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第20話 声優と『知り合い』

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釘宮ゆかり、この子も凄く綺麗だ、茶色い髪で腰まで届くロングヘア―、人形の様に整った顔立ちにスレンダーな体、但し胸が貧乳と言うかほぼ少年の様に無い、そして背が低く140センチも無いかも知れない。

だが、この子は…ネットでは出てこなかった。

「時間が掛かってすいません、ほら、みう、ゆかり…すぐに劇の準備に入って」

「「はい」」

良かった…さっきの空気は引き摺っていない。

流石はプロ…直ぐに…

「みうは正平くんとこのままお話をしたいけど…駄目かな?」

上目遣い話しかけてきた。

これ、凄く困る。

目を潤ませて今にも泣きそうな目で、縋る様に声を出す。

「それなら、ステージに戻らなくても良いよ、だけど俺、みうちゃんの声優としての声が聞きたいから、ゆかりちゃんと、座ったままで良いから、幾つかのシーン演じてくれない?」

「あの…あ~んはもう終わりなの?」

「そんなに気にいってくれたなら終わった後に続きをしてあげる…でも今は声優としてのプロのみうちゃんが見てみたい」


「解った…ゆかり…『子猫ちゃんの魔法使い』出来る!」

「出来ない訳ないじゃない! 私が出ていた作品だよ」

「それじゃ、やるわよ」

「了解」

◆◆◆

「あんた馬鹿~やれば出来る子なんだから、ちゃんとやりなさいよ!」

「え~みう出来ないよ…そんな…そんなのってないよ…」

「出来ないなんて言わせないわ…貴方は魔法使い…出来ないなんて言わせないよ」

「グスっスン、スン…解ったよ…みうが…みうがやれば良いんでしょう…魔法使いなんだから…」

「そうよ魔法使いなんだから…」

「解ったよ…みう頑張るよ..」

凄いな…役に入った途端急に変わる。

まるで、そこにアニメのキャラクターが居るみたい思える。

目を瞑ると…そこは、そうアニメの世界に迷い込んだみたいだ。

「あんた馬鹿! そそそそそんな事言っているんじゃないわ? 貴方の事、嫌いじゃないわよ…そんな事も解らないの?」

ゆかりは…ツンデレなキャラクターや強情で素直に慣れない役が多いみたいだ…

みうは…素直で健気な女の子や、少しやんちゃで元気な感じの女の子のキャラが多い気がする。

気がつくと1時間近く『声だけの演技』と言える物を続けていてくれていた。

2人とも台本も無いのに凄いな。

「流石に…喉がかわいたよ」

「私も…」

俺は直ぐにコップにスポーツドリンクを注ぎ、二人に手渡した。

「ありがとう…そのみう、凄く嬉しい…さっきから嬉しいことばかりだよ…今日のステージは…うん、凄く最高…だよ」

「あの私も良いの? そんな…男性の手作りドリンクなんて夢みたい…いたいたいただきます」

完璧に演じきっていた、二人がしどろもどろに成るのは、見ていて凄く面白い。

いいなぁこう言うの。

「あの、正平くん、そろそろ握手会良いかな?」

「正平くん、呼んでくれて嬉しかった…さようなら…グスッ」

ゆかりが帰り支度を始めた。

「あれっゆかりちゃんは握手会に参加しないの?」

「ゆかり…もうお金が無いんだ…今迄頑張ったけど…もう無いの…元からお金儲けが下手だから『ツンデレ』みたいな男性に嫌われるキャラばかりしか無いの…正平くんに最後に会えて嬉しかった…今日もね…お金が無いから何でもしますって…マネージャーの真田さんに頼み込んで連れて来て貰ったんだ…グスっ」

「なら…握手会に参加しなよ」

女を泣かすのはホストじゃない。

泣かせて良いのは嬉し泣きの時だけだ。

「そんな…正平くん、私、正平くんに沢山のお金を払って…」

「みうちゃん…今日は俺のおごりで良い…金を貢ぐ必要は無い…それに握手会以上の事をしてあげるからね…納得して」

俺はお金が欲しいからホストをしていたわけじゃ無い。

あれこそがモテる男の頂点に見えたからだ。

彼女達はそれに充分俺に貢いでいる。

プロの声優二人を貸し切ったステージ…充分すぎる報酬だ。

「正平くん…あの握手以上って…えっえっ…そんな顔が凄く近いよ…」

「嫌なのかな?」

「ううん、嫌じゃない、嫌じゃないけど…奇跡みたいで信じられない…」

「みう、君は、凄く可愛くて素敵だね食べてしまいたい」

そのまま抱きよせた。


「嘘…おじさん、みう…おじさん大好き、世界で一番…ううん、宇宙で1番大好きだよ…愛しています…お金でも何でも」

おじさん…そうか『Bランクのおじさん』この世界の人気小説のシーンに似ているかも知れない。

「みう…俺は正平…おじさんじゃ無いよ? 酷いよみう…俺はこれでも11歳なんだよ」

「だけど、みう知らない、知らないんだもん、あれ以上カッコ良い人なんて…」

「そう…俺、あんなのに負けちゃうの? 悔しいから止めてあげない…何処が良い? 額が良いかな、それともその薔薇のような唇が良いかい?」

「正平くん…何を言っているのか、みう解らない…解らないよ…幸せ過ぎて解らないよ…おじさんじゃないよ…みうが好きなのは、ううん大好きなのは正平くんだよ…だけど、解らないよ…」

「残念時間切れ…だから僕が決めるね…その湖の様に透き通る瞳に決めた」

「決めるって何を…ええっえええええー――っ」

チュッ…俺はみうの瞳に軽いキスをした。

「キキキ、キス…そんな…キュウウウウ」

気を失ったみたいだ…

まぁ大丈夫だよな…俺は耳を胸にあてた。

心臓の音はしっかりしているから問題ない。


「あんた馬鹿ぁぁぁぁー――女の子にこんな事して獣じゃない」

ゆかりのこのセリフは確か「お嬢様と下僕」というこの世界の女の子向きアニメのセリフだ。

だが、そのアニメ…余り面白くない、下僕側がなっていない。

「ゆかり姫、貴方のその美貌の前にはすべての男は下僕みたいな者ですよ」

「しょしょしょ正平くん…ななななっ、あんたなんか好きじゃないんだからー――っ」

「ゆかり姫…これはアニメでも小説でもありません…そして俺は下僕でもありませんよ?」

「私は、私は…握手で満足…満足なの…こんな事して貰っても、もう何も無いの…明日から」

「何言っているんですか? これはゆかり姫を楽しませるだけじゃなく俺が楽しみたいだけですよ?」

俺はゆかりの手をとり引き寄せた。

自然と後ろからゆかりを抱きしめる形になる。

「あの正平くん…私、私もう何もないの…何も無いのよー-ヒクッグス、スンスンうえぇぇぇぇー-ん」

泣かれてしまった。

だが、止めない…

「貢物なら、まだあるでしょう…」

「スンスン…もう何も何もないの…何も…無い」

「まだ、ゆかりが残っているよ…髪の毛からつま先まで全部貢いで…ゆかり…」

俺はそのままゆかりの首筋にバンパイヤの様に吸い付いた。

「あああっ、貢よ貢いじゃう…こんな私で良いなら受け取ってくだ…キュウウウウウッー-」

しかし、この世界の女の子は、何でこんなに気絶するんだろう。

前の世界だったら、お持ち帰りできちゃう位まずい…でもこの世界じゃ、それもご褒美か。

◆◆◆

「正平くん…今日はありがとうもう思い残すことは無いよ、最後に良い思い出が出来たよ」


「私も、もう思い残すことは無いわ…正平くんの事一生忘れない」

まさか、ゆかりも病気なのか…

このまま見捨てて良いのか…

「マネージャーさん、あの二人とも何か病気だったりするんですか?」

「至って健康ですが!」

「嘘、言わないで下さい、さっき寿命とか言っていたじゃないですか?」

「ああっ…それですね」

何てことは無かった。

この世界の男性は基本的に女性を好まないが、一部例外がある。

それは少女…大人の女性は受け付けないが、胸が膨らんでない男に近い体型のうちなら受け入れられる男が僅かだが居るらしい。

俺から見たらロリコンにしか思えないが…

そんな男性にモテる事を目的にしていたのが、みうみたいなタイプという事だった。。

「もう、みうも12歳そういう男性からも嫌われる年齢、いい加減、気持ち悪いから声優を辞めさせろって連絡が沢山の男からくるのです…他の路線変更も無理、12歳位までが勝負だったんですが…ロリ系アイドルとして寿命ですね」

この世界は可笑しい…

ロリコンも…可笑しいのか?

前の世界なら『みうちゃん…ハァハァ』とか言ってもうとっくに誰かの者になっている筈だ。

「あの…それじゃ傷者とは…」

「みう…此処迄してくれたんだから、見せるべきだよ」

「そうね…少し気持ち悪いけど…ごめんね」

そう言うとみうは上着を脱いだ…

前の世界と違い女性の体に価値が無いからか脱ぎっぷりが良いな。

確かに大きな傷がある…

「確かに傷があるね」

「私、胃ガンに掛かって、胃の半分を摘出したの…その時に実は50歳の男性から告白受けて『顔見知り』になれそうだったの…でも腹腔鏡で取れない大きさだったから大きくお腹を切らなくちゃならなくて…これがその手術の後…話は勿論流れちゃった…だから、両方の意味で傷者なんだよ…きっと誰ももう、相手にしてくれない」

「そんな事は…」

「あるよね真田さん…今日のコンサートも、間違いだと思っていた位だよね」

「私は嘘は言わない主義です…その通りです」

「あの…ゆかりちゃんが人気が無いって言うのは」

「この子も同じ12歳…もう難しい歳なんです…それよりこの子はお金が無いから、アイドル活動なんてもう出来ない…今でも他の子が男性に嫌われるからやらない『ツンデレ』みたいなお金が掛からない役しかしていません…まぁ男性に貢げない貧乏人ですから」

なんだか聞いていてせつなくなってきた。

今、俺の『ご学友』は2人。

それですら琴美さんは目立つと言っていた。

そういえば…

「『顔見知り』ってなんですか?」

「あはははっご冗談を男性が付き合う、最低レベルじゃないですか? 嫌だな…説明いります?」

説明を聞いた。

そうか…『ご学友』って言うのは未成年レベルだと最高のレベルなのか…

だから、あれ程の話題になったんだな。

実際にはその下に 『友達』『知り合い』『顔見知り』と下のランクがあったんだ。

流石にこの世界の常識をこれ以上聞くのは不味いな。

『友達』はなんだか、ご学友のその下でまた、何か大変な事になると思う。

『顔見知り』は怪我をしなかった場合のみうの待遇だから何だか嫌だな。

『知り合い』うん、これなら響きからして大した事が無い気がするし『顔見知り』より上だ。

「みう、ゆかり…俺は二人を気に入った、体の傷だって別に何とも思わないし、凄く可愛いと思う」

「「正平くん…」」

「俺には既にご学友が2人居て、余り増やさない様に言われているんだ」

「あなた、何を言っているんですか…11歳の少年が?2人のご学友なんて...」

「真田さん、静かにして!」

「黙って下さい!真田さん」

「それで、差をつけるようで悪いけど『知り合い』で良いかな? それで良いなら二人を迎えたい」

「嘘…そんな、傷者なのに…良いの? 本当に良いの?正平くん…グスッ、私頑張って良かったよー――っ最後まで、本当に最後まで頑張って良かったよー-っ」

「私、貧乏だったのに…奇跡みたい…貧乏でも…幸せになれるんだ…ありがとう…神様って、神様って本当に居るんだね…うわぁぁぁぁん、ありがとう、正平さんありがとう…臓器でも何でもあげるからねー-っ」

その後マネージャーの真田さんが、お互いのスマホを使って『知り合い』申請をした…間違えるといけないからか申請ページが違うのか…申請方法がよく解らなかった。

「これでみうは正平くんの者だよ、何でもしてあげるから24時間何時でも連絡して」

「私は髪の毛一本からつま先まで正平さんの者だから…何でもするから、何時でも電話して下さい…待ってます」

二人は手をぶんぶん振りながら…去っていった。

「正平様…」

「真田さん、え~と」

「この度はうちの声優タレント二人との『知り合い』登録ありがとうございます。こんな嬉しい事はマネージャーとしてありません…これはお約束のお金です…受け取って下さい」

「俺は要らないと言いましたので受け取れません」

「みうはあれでもプロです、受け取って下さい、アイドル最後に最高のチャンスを貰い成功したのですから受け取るべきですよ」

どうあっても引っ込めないから仕方なく受け取った。

「解りました」

「マネージャー生活32年、此処迄素晴らしい事はありません、まさか私の担当したアイドル2人が男性の傍にいる権利を手に入れしかも『知り合い』になるなんて、こんな事初めての経験です…それでは私もこれで失礼します」

嘘だろう…『知り合い』になっただけで…これ…

不味い、また琴美さんに怒られる…













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