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第2話 私の死

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ラブに入店して暫くは可笑しな目で見られた。

しかも水木オーナーが面白がって『志賀直哉』と昔の文豪の源氏名がつけられた。

このホストクラブで苗字がついた源氏名は私だけだった。

これは何故か解らない。

多くのホストからは『じじい』と怒鳴られる日々が続いた。

この齢になって一番下は結構辛かったが、トイレ掃除に客のゲロの掃除を頑張り…便器を舐めても良い位ピカピカに磨く私に、皆が心開いてくれた。

「じじい」と馬鹿にする声が「じいさん頑張っているな」に代わり…

今は『直哉』もしくは『直哉さん』に代わった。

楽しい時間は過ぎるのは早い。

流石はこの齢だからナンバーワンには成れず、ナンバー3~ナンバー6位を行ったり来たりしていた。

まぁ、このお店ではそこそこ注目されるレベルに迄はなった。

凄いもんだな…

あの『嫌われ者ナンバー1』の私が今や女を侍らす様な生活になれるなんてな。

太客は掴めなかったが、こんな私が女子大生やキャバ嬢に風俗嬢まで侍らせられる人間になるなんて、思わなかったな。

こんな私にお金を使ってくれる女性が出来るなんて…幸せだ。

※注意、この辺りは昭和の設定です。

楽しい時間は本当に早い、気が付くと私は60歳になっていた。

指名は未だに貰え、ホスト仲間からは『父さん』と慕われる様になっていた。

だが、この商売は大量にお酒を飲まないとならない。

齢のせいか、ドンペリ、ヘネシー、マーテル…ボトルを入れて貰っても、余り一緒に飲めない。

飲み役の新人がヘルプに入り飲んでくれて、年齢を気にしたお客は「無りしないでウーロン茶で良いよ」と言われる始末。

もう終わりが近いな。

◆◆◆

「なぁ、志賀直哉…もうそろそろ無理なんじゃないか? この間トイレで倒れたろう」

確かにもう無理だな。

「ああっ、水木オーナーもうすぐ私も60歳、気持ちがあっても体が無理そうですね」

「なぁ志賀直哉…お前は経営側に来る気は無いんだよな?」

「そうだな、それは止めて置くよ」

水木さんはタバコに火をつけた。

「それでお前どうするんだ?」

「そうですね、今までしっかり年金を払ってきたから、年金でも貰いながら自由気ままに恋愛して楽しく暮らします」

※ 昭和の設定ですので60歳からしっかり年金が貰えました。

「そうか…すっかり忘れていたがおまえは『じじい』だったな」

「はい」

「それじゃ次のお前の誕生日で卒業でどうだ」

「はい、宜しくお願い致します」

◆◆◆

誕生日は凄く楽しかった。

貸し切りにして貰い、シャンパンタワーに大きなケーキ。

仲間やお客さんに見送らて…花束を貰い引退。

10年間の想いが募り思わず涙した。

そして、店を出て夜風を浴びて歩いていると急に心臓が苦しくなって更に頭痛が私を襲った。

嘘…このタイミングで発作か…

自分の体の事は自分で解る…多分もう死ぬんだな。

『楽しかった』

私は路地裏で静かに息を引き取った。

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