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しおりを挟む第一章 さらば、勇者パーティ
「悪いが今日でクビだ」
パーティリーダーであり、勇者のジョブを持つリヒトが俺に告げた。
さらにリヒトは憐れむように続ける。
「今までずっと仲間として支え合いながらここまで来たよな……だが、お前は俺達と力の差が開きすぎた。わかっているだろ、ケイン」
確かに最近の俺は取り残されていた。
勇者のリヒト。
剣聖のケイト。
聖女のソニア。
賢者のリタ。
そして俺、魔法戦士のケイン。
五人揃ってSランクパーティ〝ブラックウイング〟。
俺達は幼なじみでもある。
だが、成長した四人に、俺は追いつけなかった。
とはいえ、別にクビになっても良いと思っていた。
この世界では、冒険者ギルドが格付けするパーティのランクと冒険者のランクがある。
俺はこのパーティでは落ちこぼれだけど、冒険者ランクはSランクなのだ。
ここを出れば、いくらでも拾ってくれるところがある。
こいつらにはついていけないかもしれないが、他のSランクパーティならまだ通用するし、Aランクのパーティまで落とせば引く手あまただ。
俺にもそのくらいの価値はある。
「確かに魔法戦士の俺じゃ皆についていくのは難しいな」
俺はリヒトにそう言った。
幼なじみである俺にはこいつの狙いがわかる。どうせハーレムが欲しいだけだ。
俺とリヒト以外のメンバーは全員女だからな。
だが、リヒトはもっともらしい理由をつけたいようだ。
「勇者として飛躍するには大きな手柄が必要になる。残念ながらお前とじゃ無理なんだ。わかってくれるだろ? それに、パーティを抜けてもお前が親友なのは変わらないからな」
俺は他のメンバーを見回す。
元恋人である賢者リタの目を見た。彼女はもう昔のような優しい目をしていない。リヒトの女になったのは知っていた。
リタが口を開く。
「私もリヒトの意見に賛成だわ! あなたはもうこのパーティについていけない。きっと近いうちに死ぬか大怪我をするから、さっさと辞めた方が良いわ。これはあなたの事を思って言っているのよ」
「リタ……そうだよな。ありがとう!」
俺はリタに微笑みながら礼を言った。
ふと、リタの左手に目がいく。
薬指には見覚えのない指輪があった。これは恐らくリヒトが買い与えた物だろう。
俺があげた指輪はもうしていない……
勇者と魔法戦士ではジョブとしての価値が違いすぎる。リタがリヒトを選ぶのも仕方ないと諦めがついた。
ちなみに他の二人も同じ指輪をはめていた。
ハーレムパーティに俺はいらない。
まあ一応確認だけしておくか。
「リタ……二人の関係は終わりで良いんだな」
「……」
リタは答えない。俺はさらに問う。
「君の口から聞きたい」
「もう、あなたを愛していない」
そんな事はもうとっくにわかっていた。あくまで確認だ。
俺はリタに笑ってみせた。
「まあ、リヒトは良い奴だ。幸せになれよ!」
リヒトの名前を出すと彼女は驚いたようだった。
「し、知っていたの?」
「ああ。まあ、仕方ない。リヒトは勇者だ。こいつなら諦めもつく」
「ごめんなさい!」
「気にするな」
俺にとっては今さらどうでも良い事だ。
そこへリヒトが割って入る。
「もういいだろ。村に帰って田舎冒険者になるか、別のパーティを探してくれ」
「そうだな、俺は他に行くよ」
こいつは俺とリタが付き合っているのを知っていて寝取った。
親友だと思っていたのにな……馬鹿野郎。
リヒトは勝ち誇った顔で俺を見ている。
思いっきり、俺をあざ笑っているんだな。
何をしても優秀で、顔も良くて、強くて、おまけに勇者だ。
そんなお前が、俺は自慢だったんだ。
彼らに背を向けると、四人の幼なじみが一斉にお別れの言葉を言ってくる。
「じゃあな!」
俺はそれに元気に応えた。
リヒト達と別れた俺は一人町をぶらついていた。
実は俺、ケインには、前世の記憶がある。
日本という国で小説好きの学生だった、というだけのものだが。
その時によく読んだラノベのテンプレで〝ざまぁ〟というのがあった。今の俺はそれをしてもいい状況だが……別に〝ざまぁ〟なんてしなくて良いんじゃないかな?
そもそも、俺は巻き込まれて勇者パーティにいただけなんだ。
どうやってこの世界に来たのかは覚えていないが、気が付いたら俺は十歳ほどの少年になり、ある村にいた。
そして、村にいた幼なじみが全員、四職――勇者、聖女、剣聖、賢者だったのだ。
ちなみに四職というのは、魔族の四天王及び、魔王を倒すために必要と言われているジョブの事だ。
魔族は魔王に仕える存在全てを指す。四天王はその中でも特に強大な力を持つ四人が持つ称号である。
幼なじみがそんな大変な戦いに巻き込まれるんだ、俺だって何もしないわけにはいくまい。それだけの事だった。
勇者パーティなんて、歳をとってもずっと冒険しなくてはならない。定住はできないし、旅が終わる頃には爺さんだ。
それに、勇者パーティは名誉のために大金を捨てなきゃならない仕事なんだぜ。
普通はワイバーンを狩れば一体でも大金が入る。日本円で約五百万円くらいだ。
だが、勇者パーティは国に所属するから、報酬は全部国に取られる。
そんな事をさせられながら、最後は魔王と死ぬか生きるかの戦いをさせられる、究極の貧乏くじだ。
だから、正直に言えば、「追放してくれてありがとう」なんだよ!
◇◆◇◆◇
俺がパーティを追い出されてから数日――ソロになった途端、俺の周りは騒がしくなった。
ギルドに行けば毎日冒険者達に囲まれる。
「私達とパーティを組みませんか? 私、ケインさんに憧れていました」
「俺のところに来ませんか? 顔が良い女もいますよ?」
「ブラックウイングなんてクソだわ……だってリヒトさんのハーレムパーティじゃないですか。私達はケインさんの方が好きです。絶対満足させますから」
こんな具合で俺の周りに集まってくる人達に、俺は笑顔で対応した。
「誘ってくれてありがとうな! だけど今は好きな事をしたいんだ」
これだけ人が寄ってくるのも無理はない。
俺はソロでワイバーンだって狩れるのだ。
そんな人材、どう考えても欲しいだろう?
ギルドの受付嬢だって、俺を見てソワソワしているよ。
そりゃそうだ。これだけ使える冒険者はギルドも重宝する。
だから俺は、リヒト達なんて気にしない。普通に幸せに暮らせるんだからな。
早速新しいパーティメンバーを集めるか。
まあ、ギルドの掲示板に募集を載せるだけだが。
手続きを済ませ、ギルドの酒場で酒を飲みながらゆっくりしていると、長い金髪の女性が話しかけてきた。
「ちょっと話をさせてもらって良いだろうか?」
「別に構わないけど、メンバー募集の話かな?」
「そうだ。私の名前はアイシャ。Aランクでそこそこ有能な方だと思うのだが、メンバーとしてどうだろうか?」
「まさか、剣姫アイシャか……?」
確かジョブはクルセイダー。美しい剣技と容姿で有名な女騎士だ。
「俺で良いのかな? アイシャさんみたいな方が入ってくれたら確かに嬉しいけど……」
俺が戸惑い気味に返すと、アイシャは語気を強くする。
「馬鹿を言うな! ケイン様はSランクなんだぞ! 私にとってあなたは雲の上の人だ」
俺はそれを聞いて頷く。
「じゃあ、採用で」
「本当なんだな! 後で嘘とか言ったら泣くからな!」
「嘘なんて言わないよ……ただ、今はまだパーティメンバーが集まっていないから、活動は人数が集まってからになる」
「ならば問題はない……ほら!」
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茶色いおかっぱ頭でマントを羽織った少女が頭を下げる。
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俺が呟くと、今度はアイシャが口を開いた。
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「はーい。アイシャさん、どうしたんですか?」
「ケイン様のパーティ募集の枠があるけどどうだ?」
「え……ケインってあの勇者パーティのケイン? そんなの入るに決まってますよ! 良いんですか?」
こちらを見上げてくるクルダに俺は頷いた。
「よし、これでメンバーは揃ったかな……」
あっという間にパーティが決まった。
俺は早速新パーティのミーティングを始める。
「今回は俺のパーティに参加してくれてありがとう」
そう言って頭を下げると、アイシャが首を横に振る。
「何を言っているのだ! Sランクであるあなたのパーティに入れてもらえるんだ。礼を言いたいのは私だ」
アイシャの言葉にアリス、メルル、クルダが同意する。
「私もそう思うわ」
「はい、あたしもです。でもあたしなんかで務まるんですかね……?」
「うちもCランクなんだけど大丈夫ですか?」
俺は不安そうな新メンバー達に、笑って答える。
「ああ、大丈夫だ。だが冒険を期待していたようならすまない。このパーティのモットーは無理をしない。そして、全員が楽しく暮らす、だ!」
「「「「楽しく暮らす!?」」」」
声を揃えて驚く皆。だが、嫌そうな顔をする者は一人もいない。
「そうだ。簡単に言うと、皆でお金を稼いでのんびり暮らす。それ以上でもそれ以下でもない! それが嫌なら抜けてもらって構わない」
「ふむふむ……それで報酬の分配などはどうするのだ?」
アイシャが口にした疑問は当然のものだ。俺は説明する。
「基本は俺が管理する。最初の一ヵ月は報酬から生活費のみ支給する。そして残りのお金で、俺達のパーティハウス――つまり拠点を買うつもりだ。もちろん全員の共同名義でな。その後の報酬は六等分して、六分の一は貯金、残りを平等に分配でどうだ?」
俺が説明を終えると、メルルがおずおずと聞いてくる。
「あの、あたしはBランクなんですが、同じ額をいただいて良いのですか?」
「構わないよ。皆、とりあえずそれでどうかな? アイシャとアリスはAランクだけど大丈夫?」
「私は問題ない……Sランクのケインさんが同じ額なのに、文句なんて言わないさ」
「私だってそうよ。後方支援なのに贅沢なんて言えない」
アイシャとアリスも同意してくれた。
「それじゃ決まりだな! そうだな、最初は稼がなきゃいけないし、ちょっと頑張ってワイバーンを狙ってみようか」
「「「「ワイバーン!?」」」」
「そう驚かないで! 基本は俺がやる。皆は後方支援してくれれば良い」
ワイバーンは亜種とはいえ立派な竜だ。
普通は人数を集めて、数で倒す方法をとる。
それをたった五人……一人はポーターだから実質四人で倒そうと言っているようなもの。驚くのも無理はない。
「ひとまず今日は解散して明日の朝、町の表門に集合だな。もし問題なく依頼をこなせたら祝杯を挙げよう!」
「「「「はい!」」」」
◇◆◇◆◇
翌朝――俺が待ち合わせ場所の門で待っていると、四人が揃ってやってきた。
「よし、行こうか?」
事前に馬車を用意しておき、必要な物は全部積んでおいた。
今回の依頼はワイバーンの素材回収。
つまりはワイバーン討伐だ。
わりと難度の高い依頼だが、準備は万全だ。
するとクルダが尋ねてくる。
「あの……御者は誰がするのですか?」
「それは俺がやるよ」
クルダをはじめ、メンバーの皆は一番ランクが高い俺に御者をやらせる事に気が引ける様子。
まあ、そんな事はどうだっていい。俺は皆が乗り込んだのを確認して、馬車を出発させた。
馬車に揺られて三時間――ようやく目的の場所に着いた。
「さてと……ようやく到着したな」
「ここは……ワイバーンの岩場? 大量のワイバーンが生息しているという……」
アイシャの呟きに俺は頷いた。
すると――
「ああ、私には無理だ……」
アイシャは卒倒しそうになる。俺は慌てて彼女を支えた。
「大丈夫だよ、アイシャ! ワイバーンを倒すのは俺! 君は仲間を守るだけで良い。とりあえず、アリスさんは視界に入ったワイバーンの翼に攻撃魔法を。メルルさんは適宜回復を頼む!」
こうして俺達のパーティの初戦が始まった。
「これが勇者パーティに所属したSランクの実力なのか……?」
そう呟いたアイシャの目の前には、もう十を超えるワイバーンが積まれている。
俺はこのワイバーンを全部たった一人で倒した。
だが、まだまだいけるな。
「メルル、回復魔法は後何回使える?」
俺が尋ねると、メルルは元気よく答える。
「たぶん、十回はいけます」
「アリスはどうだ?」
「まだ大丈夫よ!」
「それじゃクルダ……どのくらい収納は可能だ?」
「後八体が限界です」
「よし、わかった」
その後もワイバーンを狩り続け、結局、十八体ものワイバーンを倒した。
普通のSランクなら一体が限界なので、十分な収穫といえよう。
「あのケイン様……」
「同じパーティなんだから、様をつけるのはやめよう、メルル。それでどうした?」
「なんで、ワイバーンをこんなに狩れるのですか?」
「それはメルルのおかげだよ! 回復魔法でいつでも体力を満タンにしてもらえるからな。体力が尽きるまでいくらでも狩れる。ありがとう!」
俺はさらに言葉を継ぐ。
「それにアイシャが皆を守ってくれるから、俺はワイバーン討伐に集中できる。アリスが翼を焼いてくれたから簡単に倒せたし、クルダが運んでくれるからたくさん討伐できた。皆の力だ」
少し恥ずかしくなってきたな……
でも、俺の本心だ。
「ケインにそう言ってもらえると助かる」
「ほぼ、固定砲台なのに……ありがとう」
「ただ、回復魔法使っていただけです」
「そんな事言い出したら、うちなんか最後に収納しただけですよ」
アイシャ、アリスは頷いてくれたものの、メルル、クルダはまだ、自分の力に納得していないみたいだ。
「俺一人なら一体しか倒せなかった。それが十八体だ。皆、自分に自信を持っていい。それに、これで目的のパーティハウスが買える」
その時、俺はふと気になって聞いてみた。
「そういえば、今回の報酬を等分にしたらどれくらいになるんだ?」
その疑問にはアリスが答えてくれた。
「一人当たりワイバーン四体弱の計算だから……節約して十年、普通なら五年は暮らせるわね」
「それを一日で稼いだんだから凄いな」
アイシャが呆れたように言うと、クルダがわなわなと震えていた。
「うち、ただのポーターですよ……こんな扱い初めてです」
俺はそんなクルダの頭をぽんぽんと叩いてから、皆を見回した。
「ひとまず、お疲れ様! 今日はここまでにしてギルドに戻ろうか」
これでパーティハウスは手に入るかな。
俺はそんな期待を胸に、町へ向かった。
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