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第52話 魔族の女

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何故此処に此奴がいるんだ。

「リリアーーっ後で合流するから馬車を今すぐ出してーー!」

「「聖夜(くん)!」」

「何が……」

「良いから早く出せーっ!」

「はい!」

あの容姿。

人間に擬態しているが、あの時見た魔族の女そっくりだ。

「あはははっやっぱりそうだ! 黒髪、黒目……異世界人だ」

うん? もしかしたら、洞窟で会った僕を見つけた……のではなく『異世界人を見つけた』そう言う事か?

少し、試してみるか。

「あの馬車には手出しさせないぞ! 僕が……」

「うん、興味無いよ? 私が興味あるのは君だけだからね。 異世界人なんだよね?」

どうやら塔子と綾子は見つかってない。

幌馬車で良かった。

「違いますよ! 僕は先祖帰りで黒髪、黒毛なだけで異世界人なんかじゃありません」

「あれれ、本当にそうなのかな? それは証明できるのかな?」

やばいな。

話し方はにこやかだが顔が笑っていない。

いちかバチか。

「そうだ、冒険者証なんてどうですか? 自慢じゃないですが僕はDランク冒険者です。異世界人ならこんな下位の冒険者な訳無いでしょう?」

どうだ……

「確かに、それじゃ見せてくれるかな?」

僕は冒険者証を手に取り、魔族の女に近づく。

手を震わせるように見せ、魔族の女の手を触った。

これなら、いける。

スキル:ばい菌 腐る目

二つのスキルを同時に掛けた。

果たして魔族、それも上級魔族に効くのか?

恐らくは効くはずだ。

僕ら異世界人は魔族、しいては魔王と戦う為にこの世界に召喚された。

その僕らに『魔族と戦う力が無い訳が無い』

「確かに下位の冒険者のようですね……ですが、その黒髪、黒目が気になるわね……先祖返りでも魔族と戦える勇者になった存在も居るのよ……悪いわね、死んで貰うわ」

嘘だろう……まさか、通用しないのか?

レベルが足りない?

それとも魔族に、本当に通用しないのか……

「まっ、待って下さい! た……助けて下さい、僕みたいな虫けら見逃してくれても良いじゃないですか?」

その場に蹲り土下座をした。

多分、逃げても追いつかれる。

ならば、土下座だ。

強者相手に出来る事は、ただ命乞いをして過ぎ去るのを待つだけだ。

スキル:亀人間

これなら、多分大怪我をすることは無いだろう。

亀人間が通用すればだけどな。

「駄目……悪いけど、命乞いなら無駄だわ! 魔族の方針でね異世界人は見つけ次第狩る事が決まったの……無駄よ」

やはり効かないのか……

ならば、殺されるのが解っていてこれは意味はない。

「そうですか……」

仕方が無い。

僕は即座に立ち上がり、王国方面へ走りだした。

これなら三人に目が行かないし……運が良ければ擦り付けも出来る。

「逃げても無駄よ! 私は俊足の……えっ……うっうっ目が痛いわぁぁぁーー一体なにが起きているのよ。うっクソ……」

良かった。

『腐る目』が効いて来た。

女の魔族は目を押さえてそのまましゃがみ込んだ。

これが効くと言う事は『ばい菌』も効くと言う事だ。

今迄はした事が無かったけど、重ね掛これで終わりだ。

これなら逃げる事は無い。

そのまま、距離をとったところで土下座の体制をとった。

「た、助けて下さい……お願いです……グスッお願いですから……」

腐る目が効くなら、ばい菌も効いてくる筈だ。

そして亀人間も……通用する。

「助けてあげるわ……ほら逃げなさい!」

グラマラスな褐色の体。

顔はなかなかの美人で羊の様な角。

どうにか体裁を保とうとしているが手が両目を押さえている。

最早、この女は脅威じゃない。

猛獣かも知れないが、その前に『死にかけ』がつく。

「うっ……うっ腰が抜けて動けないんです……嫌だ、死にたくないた、助けて」

魔族を殺せるチャンス。

このまま、ここに居さえすれば、此奴は死ぬ。

「ううっ、ハァハァ……死にたくないなら這いずって逃げるんだね。これがハァハァ、最後のチャンスだ」

ハァハァ言いながら手を目から離さない。

そして……

「うっうう、ああっ、きゃぁぁぁーー腕が私の腕がぁぁぁーー痛い。 痛いわーー」

ばい菌が効いてきた。

「余裕ぶっているからそうなるんだよ……」

腕が壊死を起こし、レベルが上がったせいか、もう腐り始めている。

目が見えなく、腕が動かない。

だが、油断はしない。

距離を取り……遠巻きに見つめてチャンスを狙う。

「ううっハァハァ……貴方、一体私に何をしたの」

「何もしていない……ただ苦しみだしたから見ているだけだ」

「逃げないの? いま逃げるなら殺さないわ」

汗をかいて苦悶の表情をしている奴が何を言っているんだか。

腕は腐り色が変わり、そのまま落ち、そのまま浸食している。

そして目は完全に白濁している。

まるで、美人がゾンビに噛まれて変化している最中みたいだ。

もう、恐れる必要は無い。

「……」

「ハァハァ、なにその目……いやぁぁぁーー私の腕が……無い」

まだかろうじて目が薄っすら見えるのか。

「腐って落ちたみたいだな……それにその目もそのまま腐って、次は脳味噌も腐る……終わりだ」

「た……助けて……おねがい……」

「助けるメリットが無いな」

「ハァハァ……助けてくれるなら、私の体を自由にしてもいいわ」

必死だな。

「あいにく女には飢えてない」

確かに凄い美人ではある。

褐色な健康な大人の女性だが、恐くて魔族の女なんて抱けない。

「ハァハァ、私の血にはサキュバスの王族の血が流れているわ……ハァハァもし助けてくれるなら、最高の快楽を与えてあげる。だから……助けて」

「……」

「さ、サキュバスの王族の血を引く……がふっごばっ……私が相手してあげるの……あっあああっ」

「……」

「奴隷になるわ……サキュバスの王族に連なる……私が抱き放題、最高でしょう? ハァハァこれなら良いわよね……」

「そうだな……助けてやるよ……」

確かに可愛そうだ。

それに此奴は、僕の嫌いな奴らを殺してくれた。

「ハァハァ、ありがとう……」

「すぐに楽に殺してあげるから」

「嘘、いやぁぁぁぁぁーー」

可哀そうだから、すぐに楽にしてあげるよ。

僕は魔族の女の首を楽にするために斬り下ろした。
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