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第42話 バンパイアホスト
しおりを挟む俺は今、新宿にある『LOVE』という名前のホストクラブに来ている。
此処は南条グループの持つ店のひとつで、孝蔵との約束で出入り自由になっている筈だ。
店に入って行くと少し強面のイケメンが話しかけてきた。
「お前が黒木理人だな? 俺はこの店の支配人優斗だ。孝蔵様から話は聞いている。 未成年という事に目をつぶれと言う事だ」
話しはしっかり通っていたようだ。
「それは話がはやい」
「だが、それ以上、特別扱いはしない。お前は此処では一番の新人、もしここに来るなら、誰よりも一番早く店に来て便所掃除からだ」
まぁ良く見るドラマみたいな話だ。
「それは、この店でナンバー1になってもそうなの?」
「馬鹿か! どんな新人でもナンバー10までに入れば、何もしないで良いし、店の中でも自由にして構わない」
「そうなんだ…それじゃ、すぐに上にあがって免除に…」
「馬鹿か! ここは『LOVE』なんだぜ! どんな有能な新人でも、そこに上がるには1年は掛かる。粋がるのは良いが身の程をわきまえるんだな」
「そうですか……」
「なんだ、その目は! それにその服装はなんだ! この店はスーツ着用だ! Tシャツにジーンズなんて馬鹿にしているのか?」
スーツ着るのは面倒くさいな……
「これでも充分だと思いますね。そうだ1週間だけ、この服装で通うのを許して下さい。そうですね、その期限までに、ナンバー5に入れなかったら、もう二度とここに来ませんから、あっその期間は雑用も免除でお願いしますね」
「随分な自信だな。だが此処は『LOVE』なんだぜ。お前みたいにモテるのを自慢する男なんか腐る程いる。そしてそんな男が半年持たず去って行く場所だ。やれるならやってみな!やれたらドンペリ十本一気飲みしてやる」
「そう、それじゃ、約束です」
「やれるもんならやってみな!」
悪いな。
俺、人じゃないから。
多分、余裕で出来る。
しばらくして、ホスト達が店に集まってきた。
その中心にいる男が俺をジロジロ見て優斗に話掛けた。
「優斗さん、その子どうしたの? ジーンズにTシャツで立っていてさぁ」
「孝蔵様から言われてこの店のホストにしなくちゃいけないんだが、此奴馬鹿でよ。スーツも着ないで店に出て1週間以内にナンバー5以上になれなければ辞めるそうだ……名前はリヒト。だが、皆は自己紹介は無用だ」
「まぁ、その条件じゃ自己紹介の意味ねーな」
「五日後に確実にいなくなるし」
「よく勘違いする奴いるんだよな」
「それでお前、どうやって客を獲得するわけ? 外に出て客引きでもするわけ?」
バンパイアになったからわかる。
こいつらは敵意を持っている。
まぁ、喧嘩売っていると思われてもおかしくない状況だが…
「なぁ、こちらから声を掛けて、他のホストのお客をとるのは違反だと何となくわかるが、何もしないで立っているだけで、他のホストの女から指名をされたらどうなんだ?」
「それなら、違反じゃないが、お前は馬鹿なのか? そんな夢みたいな話ある訳無いだろう?
「それで、お前、そんな事出来る訳? 本当に外に客引きに行きもしないわけ」
「しない…面倒くさいからな。此処で邪魔にならないように立っているよ…」
「まぁ可哀そうだから、俺は自己紹介してやるよ。俺の名前は氷河だ。この店のナンバー1だ。まぁ頑張れよ」
「適当に頑張るよ」
周りのホストが俺を睨んでいるけど、気にする必要はないな。
◆◆◆
扉が開き、女性が1人入ってきた。
「悠乃さんいらっしゃい!」
金髪のホストが近寄っていく。
「今日も指名は、いつも通り将人で宜しいですか?」
ちょっと派手な若い女で容姿は余り好みではない。
だが、これは俺にとって食事。
だから、好き嫌いは良くない。
『チャーム』
女を睨むように見ながら魅了の力を使った。
「ごめんなさい。今日は指名をかえさせて貰うわ。優斗さん。今日の指名はあそこで立っている、Tシャツにジーンズの子に変えて下さらない?」
金髪のホストがこちらを睨んでいる。
多分、彼奴は将人なのかも知れない。
「どうかしたの。悠乃さん! 俺なにか……」
「いえ……」
「ご指名ありがとうございます! 理人と申します。宜しくお願い致します」
「こちらこそ、宜しく、それじゃ席に案内して下さらない」
俺は適当な席へ悠乃という女性を案内した。
「それで、私は何を飲めばよいの? 私に合いそうなお酒を選んで下さらない? 」
お酒?
さっぱりわからない。
「正直いって俺はお酒の事はわからないから、好きなお酒を選んで下さい。悠乃さんの好きなお酒でいいですよ! 俺はウーロン茶でも飲みながら話を聞きますから」
「貴方、ホストでしょう? 何考えているの? ちゃんと」
俺は悠乃の耳元で囁いた。
「(ボソッ)まどろっこしいの嫌いなんで、入れるお酒によってアフターでのサービスをしますよ」
「(ボソッ)本当?」
「嘘はつきませんよ」
「そう、わかったわ。それじゃ、アルマンドのブラック2本入れてあげるわ。私シャンパンしか飲まないから。それで良い?」
「充分です。すみません、アルマンドのブラック2本とウーロン茶下さい」
俺がオーダーをするとすぐに黒服の店員がシャンパンとグラス、ウーロン茶を持ってきた。
「彼は今日が初日なのでヘルプについて」
「要らないわ、彼が気に入ったから指名したんだから……」
「そうですか……わかりました」
さてどうしようか?
もう自己流でヤルしか無いな。
まぁ開け方位はわかるからどうにかなるだろう。
シャンパンを開けてグラスに注いだ。
「どうぞ」
「ありがとう」
ここからは、もう自己流で良いだろう。
相手の目を見ながら話しかける。
「君の瞳に乾杯……凄く綺麗な目をしているね」
「そうかしら?」
「そう……食べてしまいたい位に」
「ハァハァ……そう?」
俺に会話は必要ない。
俺はバンパイアでインキュバスだから、この程度で充分。
「それで、そのシャンパンなんだけど? すぐに飲めない? 飲み干したらすぐにアフターに付き合っちゃうけど!?」
「本当?」
「本当?」
悠乃は手酌で凄い勢いでシャンパンを飲み始めた。
俺は横でちびちびウーロン茶を飲んでいる。
凄いな……ボトル2本、30分で飲み終わっているし。
「ゲフッ……飲んだわ。これでアフターよね?」
「それじゃ行きますか? 頑張ったからご褒美にホテル代は俺が出します」
「おい、まだ店は終わってないぞ……何処へ行くんだ?」
「彼女を満足させたら帰ってきますから、取り敢えず、これだけ売上たんだからそれ位良いでしょう?」
悠乃に清算をさせ、渋い顔の優斗を見ながら店を後にした。
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