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第9話 女神も勇者の味方
しおりを挟むただ、ただ絶望しかない。
暗い闇の中で…同級生を恨み血と精を吸われる生活。
どの位の時間が経ったか解らない。
平城…俺の好みの女の子だった筈が、今は憎しみしかない。
ナイフを突き刺す事を何回、夢見たか解らない。
塔子、彼女は学園のアイドル的存在だが、今の俺には殺したい程憎い相手だ。
大樹、大河、聖人…残酷に殺したい。
こんな奴らが勇者パーティなら…死ねば良い。
魔王によって殺されろ。
残酷に殺されてしまえ…
同級生全員、死んでしまえば良いんだ。
だが、俺を襲ってくる此奴らも魔族…死ね、死ね死ね…皆、死んでしまえ。
◆◆◆
その日は何故か様子が可笑しかった。
無数にいる、バンパイアやサキュバスが慌てふためいている。
そして、暫くすると、何処かに行ってしまった。
『何があったのか解らない』
今迄、こんな事は無かった。
この後どうなるのだろうか…このままなら…俺はようやく死ねる時が...来たのかも知れない。
暗闇の中に光が降り注いで来た。
幻覚?
そう思ったが違う。
光が広がっていき、俺の意識は失われていった。
◆◆◆
「理人…」
俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
「理人…目を覚ますのです…」
「理人…」
幻聴か?
優しい声が聞こえて来る気がする。
俺が目を開けるとそこには、あの日俺にジョブとスキルをくれた女神が居た。
「女神様…」
自分をよく見ると手足があり、牙で穴だらけだった体が治っている。
何が起きたのだろうか?
それに此処は何処だ。
「此処は何処ですか?」
「ここは私の空間です!私が貴方と初めてあった場所、ジョブとスキルを与えた場所です」
あの時のあの場所か…そうだ俺は…
確かに怪我は治っている。
だが、自分の顔はどう見ても、老人のように見える。
「あっああーーっーーああっああああーーーー」
「落ち着きなさい!貴方が旅立ち10年の月日が経ちました!貴方が捕らわれている間に勇者大樹が無事、魔王を倒したのです…そこで女神の私が貴方に聞きに来たのです」
「何をでしょうか?」
「この世界に留まるか、元の世界に戻るかです」
何故、こんな風に話す!
今の話では『俺が捕らわれていたのを知っていた』みたいじゃないか?
それを知っているなら…何故、大樹達を咎めない。
「淡々と話していますが、貴方は女神でしょう! 平城や大樹達の犯罪を見逃すのですか!」
「犯罪?ああっ貴方の事ですか? 確かに彼等は悪い事をしました」
「だったら…」
「ですが、その後に沢山の善行を積みました! 旅をし、人々の為に戦い何万もの人を希望に導いたのです…その充分すぎる功績を考えたら罪になんて問えません…この世界最大の功績『魔王討伐』を果たしたのですから」
何だよ、それ…
「この世界は随分と酷い世界なのですね…普通に考えて『殺人未遂』を犯しても誰も罪に問わず…そのあと何くわぬ…」
「それは違います! 貴方はあの時、ちゃんとやり返していました! 勇者を含む四職達から幾つものスキルを盗んでいます! 例えば『自動回復』『自己再生』これらのスキルは本来は魔王討伐に必要なスキルでした…それが無い為に苦戦をし傷つきながら戦い…そして、貴方を恨むことなく、任務をまっとうしたのです」
「偽善者だ!」
「何を言うのですか? 彼らは…」
「俺が捕らわれているのを知っていたなら、何故女神のお前が俺を助けない!」
「私は、この世界に介入できません」
「そうか、なら良いや! 大樹達勇者は俺を捨てた張本人だ!俺があの場所に居た事を知っていた筈だ! 勇者なら俺をあの場所から救えたのではないか!」
駄目だ…怒りが収まらない。
「それは違います…彼らは、貴方が死んだと思っていました…だから、その事を悔い」
「はん…本当に悔いていたなら、死体だけでも取返し、供養くらいはする…勇者たちは良い…どうあっても断罪出来ないみたいだからな! なら王様や王女はどうだ? 彼奴らが認めたから…俺は…俺は…あんな地獄に…」
「王や王女に償わせれば良いのですか? それが本心でしょうか?」
「いや、それは…」
「先に『この世界に留まるか』『元の世界に帰るか』その二択を決めて下さい! その後に貴方への罪の償いを考えます」
「こんな世界に居たくないな! 殺人を平気で犯す奴が持て囃される世界なんてクソだ!」
「帰る…それでよいのですね」
「ああっ…」
「それでは償いについて話しましょう! まず帰る場合には私が与えたジョブやスキル、そして奪ったスキルは元の世界には持って帰れません!」
「何だと! それじゃ俺はただ拷問にあっただけじゃないか? ふざけるな!」
「更にいうなら、本来は、此処で過ごした10年の月日は返せません」
「俺にこの姿で元の世界に帰れと言うのか…」
実際には10年しか経っていない。
だから、まだ20代なのに、恐怖で髪は白くなり、顔も体も老人みたいな姿だ。
これで帰れというのか…
ならば、此処に残って俺は…最後に1花咲かせて…
「私は女神です…貴方の考えが解ります! 復讐ですか!それは何も生みませんよ! 勇者たちは強いですから簡単に殺されるだけです…世界を救い、世界の誰からも愛されています! もし果たせたとしても前より辛い人生が待っているだけです! それに勇者殺しをしたら、もう、私は貴方を地獄に落とさなければならない…」
「何処までも…大樹達に甘く、俺には冷たい世界なんだな…お前は女神じゃない悪魔だ!」
「…その侮辱は甘んじて受けます…ですが聞いて下さい! 勇者達に罪は問えませんが、望むのなら王様や王女に罪を問いましょう! 勇者達の罪を容認した罪として王と王女から10年寿命を取り上げましょう…それで如何ですか?」
「どういう事だ!」
「簡単です! 王から取り上げた寿命10年で貴方の時間を逆行させ、多少の時間やずれは生じますが、貴方を10年前に戻します! 王女から取り上げた10年で、今の貴方の姿を10年前に戻します…ちゃんと辻褄をあわせます『この世界に召喚されなかった』そういった人生をやり直すのはどうでしょうか?」
「…」
「これ以上の譲歩は出来ません! 貴方も勇者達のスキルを盗んではいるのですから…その事を考えたら最大の譲歩です! それにマリン王女は今現在、24歳で勇者大樹との婚姻が決まっています。34歳の容姿になれば女なら誰しも悲しむ筈です。勇者大樹も自分の婚姻相手がいきなり10歳も齢をとったら少しはショックを受けるでしょう…如何ですか?」
幾ら、言ってもこれ以上譲歩しない。
目がそう語っている。
「解りました…それでお願いいたします」
今の俺には、そういう以外道が無かった。
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