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第42話 どうせ碌な事じゃ無いだろう
しおりを挟む両方ともお店が閉まっていたから、恐らくリッチモンも奴隷商人も死んだのだろう。
目が見えない状態で職場を失った女給もきっとこの後は碌な人生は送れない。
今は街から帰り宿に居る。
「聖夜様、どうかされましたか? 顔色が青いですよ……」
僕のスキルは、相手が傷つく所を見ないで終わらせる事ができる。
それでも人を殺した後にはどうしても罪悪感はある。
リリアは僕の様子の変化に気がついたようだ。
「聖夜、体の調子が悪いの?」
「大丈夫?」
「ああっ、此処暫く忙しかったからな……まぁ大丈夫だよ!」
「そうですか? それなら良いのですが……」
「体には気をつけた方が良いよ」
「うんうん……体には気をつけないとね」
リリアは兎も角、塔子や綾子が心配してくれるのが意外な気がする。
何かが変わってきたのか……
この世界に来て『視力を失った』時から随分、二人は変わった気がする。
いいや……まだ信じちゃ駄目だ。
「心配してくれてありがとう」
そう答えると僕は散歩に出かけた。
◆◆◆
てっとりばやく僕はザブランに『ばい菌』を使う事にした。
金貸しだから、店の近所を歩けばすぐに見つかる。
「ザブランさんですか?」
「ああっ、俺がザブランだが? なにかようか?」
人違いじゃないようだ。
「いえ、貴族相手に大きな仕事をしている人だと噂を聞いたのでどんな人なのか気になっていたもんですから」
「そうか、こんな男だ……俺なんてまだまだだよ」
「そんな事無いですよ! 貴族や商会相手に金貸しなんて凄いですよ」
「まぁな……悪いこれから客が来るんだ」
「引き留めてすみませんでした」
お礼を言ってから目を見つめ『腐る目』を使った。
これで、手が届く相手への対処は終わった。
だが、おおもとの貴族が残っている。
ドルマン女男爵とその娘。
そちらをどうにかしないとな。
リリアが幸せに暮らしているのを知ったら。
何かしてくる可能性がある。
後手に回るわけにはいかない。
当初の予定通りやるか。
◆◆◆
僕はドルマン女男爵の屋敷に向かった。
予定通り『空気人間』のスキルを使った。
そのまま、門を通って入っていったが、門番は呼び止めない。
『なんだ、簡単じゃ無いか』
そのまま屋敷に入っていったが、誰も気がつかない。
メイドも執事も誰もが僕に気がつかない。
適当に歩きまわって二人を探した。
「マドレーヌお嬢様、申し訳ございませんでした!」
「謝って済む問題じゃないのよ? 本当に貴方はグズなんだから!」
メイドにあたっている釣り目の女。
どうやら、あれがマドレーヌのようだ。
『腐る目』と『ばい菌』どちらを使うか?
決まっている『ばい菌』だ。
『ばい菌』はレベルが上がったから2人に同時に使える。
だから、ザブランに『腐る目』を使ったんだ。
ドルマン女男爵母子には『ばい菌』しかない。
どちらか1人が残れば、権力者のままだ。
だからこそこの二人だけは生かしておく訳にはいかない。
それ違いざまに手に触ればい菌を使った。
これで残るは1人ドルマン女男爵のみだ。
そのまま歩き続けると明らかに高級そうな扉があった。
恐らく此処が執務室だ。
扉をあけ中に入ると……ドルマン女男爵は居なかった。
ここで待っていれば良いだろう。
暇だから机の上の書類を見ていたら……良かった。
誰かに調べさせたのだろう……リリアの事を調べさせた報告書があった。
やはり貴族は怖い。
リリアが僕に買われた事。
そして顔の傷が治った事が報告書に書かれていた。
これからどう動くか解らない。
だが、碌な事はしないだろう。
『先手が打てて良かった』
暫く待っているとドルマン女男爵が部屋に入ってきた。
そのまま気がつかれないようにドルマン女男爵の手に触れ『ばい菌』を使った。
この瞬間に全てが終わった。
そのまま、気づかれる事無くドルマン女男爵の屋敷を後にした。
◆◆◆
先に手が打てて良かった。
あの報告書、恐らくリリアが幸せに暮らしている事を知っていた。
きっと、なにか仕掛けてくるつもりだったのかも知れない。
先手を打って殺してしまったから……もう何をしようとしていたのか解らない。
どうせ碌な事じゃ無いだろう。
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