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第6話 セシリアに宝石を② かき乱す
しおりを挟む鉄は熱いうちに叩く。
俺は深夜まで待ち、セシリアの部屋を訪ねた。
深夜まで待ったのは、万が一ドルマンと乳繰り合っている所に出くわしたら不味いからだ。
あらかじめ、セシリアの部屋は調べて置いたし問題は無いだろう。
トントントン、俺はセシリアの部屋をノックした。
不機嫌そうな顔のセシリアが顔を出した。
「なに! なんかようなの?」
もう、効果が出てきている。
手入れが上手くいってないのか髪はボサボサ気味で…肌も少し荒れている。
「セシリア、お願いだから少し時間をくれないか?話がしたいんだ」
「そういうのは困るわ、私はドルマンと…ちょっとやめてよ…」
俺はドアの前で土下座をした。
前の世界なら俺は良く土下座をした。
こんな物で許されるなら安いものだ。
だが、この世界の俺は『勇者パーティに相応しい男でありたい』と行動していたから、こんな事はしていない。
その結果、ジョブは魔法戦士なのに、ドルマンの勇者に対し『英雄』と呼ばれる様になった位だ。
重みが違う筈だ。
「迷惑なのは解っているよ…だけど、どうしても話がしたい1時間、いや30分で良い! 俺に時間をくれないか!」
あらかじめ、瞬きをしないで暫くいる。
その状態から、少し悲しい事を考えると目が潤んでくる。
そして、その目で真摯な眼差しで相手の目を見つめて話す。
『土下座しながら今にも泣きそうな顔で見つめてくる幼馴染』
セシ
出来ないよな?
「何も期待しないで! 着替えてくるから外で待ってて!」
「ありがとう…」
とびっきりの笑顔で返した。
「ただ話を聞くだけ…それだけだからね」
そう言いながらも顔が赤い…まぁ、聖女とはいえ元は村娘。
こう言う事はされた事ねーもんな。
◆◆◆
「はぁ~こんな夜中に何よ…眠いんだけど!」
「最初に言って置くよ…セシリアは俺の心に応える必要は無い! これは俺の独りよがりだから」
寝起きだから、頭が回ってないんだろうな…だから今がチャンスだ。
「何を言っているの…」
「セシリア、世界で1番愛している!大好きだよ」
野暮ったい位で丁度良い…洗練されていたら寧ろ駄目だ。
そう言いながら、あらかじめ用意していた薔薇の花束を前にだした。
「リヒト…気持ちは嬉しいわ、だけど、私はドルマンを…」
「知っているよ!ちゃんとね、だから最初に言っただろう?応える必要は無いって…ただ気持ち位は伝えたかった、それだけだから…話位は聞いてくれるかな?」
出来るだけ優しく、それでいて情けない笑顔を作る。
「そう…本当に応えられないわ…それで良いなら、良いわよ」
普通の人間なら、余程嫌いな人間じゃ無ければ『好いてくれる人間』に塩対応はなかなか出来ない。
上手くいったようだ。
「セシリアは俺なんて好きじゃないと思うけど、俺はセシリアの事が昔から好きだった…聖女だからじゃない、長い間一緒に過ごしてきた幼馴染としてね…勿論、ドルマンを含む他の三人も俺にとっては大切な宝物なんだ! それは解るだろう?」
「そうね…流石にそれ位は解るわ」
普段から面倒を見て、命を張ってやった事もある。
馬鹿じゃ無ければ解る筈だ。
「俺はセシリアが一番好きだった…どうしようも無く好きだったけど、セシリアが好きなのはドルマンだから、どうしようもない…彼奴は親友、俺にとってはセシリアと同じ位大切な奴だしな、だから子供の時に整理をつけて諦めたんだよ」
「だったら、なんで今更、こんな事したのよ! 気まずいでしょう?」
「3か月後にお別れがくる、そして多分2年後には『本当のお別れが待っている』から気持ち位は伝えたかった、それだけだよ!他に意味は無いよ」
食いついてくるかな…どうだ。
「3か月後は兎も角、2年後はどういう意味? パーティから去っても幼馴染を辞めるなんてしないわよ?なにか意味があるの?」
「ああっ、このまま旅を続ければ2年位で魔王城に着く…そこで、皆が死んでしまったらもう会えない…」
「リヒト、その冗談は酷いわ…」
「違う! 悪い方から言ったんだ! 勝利したらドルマンはきっと爵位や領地を貰って貴族になるし、皆はその妻だから、只の平民の俺が会えると思うか? 無理だよな…」
「そうか、そう言う事もあるんだ…」
「だから、多分、2年後に本物のお別れがくる…」
「ゴメン、気がつかなかったわ」
いや、しょげる必要は無い。
此処からが…本題だ。
「いや、良いんだ!だけど気がついてしまったんだ! ドルマンがセシリアを1番愛してくれるなら諦めもつく…だが俺が愛したセシリアが2番、3番になるのが切なくてな…俺は1番愛しているのに…つい、そう思ったんだ」
顔が赤くなったな。
これは怒りだ…本当に解りやすい。
「何を言っているの?ドルマンは私を…」
言わせない、敢えて被せる。
「気持ちはそうかも知れない…だが、魔王討伐後の勇者は王族との婚姻、大貴族との婚姻もあるんだよ… 流石に正室や側室筆頭は、そちらに取られるよな…だから、気持ちは別にしてセシリア達は3番以下になると思う。それに、セシリアに言うのは酷だけど、夜の営みは、多分かなり悲惨な事になると思う...」
「そんな…嘘よ…」
嘘じゃないのはもう解っているよな?
「悪い、夜の営みは絶対に王女や貴族優先だよ! 理由は解るだろう? あっちは跡継ぎの問題があるからな...」
「解るわ…」
泣きそうな顔になっている。
まぁ、半分失恋したようなものだ…当たり前だ。
「俺が1番好きなセシリアや幼馴染が雑に扱われて、不幸せになるかも知れない…そう思ったら切なくて…今日の昼間のセシリアの笑顔を見たら、締め付けられて、傷つけるのは解った上で言わせて貰った。悪い、そして、これは俺からの願いだ、無理なのは解っている、だけど、それでも…出来たら、ドルマン以外の男を好きになってくれないかな…」
「そう…それでリヒト、貴方を選べって言うの!」
また怒っているし…
「違う!…もし選んでくれたら嬉しい…だけど、違っても構わないセシリアだけを愛して幸せにしてくれる、そういう人を選んで欲しい…それだけだ」
「リヒト…」
怒ったり、泣きそうになったり忙しいな。
「それにな、魔王討伐後の縁談はドルマンだけじゃないよ? セシリアにも来るから…隣国の王子様とか? 公爵、伯爵の令息、昔、セシリアが憧れていたリューシュ王子とか選び放題だ…俺はセシリアには幸せになって貰いたい…嫌なお願いなのは解るけどドルマン以外との未来も考えてくれないか」
「リヒト…そうか…確かにそうよね、ドルマンとの未来は…いう通りかもね…だけどリヒトは…それで良いの?」
「セシリアが幸せならそれで良い…あっそうだ、他にもプレゼントを用意したんだ…はい」
「なに、この箱?」
「良いから開けてみて、セシリア欲しそうにしていたでしょう? 無理して手に入れたんだ…」
開けてみたら驚くよな。
「嘘…ダイヤじゃない…私が凄く欲しかった奴じゃない!」
「はははっ無理しちゃった…きっと俺をセシリアは選ばない…解っているから、だけど、それをプレゼントしたら、見る度に俺の事思い出してくれるかなって…馬鹿だよね、俺って…ははは…ゴメン、悪い、涙が出てきた…自分から誘っておいてなんだけど…お休み……セシリア…それじゃあね」
「待ってリヒト…」
俺は、セシリアを待たずにそのまま宿屋に駆け込んだ。
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