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第30話 震え
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顔を真っ青にして宿へ帰ってきた。
受付への挨拶もそうそうに部屋に入るなりベッドに飛び込み毛布に包まった。
レイラは居ない。
良かった。
こんな女々しい姿をレイラに見られたくない。
戦っている時。殺している時はまだ良かった。
気が張り詰めていたからか、吐き気はする物の…寒気や嫌悪感はなかった。
これが同族を殺した結果なのか。
体がまるで凍り付くように寒い。
体が芯から震え…ガタガタと歯も震える。
『寒い』
体が本当に寒い。
毛布に包まっているのに……寒い。
これはどうやっても寒気がおさまらない気がする。
『なんで、お兄ちゃん剣を抜くの……』
殺した子供の首が恨んだ目で俺を見つめてくる。
殺された事を非難した目だ。
「盗賊だから仕方ないだろう!」
『僕がなにかした? 盗賊になったお父さんや他の盗賊に子供の僕が逆らえると思うの? 僕、人を殺したりしてないよ? それでも殺すの?』
「煩い、煩いーーい! うるさーーい」
『ねぇ……答えてよ……お兄ちゃん答えて』
「うるさい! そんなの俺は知らない!」
『ねぇ……お兄ちゃん!』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー」
『お兄ちゃんってば!』
二つの首が転がりながらこちらを見て聞いて来る。
体はない。
俺が斬ったから……だ。
「ハァハァ……盗賊は魔物と一緒で……ハァハァ殺されても仕方ないだ……」
『そう……解ったよ! お兄ちゃんは人殺しなんだね……』
「違う! 俺は……」
『嘘、僕たちを殺したじゃないか? 人殺し……』
「俺は人殺しじゃない!」
『なんで……僕たちを殺したじゃない』
「ハァハァ……違う!」
嘘だろう......今度は母親か。
『何が違うのかしら? 私は子供が居なくなって探していたのよ! 見つからなくて悲しくて……家で泣いていたわ……それなのに! 村に火を放つなんて……それの何処が人殺しじゃないの? 私の子供だけじゃなく……私まで火をつけて殺したじゃない? ねぇ、教えてよ! 』
「お前らが盗賊だからいけないんだ!」
『そう……だったら教えてよ! ただの女の私が息子を守るためには仲間になるしかなかったの……私はどうすれば良かったのかな。息子を見捨てて逃げれば良かったの……それとも息子と一緒に死ねば良かったの……』
「ううっ」
『苦しいよ……水に毒をいれるなんて』
『熱いよ! 熱い、お母さん助けてーーいやだ、いやだーー死にたくないよ!』
『ママーーッ! ママ――ッ! 助けてーーッ』
違う……違う……俺が悪いんじゃない。
俺が悪いんじゃないーー。
ハァハァ……違う。
盗賊だって人間だ。
魔物じゃない。
まぎれもなく人間だ!
◆◆◆
汗と涙で毛布がベチャベチャだ。
ハァハァ……僕は人殺しだ!
「リヒト!? 大丈夫?」
「ハァハァレイラ姉さん……」
「ははははっ! やっぱりそうなったか? 呼び方がレイラ姉さんになっているよ? まぁ、初めて人を殺したら、そうなるよ! 私は3日間位、お酒におぼれたよ! それで、リヒトはどうする?」
「レイラ姉さんうっぁぁぁぁーー」
「仕方ないな! しょうがない……本当にしょうがないな」
そう言うとレイラ姉さんは俺を抱きしめ、頭を撫でてくれた。
前にもこんな事があった気がする。
そうだ、俺が親を亡くし一人ボッチで泣いていた時もレイラ優しく姉さんが抱きしめてくれたんだ。
姉さんの胸の感触と優しい香り。
何時しか俺は……深い眠りに落ちていった。
◆◆◆
部屋が明るい。
チュンチュンと鳥の声が聞こえてくる。
「うん!? おはよう……レイラ」
「はい、おはよう……」
寝癖がついていて寝ぼけ眼のレイラが愛おしく思えた。
体の震えは……もう止まっていた。
受付への挨拶もそうそうに部屋に入るなりベッドに飛び込み毛布に包まった。
レイラは居ない。
良かった。
こんな女々しい姿をレイラに見られたくない。
戦っている時。殺している時はまだ良かった。
気が張り詰めていたからか、吐き気はする物の…寒気や嫌悪感はなかった。
これが同族を殺した結果なのか。
体がまるで凍り付くように寒い。
体が芯から震え…ガタガタと歯も震える。
『寒い』
体が本当に寒い。
毛布に包まっているのに……寒い。
これはどうやっても寒気がおさまらない気がする。
『なんで、お兄ちゃん剣を抜くの……』
殺した子供の首が恨んだ目で俺を見つめてくる。
殺された事を非難した目だ。
「盗賊だから仕方ないだろう!」
『僕がなにかした? 盗賊になったお父さんや他の盗賊に子供の僕が逆らえると思うの? 僕、人を殺したりしてないよ? それでも殺すの?』
「煩い、煩いーーい! うるさーーい」
『ねぇ……答えてよ……お兄ちゃん答えて』
「うるさい! そんなの俺は知らない!」
『ねぇ……お兄ちゃん!』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー」
『お兄ちゃんってば!』
二つの首が転がりながらこちらを見て聞いて来る。
体はない。
俺が斬ったから……だ。
「ハァハァ……盗賊は魔物と一緒で……ハァハァ殺されても仕方ないだ……」
『そう……解ったよ! お兄ちゃんは人殺しなんだね……』
「違う! 俺は……」
『嘘、僕たちを殺したじゃないか? 人殺し……』
「俺は人殺しじゃない!」
『なんで……僕たちを殺したじゃない』
「ハァハァ……違う!」
嘘だろう......今度は母親か。
『何が違うのかしら? 私は子供が居なくなって探していたのよ! 見つからなくて悲しくて……家で泣いていたわ……それなのに! 村に火を放つなんて……それの何処が人殺しじゃないの? 私の子供だけじゃなく……私まで火をつけて殺したじゃない? ねぇ、教えてよ! 』
「お前らが盗賊だからいけないんだ!」
『そう……だったら教えてよ! ただの女の私が息子を守るためには仲間になるしかなかったの……私はどうすれば良かったのかな。息子を見捨てて逃げれば良かったの……それとも息子と一緒に死ねば良かったの……』
「ううっ」
『苦しいよ……水に毒をいれるなんて』
『熱いよ! 熱い、お母さん助けてーーいやだ、いやだーー死にたくないよ!』
『ママーーッ! ママ――ッ! 助けてーーッ』
違う……違う……俺が悪いんじゃない。
俺が悪いんじゃないーー。
ハァハァ……違う。
盗賊だって人間だ。
魔物じゃない。
まぎれもなく人間だ!
◆◆◆
汗と涙で毛布がベチャベチャだ。
ハァハァ……僕は人殺しだ!
「リヒト!? 大丈夫?」
「ハァハァレイラ姉さん……」
「ははははっ! やっぱりそうなったか? 呼び方がレイラ姉さんになっているよ? まぁ、初めて人を殺したら、そうなるよ! 私は3日間位、お酒におぼれたよ! それで、リヒトはどうする?」
「レイラ姉さんうっぁぁぁぁーー」
「仕方ないな! しょうがない……本当にしょうがないな」
そう言うとレイラ姉さんは俺を抱きしめ、頭を撫でてくれた。
前にもこんな事があった気がする。
そうだ、俺が親を亡くし一人ボッチで泣いていた時もレイラ優しく姉さんが抱きしめてくれたんだ。
姉さんの胸の感触と優しい香り。
何時しか俺は……深い眠りに落ちていった。
◆◆◆
部屋が明るい。
チュンチュンと鳥の声が聞こえてくる。
「うん!? おはよう……レイラ」
「はい、おはよう……」
寝癖がついていて寝ぼけ眼のレイラが愛おしく思えた。
体の震えは……もう止まっていた。
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