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第22話 俺も要らない
しおりを挟む「はい、上級ポーション、念の為にヒール…ご苦労さん」
「リヒト…」
俺は川に飛び込み拾ってきた腕をエルザと繋いだ。
「馬鹿じゃねーの? 腕一本切り落としたって剣聖が引退なんか出来るかっていうの?大体、今迄だって怪我したらセシリアに散々治して貰っていただろうが?本当にアホだな」
大体、この世界なら、手足を繋いだり、傷の修復は簡単に出来る。
2人が治らないのは聖剣で斬られたからだ。
普通ならポーションや回復魔法で充分治る。
幾らドルマンでも死ぬかも知れない様な事はしない。
それでも可笑しいが『あれは只の脅し』だ。
ドルマンは、今頃、2人がブー垂れているとでも思っている筈だ。
まさか再起不能になっているとは思わないだろう…
幾ら馬鹿でも、最大戦力2人、お釈迦にするわけ無いよな?
恐らく、あれはドルマンも知らなかった、聖剣の作用だ。
「だったら、セシリアやイザベルだって…」
「治んねーよ! もう2度と真面に動け―ねーな!今の二人なら、その辺のごろつきの方が余程役に立つ位だ」
「そんななの?あとリヒトはどうする訳」
「真面に歩く事も出来ねーんだもん!もう引退しかねーよ! ドルマンと話をしてだけど、俺は残りの人生二人を介護して生きるつもりだ」
「そこ迄酷い訳」
「だったら、その目で見るんだな」
俺はエルザを二人の前に連れて来た。
運よく二人はまだ寝ていた。
「嘘…この傷はなに?」
「多分、聖剣で斬られたからだろうな、ポーションもヒールもなかなか効かなくて、後遺症もある、これで解ったか? 普通の傷じゃない、もう終わりだよ、終わり…お前が逃げ出さずに仲裁に入ればこうは成らなかった筈だ、剣技だけならドルマンより上なんだからな…」
「…」
「それに剣聖のお前が逃げてどうするんだ? 魔族や魔王と戦う時に一番に斬り込んで接近戦で戦うのがお前の役割だろう?今の未熟なドルマンから逃げるお前にそれが出来るのかよ…」
「リヒト、僕も助けてよ!」
目の前で2人が死にかけて初めて、恐怖を感じたんだな。
「助かりたいなら犠牲が必要だ…戦えない理由がなければ、無理だろう…あと数時間でドルマンと俺達は話す予定だから、そこ迄にどうにかするしか無いない」
「僕を見捨てるのか?ドルマンには愛人が居るじゃないか…そこに僕一人が加わって旅するなんて、しかも勝ち目のない戦いなんだろう?酷いじゃないか…」
「それじゃどうしたい? 言って置くが俺についてきたら、介護生活が待っているぞ?それで良いならこっちに来るか?」
「なんで?」
「馬鹿か? 二人の看病をしなくちゃならねーだろうが! 傍にいなくちゃなれーねーからな、仕事だって選べない。そんな物だ…もし来たいなら勇者パーティを辞める手伝いをしてやるが、お前も看病や世話手伝えよ…オムツ交換もな…」
「嘘だよね…そんなの…」
「まだ解らないが、そういう生活になるな」
「僕は選べない…よ」
「まぁ、自分がしたいようにするんだな」
泣きそうな顔で立ちすくんでいるが…知るかよ。
◆◆◆
「おい、これ…何だよ」
流石のドルマンもサキュバを置いてきた。
2人は歩けないからこっちに来て貰った。
「ドルマン一生恨むわ…」
「ドルマン…ハァハァ、顔も見たくない」
「恐らく聖剣の影響だよ…ポーションも薬草もヒールすら真面に効かなくてな…もう歩く事も出来ない…」
「嘘だろう…俺は…」
「どうせ、斬り捨てても俺が薬草やポーションでどうにかする…そう思っていたんだろう、だが実際は聖剣の影響でこれだ…」
「魔王討伐は俺の未来は…」
「俺達は此処でリタイヤだ…だが、ドルマン、お前はまだチャンスがある」
「リヒト…」
「情けない顔するなよ! もう二人は無理だ…悪いが俺は2人の看病の為に抜けさせて貰う...だが、最後の手伝いはしてやるよ」
「なにをしてくれるって言うんだ」
「教会と冒険者ギルドに二人の離団届けを出して、次の街で教会に話をつけるから奴隷商で好きなだけ奴隷を買えば良い、戦闘奴隷とかな…そいつらを使って魔王討伐をするんだ…」
「奴隷、その手があったか…」
「そうだな…」
馬鹿だな、騎士や冒険者の奴隷を買っても通用はしない。
だからこそ、四職が必要なんだろう、そんな事も忘れたか。
「そうと決まれば、こんなチンケな村出て、すぐに街に行こうぜ」
「そうだな…それでエルザ、お前はどうする?」
「リヒト、エルザは要らないからな、お前にやるから…泣きながら逃げ出す奴なんて要らない…」
「ドルマン、僕…」
「要らない!」
「リヒト…僕…」
「ドルマン、エルザは剣聖なんだぜ、無傷の剣聖…おいっ」
ドルマンが聖剣を抜いてエルザの利き腕、肘から先を切り落とした。
「うわぁぁぁぁぁーーーーーっ! 僕の腕、腕―――っ」
聖剣で斬ったら大変な事になる…前とは違い解っていて斬りやがった。
「そいつは要らない…リヒトも要らないなら放って置けば良い」
なんだこの冷たい目は。
うずくまっているエルザを見捨てる事は出来ない。
「要らないなら貰うよ」
それしか言えなかった。
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