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第56話 死ぬかと思った。

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「しかし、リヒトも過保護だよね! しっかりと装備を揃えて、ウサギ狩り? 普通はゴブリンかスライムじゃない?」

「ゴブリンじゃ万が一があったら怖いだろう?この位で充分だよ!」

「そうかな! ちゃんとした装備揃えて、まさかのウサギ…流石はリヒトだよ!」

「別に、捕まえる必要も無いよ?訓練を兼ねて追いかけまわす、そんな感じだ! 俺とエルザは最低限は捕まえるけどな」

「僕、剣聖だよ! 幾らでも捕まえられるよ」

「リヒトさん、ウサギを捕まえれば良いんですか?」

「ウサギを捕まえるのですの?」

「そうだよ! まぁ遊び感覚で楽しんで」

「あはははっ、何を言っているのかな?リヒトは、ウサギなんて楽勝でしょう?」

「俺達はな!」

それはエルザには『剣聖』というジョブの恩恵があるからだ。

一般人には結構難しい。

まして二人は化け乳の影響で『ジョブ』も『スキル』も無い。

結構難しい筈だ。

「まぁ、初めて、なんだからこれ位の依頼で充分だよ…それじゃ頑張って!悪いけどエルザ、二人を見ていてくれ」

「リヒトは何処に行くのかな?」

「ちょっと用足し…」

「あははっ、それじゃしょうがないね、うんウサギ狩りのコツは教えておくから、ごゆっくり」

「ああっ」


◆◆◆

さっきから、こちらをつけて来ている存在が居る。

多分、もう少ししたらエルザも気がつくだろう。

その前に叩くしかない。

どうやら俺に用がありそうだ。

俺の方に来なかったらどうしようか?

そう思ったが、どうやら杞憂だったようだ。

「さっきから、俺達をつけてきて!何の用かな」

「ほぉ~気がつくとは中々ですね! 流石は勇者パーティの『英雄』です。此処で死んでもらいます!」

銀仮面に黒ずくめのマントに赤い髪…恐らくは魔族。

それも中々の手練れだ。

「俺はそう簡単には死なないし、殺されるつもりも無い」

俺は剣を抜き、一気に距離を詰めた。

そいつは一瞬で距離をとると俺に話かけてきた。

「素質はありますね!だが、まだまだ未熟…育つ前に来て良かった…今なら楽に殺せる」

動きが全く見えない。

恐ろしく此奴は強い。

「そう簡単に俺は…えっ!」

嘘だろう…俺は何も出来なかった。

「弱いですね! ほら、もう貴方は戦えない…」

静かにこちらを見ている、そいつの手には俺の腕が剣ごと握られていた。

嘘だろう…俺の右手が無い!

こんな一瞬で千切られた…痛い、痛くて死にそうだ。

「うわぁぁぁぁぁー――っ俺の腕がぁぁぁぁー-」

切断された切断面からは血が溢れだしている。

勝負はついてしまった。

此処からの反撃は無理だ…

恐らくこの強さは幹部クラス、こんな序盤の街に居るような存在じゃない。

下手したら四天王クラスかも知れない。

こんな奴、勇者パーティ揃い踏みでも敵わない。

『痛覚軽減』

俺はスキルを使い痛みを軽減させた。

「ハァハァ、お前の様な存在が何故こんな所に居る!」

「私は地位を失った存在です…そして、お前達勇者パーティを心から憎む者…勇者パーティは全員殺すと決めました」

「そうか…俺は抵抗しない…今日来たメンバーには勇者パーティは『俺しかいない』俺を殺したら、残りは見逃してくれないか?」

「それは嘘ですね…少なくとも『麗しの剣聖』が居ました、最低限彼奴は殺します…」

それじゃ、やるだけやるしかない。

せめて負傷位は負わさせてやる…頼むからエルザ、二人を連れて逃げてくれよ。

「そうか?それじゃ行くしかないな…空歩」

空を飛ぶ魔法やスキルは無い。

だが、この空歩は僅かな間だが『空を歩ける』

虚を突くならこの技しかない。

そして一撃に賭ける。

頭上からの攻撃…これなら一太刀浴びせられる筈だ。

「なかなかですね。ですがまだまだ、未熟…それじゃ死んでください…」

駄目か…相手には黒い羽が生えていた。

そうか、翼を隠していたのか…魔族によっては空を飛べる種族も居る。

馬鹿な事をしたもんだ。

空は多分此奴の領域だ…俺はまた斬りつけられ今度は左足が斬り落とされ下へと落ちていった。

嘘だろう…エルザが二人を連れてこっちに向かってくる。

「エルザー――っ!二人を連れて早く、逃げろーーーっ」

「僕が、逃げるわけないだろう! 僕は親友で恋人なんだから! よくも僕のリヒトをこんな目に…残酷に殺してやるー-っ」

「駄目だ逃げろ」

俺は魔族に抱き着いた。

見苦しくても良い…少しで良いから時間を稼がないとな。

「ハァハァ…逃げろ…」

「私は、お前みたいなイケメンが大嫌いだぁぁぁー-死ね」

「リヒトさん、嘘いやぁぁぁぁぁぁー――っ」

「リヒト様ぁぁぁぁー-死なないで」

「リヒト…嘘だよ、嘘だよぉぉぉー-」


なんで泣くんだよ…俺の首が宙に舞っているからか。

そうか…俺は死ぬのか…よ。

◆◆◆

暗闇から声だけが聞こえる…

「リヒトの仇だ、絶対にお前は僕が殺す」

駄目だ、エルザ…逃げろ…

俺はもう終わりだ…皆だけでも生きてくれ…

「リヒトさん、嫌だよ嫌ぁぁぁぁっ、死なないで下さい!お願いですから」

「嫌ですわー―――っ、どうして! どうしてですの!リヒト様が死ななくてはならないのー-っ」

頼むから逃げてくれよ。

頼むよ…

「確かに才能はありますね、だが相手が悪かった! 私にはそのスピードじゃ止まって見えます…お前も死になさい…勇者パーティは全部殺すと決めています…なに…その胸は…」

「僕の化け乳がどうかしたのー-っ! だが、そんなの関係ない、お前は死ねー――っ」

「あれっ…そこの二人も良く見ると化け乳…ですね」

「殺すなら殺せば良いですよ…もう生きていくのが嫌になったから…今迄地獄みたいな生活を送ってきたの…やっと幸せが掴めたと思ったのに…リヒトさん、仇も討てないけど…ヒクグスッ、せめて死んでも傍にいますよ…」

「リヒト様、こんな化け乳女を愛してくれて嬉しかったですわ…仇は討てませんが…私もすぐ傍に参りますわ…寂しい思いはさせませんわ…ですが貴方は許せませんわ…仇は討てませんがせめて一太刀浴びせてあげますわ」



「ちょっと待って、あんたらにとっても良い話しじゃないのか? どうせ醜い胸を盾に良い様にこき使われてたんじゃないですか?」

「リヒトはそんな事はしないよ! こんな醜い僕の胸でも嬉しそうに揉むんだよ」

「剣聖エルザ…お前もなかなか醜い胸をしていますが…そうなのですか?」

「そうだよ! こんな胸の僕を唯一愛してくれたんだよ…それをお前は、お前は…」

「まぁ良い…話はあとで聞きます…そらっ」

「うぐッ…ごめんリヒト…僕、仇も討てなかったよ…死んでも傍に居るからね」

「エルザさん!よくも、よくもリヒトさんを…こんな私みたいな化け乳を唯一愛してくれた人なのに…なんでこんな事をするの…殺して、殺してよー――早く殺してぇぇぇぇっ!」

「その男は、お前の様な化け乳女でも愛していた、そう言う事なのですか?」

「そうですよ…楽しそうに揉んでくれて、最近はパフパフ迄させてくれたのに…」

「お前も、なのか?」

「そうですわ、リヒト様は私の様な化け乳でも愛してくれたのですわ…もういいですわ…さぁ一思いに、さぁ殺して下さいですわ」

「英雄リヒトは、化け乳に優しかったのですね…なら別です…ほら」

「何をかけていますの?」

「何をかけているの…」

「化け乳に優しいなら命を助けてやろう…そう思って、昔奪ったエルクサールをかけてやった…これで『英雄リヒト』は助かるよ」

「「リヒトさん(様)が」」

「ああっこれで大丈夫なはずだ! そこの剣聖エルザももう起きているのでしょう? これで英雄リヒトは助かる…少し話をしませんか?」

「リヒトを助けてくれたなら話位してもいいけど?」

「そう、それじゃ、もう皆さんを殺したりしないから話しましょうか!」

「ぷはぁ、ハァハァ死ぬかと思った…あれ、何で俺は生きているんだ」

俺は間違いなく死んだ筈なのに…
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