の中の『良心』との付き合い方だ。
どうするか?
真剣に考えないとな。
だが、それ以上に…
「黒薔薇に黒牡丹…そろそろお腹がすく頃じゃ無いか? お京は大丈夫か?」
「一応私達は人形ですので…そこまでは、ですが口寂しいのは確かですわ」
「お肉…吸いたい」
「あたいは大体5日間に一度は食べないと辛いよ」
5日間が限界と考えたら余裕をもって3日間から4日間に一度人を襲う必要があるな。
此処での訓練期間は1か月。
そう考えたら大体8人位の犠牲…まぁエサが必要だ。
「1か月間で8人、お京に合わせてそれで大丈夫かな?」
「ええっ構いません」
「…私も」
「まぁ、そんな所だよね? それで相手には誰を選ぶの? やはり勇者、賢者、剣聖辺りを狙うのかな?」
「狙いたいのは山々だけど、足がつかないか心配なんだ」
「確かにそうですわ。狙うなら勇者ですわね…勇者が死ねばかなり天秤は魔族側に傾く筈ですわ」
「四職が確かに良い…」
「あたいは誰でも良いよ」
俺は邪神側の存在だから『戦力を減らす』それに越した事は無いが…よく考えたら、まだ魔族は勿論、魔物にも会って居ない。
京子は魔物なのかも知れないが、魔族にも魔物に縁が無い、人工の魔物と言っても問題は無い。
そう考えると今現在、俺達は一番の味方の『魔族』と出会えていない。
そこからが多分本当の戦いが始まるのかも知れない。
まずは…ばれずに獲物を狩っていく。
そして1か月間、それを感づかせない。
それが最初の目標だ。
「瞳様、京子様…お食事の時間です」
「はい、行きます」
メイドの声を聞くと黒薔薇と黒牡丹は収納の中に引っ込んだ。
「お京…これから一緒に食事に行くけど? 獲物を見定めて欲しい」
「それはあたいの好みの食事を選ぶ…それで良いの?」
「俺には、皆がどんな食事が好みかとは解らないからな」
「そう言う事?あはははっ…別に好みは煩くは無いから大丈夫だよ」
「そうか…」
人間をエサの様に思っている。
俺ももう充分に『人間じゃない』な。
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