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第10話 帰還 もう二度と会う事はない。
しおりを挟む「助けて…ハッ?!」
此処は何処だ?
電動ベッド…点滴…
病院?!
鏡…鏡だ!
良かった…元の俺の姿だ、老人の姿でも白髪でも無い、俺の姿だ。
俺は同級生によって殺されかけ、地獄の日々を送ってきた。
『復讐したい』
心の片隅でそう思うが…それはもう叶わない。
彼奴らは異世界で…おれは此処に戻ってきたからだ。
ポジティブに考えよう。
『無かった事にすれば良い』
此処から新しい人生をスタートすれば良いんだ。
◆◆◆
「理人…嘘…目が覚めたのね…良かった…本当に良かった!」
「母さん…」
異世界転移での地獄の日々を送っていたから忘れていたけど…家族が居るじゃないか…
親に心配をさせない。
それだけでも帰ってきて良かった。
そう思う。
「本当にもう、母さん、理人はもう目を覚まさないと思ったんだからね…全く、親に心配させるんじゃないわよ!」
「うん、解ったよ…だけど、一体俺はどうなっていたんだ!」
「もしかして、記憶が…」
「ゴメン…」
「そうね、あんな事故にあったんだもの仕方ないわよ」
そう言うと母さんは『俺には無い記憶』について話してくれた。
どうやら、俺達は学校行事のクルージングで大きな船に乗っていたそうだ。
そして、その旅行中船が行方不明になった。
必死に捜索するも見つからず、消息不明から3週間後に気絶した俺が船の破片にしがみ付いた状態でいるのを海上自衛隊の船が偶々見つけたそうだ。
「そんな事が…」
そういう辻褄合わせをあの女神がした。
そういう事だな。
「ええっ、貴方が生きていたのは奇跡だと言っていたわ」
他の同級生はどういう事にしたんだ。
「それで他の同級生は…その…」
「いまだに行方不明よ…ただ、貴方が気を失った状態で見つかってから更に1週間が過ぎているの。そして破損して沈んでいる船が発見されたそうよ…そこには同級生の姿は無かった、救命ボートも使われた形跡がなく、あの海域にはサメが多数いる事からも多分、生存は難しいという話だわ…」
そういう事にしたんだな。
確かに船の事故なら死体が見つからなくても可笑しくない。
『けっ』
死んでなんかねーよ。
今頃は俺と違って、異世界で成功者として貴族にでもなって女侍らせて生活してんじゃねーのかな。
まぁ、俺には関係ないがな。
「そうか…助かったのは俺だけか…母さん、まだ眠いから寝てていいかな?」
「そうね、母さん貴方が目を覚ました事をお医者さんに伝えてくるわ、今はゆっくりお休みなさい」
「ありがとう…」
本当は俺が殺され掛かったのに…この世界では俺が助かって同級生が死んだ事になっている。
今、あいつ等を見たら『殴りたくなる』からこれで良いんだ。
もう二度と会う事はない。
こうして俺は元の年齢からやり直しが出来るんだ。
今は忘れられないが…何時かこの恨みも忘れる事が出来るだろう。
喉が渇いた。
吸い飲みから水を飲んで俺は再び横になった。
横になり目を瞑ると…
駄目だ、あの悪夢の光景が思い出された。
眠るのが…眠るのが…怖い。
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