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第59話 【閑話】 勇者去る
しおりを挟む「勇者ガイア、聖剣を速やかに返還し、此処を立ち去って貰います…今後は教会からの支援は無い…そう思い下さい!」
「いきなり、どういう事だ!」
様子が可笑しい。
まさか、マリアンとリラの奴、本当に教会に届けに行ったのか?
ただの脅しだと思い追いかけなかったが、あいつ等そこ迄馬鹿なのか。
「先程、聖女様と賢者様から『何があっても魔王討伐には参加しない』そういう報告がありました! その決意は固く、お二人とも聖杖を返却して去って行きました。三職のうち二職が討伐に不参加。これで魔王討伐は実質終わった事になります」
「だが、俺はまだ勇者を辞める気は無い!」
「もう無理ですよ…5人居た貴方のパーティに残った存在はガイア貴方1人だ! 聖女様も賢者様も、その足で冒険者ギルドへ解散届けも出しに行かれました…もう終わりですよ! 勇者ガイア…お疲れ様でした」
あいつ等が『魔王の討伐はしない』そう言った時にもう終わりが近い…確かにそう思ったが、まさか、全てが終わるとまでは思っていなかった。
パーティが無くなっても、義務さえ果たしていれば肩身は狭いが『勇者』としての扱いはされると思っていたが…違うのか?
「俺は勇者じゃ無くなる…そう言う事か?」
「いえ、四職のジョブがあるのですから、勇者、聖女、賢者、剣聖である事は変わりません…世間では勇者ですよ。ですが、教会や国が一切の支援をしない…それだけでございます」
「それじゃ…俺は此処を出ないといけないのか?」
「世間はどう言うか解りませんが『魔王と戦う勇気ある者』それが教会や国の望む勇者です!それゆえの特権です!魔王と戦う資格が無い者に支援が無くなるのは仕方が無いでしょう」
「ですが…俺は」
「諦めなさい…ですが、それでも貴方は『最強のジョブ勇者』を持っているだけで貴方は幸せです…さぁ立ち去りなさい」
どうやら、俺は…本当に全てを失ってしまったようだ。
「解ったよ!ほら、聖剣だ! だが覚えておけよ! 俺は他の奴らと違う…『勇者として戦う』と言ったのにお前らが俺を捨てたんだ! もう俺は目の前で誰かが死に掛けていても救うことは無い…覚えて置け…じゃぁな!」
どいつもこいつも…もう良い。
全部無くそうが、俺には最強のジョブ『勇者』がある。
冒険者としてのランクもS級だ。
これからは人なんか救わない。
この力の全てを自分の野望の為に使ってやる。
◆◆◆
最後に俺はリヒトの様子だけ見に行く事にした。
彼奴が狂ってしまった…そう噂を俺は聞いたからだ。
だが、マリアンとリラは彼奴が好きだった。
もしかしたら、幸せになっているかも知れない。
もし、そうなら、俺は彼奴を許さない…
俺から全てを奪った彼奴を…
彼奴を隠れてみた瞬間…背筋が凍った。
『化け乳だらけだ』
エルザはもう周りを気にしないで、あの吐き気がする醜い塊をリヒトに押し付けている。
そして、彼奴が最初に買ったであろう奴隷は更に醜い乳を持っていた。
その醜さは服の上からでも解る。
「うぷっ」
しかも…他に居る二人も化け乳だ。
真面な方でも…エルザ以上に気持ち悪い。
「うぷっうごばっ」
そして最後に見た彼奴の仲間は…これ以上の化け物は居ない位、気持ち悪かった。
「うごばっううううっげぇぇぇぇぇぇぇー―――――っ、うぷっ!ハァハァうぷっおげげげげー―――――っ」
良く回りの男は吐かないもんだ。
あれと、ヤル位なら…縛り上げたゴブリンやオークとした方がましだ。
『俺はリヒトをあそこ迄壊してしまったのか!』
化け物を愛す程に…俺は。
『したな』
良く考えたら、彼奴には親が居ない。
だから、俺を含み幼馴染だけが『世界の全て』だったのかも知れない。
俺はそこから彼奴を追い出した。
その結果が…これなのか?
今の狂ったリヒトはきっとマリアンもリラも受け入れないだろう。
あそこに居る女が『この世で一番醜い女だ』そう言われても信じる位酷いな。
何故…俺はリヒトを恨もうとしたんだ?
本当なら恨まれるのは俺だ…
『悪かったな』
お前には心で詫びるよ。
もう二度と会うことは無いだろう…
だが『本当にゴメンな』
俺はリヒトに心で詫びながら、この街を後にする事を決めた。
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