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第15話 歓迎会
しおりを挟む明日には、亜美が此処に来る。
『日本一可愛い小学生』
確かに凄く可愛いし、将来も絶対に楽しみだ。
前の世界だったら、小学生でナンバー1の女の子。
同級生は勿論、大きなお友達まで何万もの人間を虜にするに違いないな。
それがたった1人の男を射止めるのも難しい。
しかも、その1人は同年代の俺位の人間から老人まで含んでだ。
つまり、80代の老人でも小学生と付き合える。
恐ろしい世界だ。
琴美さんに怖いと思いながら聞いてみたら…
『80歳の老人ですか? 流石にお金がある可愛い子は躊躇するかもしれませんが…普通の子なら受け入れると思いますよ』
マジかこの世界…すげーな。
老人は兎も角、40歳位であれば、普通にアイドルやグラビアアイドルが結婚を迫ってくる…しかもブサイクであっても。
なんて凄い世界なんだ。
諸事情で麻里奈が此処に来るのは1週間位は後になる、琴美さんの話では、アイドルでありプロダクションに所属している亜美は全ての手続きをプロダクションがしているから早い…そういう事らしい。
俺は今、パーティルームを借りて飾りつけをしている。
私→僕→俺と目まぐるしいが、琴美さんからの強い勧めで亜美が来る前に『俺』に変える事にした。
この世界の男は横暴で『僕』『私』を使うような男は居ないそうだ。
女の子の名前すら覚えない男が居るらしい。
エルミナさんも千鶴さんにも目立つと言われたので…『俺』にするしかなさそうだ。
「それで正平さんは、なんでそんな飾り付けをしているんですか?」
「明日から亜美が此処にくるんだから、歓迎会位してあげても良いんじゃないか?」
「「「歓迎会?」」」
あれ、可笑しいな? 歓迎会が解らないのかな。
「歓迎会、解らないのかな?」
「いえ、男性がくるならいざ知らず、女が来るのに歓迎会ですか?」
「え~と、そんな必要ありますか?」
「そうですわ、女に歓迎会なんて無駄ですわ」
どうやらこの世界じゃ歓迎会は男にしか開かないようだ…
「いいんだ、それでも新しい子が仲間になった時にはこう言う事をしてあげたい…それにこれは遅れたけど、琴美さんやエルミナさんや千鶴さんの歓迎会も兼ねているんだ」
「そんな、私も、なのですか?」
「わ私も?」
「私もなのですか?」
「そうだよ…あっ準備は手伝わないで良いからね、俺が全部用意するから」
手伝いたくてこっちを見ている三人を追い出した。
◆◆◆
こう言う準備はお手の物だ。
やれ先輩ホストの誕生日だ、なんだと新人時代は随分とやらされた。
シャンパンタワーは無理だから同じようにグラスを並べて…炭酸シャワーだな。
本当に此処は楽だ、買い出しは徳永さんに言えば何でも調達してくれる。
クラッカーに飲み物、料理の材料。
俺がその場で作っても良いんだが…そうしたら会話を楽しめない。
だから立食式で良い。
ケーキは作れないから頼んだ。
パスタにチキン料理…フライパンを使ったら思うように扱えない。
だが…これは…俺が作る…なんでだ。
俺はこの世界の人間じゃない。
焦がした…子供だからと甘えない。
俺がもてなすと決めた。
女だから『歓迎しない』それはこの世界のルールだ。
俺のルールじゃない…
なんで俺はむきになる。
そんな事しなくても…モテるだろう。
そうか…本当にそうか?
違う…俺が見たいのは…違う。
俺が見たかったのは…なんだ。
たかが、おままごとみたいな水商売。
それでも二人は笑っていた…あの笑顔が見たい。
そうだ…俺は…俺はホストだから…
女を喜ばせる事…それが俺の誇りだからな。
じじいになって迄追った夢だからだ。
なんだ…気合を込めたら、どうにかなったな。
飾り付けOK。
カラオケOK…
食事に飲み物OK…
準備は完璧だ。
◆◆◆
三人に亜美を迎えにいって貰った。
もうすぐ…此処に亜美がくる。
ドアが開いた。
「正平くん、貴方の亜美が来ました~」
「亜美ちゃん、君を歓迎するよ…君の為に歌を作ったんだ、伴奏も無いけどね…」
残念な事にこの歌はこの世界に無かった。
本当はパクリだ…だがない以上はしょうがない。
「曲は『悲しい男 頑張って歌うね』」
「ううっ嘘…正平くんが歌ってくれるの?」
『悲しい男』とはホストが歌う定番の曲で…好きな女の子にキャバクラを辞めて欲しい…傍に居て欲しいと切に願う歌だ…ただこの曲は男の弱さを歌った歌で…ひたすら縋るような歌だ。
このキャバクラや水商売の歌詞をアイドルに変えて歌ってみた。
「君といたいんだー-っ」
「なんて歌、歌うんですか…悲しくて、悲しくてあああー-っ」
「こんな馬鹿な女が居たら斬る、殺す」
「こんなの悲しすぎますわ…こんなの…涙が止まりませんわー-っ」
「正平くんグスッグスッ…言われなくても亜美、アイドル引退してきたんだよ…もう正平くんだけの者なの…だから悲しまなくて良いんだよ…傍から離れないから…ずうっと..スンスン…傍にいるからね…悲しまないで良いんだから…」
確かに、気持ちを込めたけど…歌だよ。
麻里奈の時と違って亜美ちゃん…プロだよね…歌っているじゃん、ラブソング。
どうしよう?これ。
◆◆◆
「正平さん…歌は禁止します! 流石にこれは心臓に悪いです…人によっては死人がでます」
「真面目に気をつけよう…死人がでる」
「確かに怖いですわね、ですが私は正平様の歌好きですわ、他の方が嫌なら嫌なら嫌ならわたわた…私が聞きますわ」
「エルミナ、お前呂律が可笑しい」
「私は可笑しくありませんわ、ことよ」
「驚いたぁ~まさか男の子が、私の為にラブソングを歌うなんて思わないよ!ありがとう正平くん、私をご学友に選んでくれて、捨てられるまで、正平くんが楽しい人生を歩めるよう頑張るね」
「なんで捨てるのが前提なの…そんな事するわけないじゃない」
「嘘…凄く嬉しい…11年生きてきた中でこんな事が起きるなんて…何でも亜美してあげるよ」
「あの…今捨てないと言いました? 私もそうなのですか?」
「私もそうなのかな…嘘じゃ無くて」
「私もそうなのですか? 嘘とか言いませんわよね?」
「え~と普通そう言うもんじゃ無いの?」
「正平くん…凄く嬉しい…何が欲しいの? お金、それとも…」
この環境で、他に何が欲しいんだ…他の男は。
「それじゃ、亜美ちゃんに歌って欲しい」
「うん! 解ったわ、亜美、正平くんの為に歌うね…」
凄い…これが小学生とはいえアイドルの力なんだ…
俺とは全然違う…
歌に合わせて手拍子をするだけなのに…3曲も連続して歌ってくれた。
「流石、元アイドル凄い…」
「正平くんが喜んでくれるなら、幾らでも歌うよ」
俺はクラッカーを使った。
パンッという音に合わせて…
「亜美ちゃん、これからもよろしくねー-っ」
ただ、それだけの事なのに泣き出した。
炭酸ジュースのタワーに料理が手作りだと言っただけで泣き出す。
俺は女の子の笑顔が見たい。
こんなに喜んでくれるなら…
この程度毎日したっていいんだ…
本当にそう思った。
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