60 / 104
第60話 時と場所
しおりを挟む報告をしてからフルールの顔が曇った。
雰囲気からして落胆した。
そんな様子が伺える。
「甘いのですわ、理人様私も参ります!今直ぐ殺しにいきま…」
その必要は無い、俺はそう考えた。
「待て、俺に考えがある。だから今日はこのまま帰ろう」
「本当に大丈夫なのですわね? 甘い考えでないのですわね」
「まぁな」
あの場はああするしか無かった。
何しろ『あの二人』が居たのだからな。
汚される前なら『助ける』そういう選択もあった。
あの場で俺が助けても何も救いにならない。
ジャミルに連れ去られた事は周りも知っている。
顔も知らない彼女達に俺が出来る事は少ないだろう。
だからこそ彼女達にはお金が必要なんだ。
『家族が納得する』『人生をやり直す』『遠い場所に引っ越す』それが可能な莫大な金が。
だから、あの場は引いた。
『引くのはあの時だけだ』
「まぁ理人様が言うなら仕方ないですわね」
なんだかフルールが冷たい様な気がする。
今迄と雰囲気が違う。
◆◆◆
「行ってきます」
いつもの様に朝食を作り4人で食べて出掛けていく。
勿論、今日もワイバーンを狩る為だ。
「「いってらっしゃい」」
「いってらっしゃい…ですわ」
あの日を境にフルールは俺への興味を無くしたように見えた。
今日で3日間…夜もフルールは1人だけ別のベッドで寝ている。
もしかしたら俺に愛想をつかしたのかも知れない。
まぁ良いや…
俺はフルールに目配せをした。
◆◆◆
街の入り口でフルールを待った。
「何か御用でしょうか?」
いつもと違う事務的な話し方。
『ですわ』がない。
目がまるで死んだように曇っている。
まぁ、何となく解かる。
フルールからしたら『俺が甘い事をしたのが許せない』そんな所だろうな。
「まぁフルール、今日は俺に付き合え」
「まぁ奴隷ですから付き合いますよ」
困ったな。
俺はこの日を待っていた。
ジャミル男爵の屋敷を見張り、2人が解放されるのを待った。
ジャミルは『期日の約束は守る』
フルールの情報からして今日がその1か月だ。
変装しながら、屋敷の使用人から情報を集め、2人に慰謝料が払われたのも解かった。
そして…今日『狩りにジャミル男爵が出る』その情報を掴んだ。
この世界では鑑定は滅多にしない。
屋敷から出ないで暮らすジャミル男爵は恐らく自分が弱体化した事に気がついていないのだろう。
弱体化したとは言えジャミルのステータスは
ジャミル
LV 18
HP1200
MP900
ジョブ 異世界人
スキル:翻訳
普通の騎士並みの力はある。
攻撃魔法やアイテム収納でも使わなければまずバレない。
恐らくジャミルは気がついていない。
俺はフルールを連れてワイバーンの岩場にむかった。
◆◆◆
「ここはワイバーンの岩場ですか…まさかワイバーンを狩れる所を見せてご機嫌をとろうとでも?」
不機嫌な顔はまだ続いている。
「いや違う、まぁ暫く様子を見ていろよ」
「ハンッ…まぁ見ろというなら見させてもらいますよ。奴隷ですからね」
暫く様子を見る事数刻…ジャミルが来た。
来ると思った。
しかも一人でな。
此奴のステータスは凄く高かった。
それこそ、勇者の大樹すら上回る程に...俺がこんな『反則技』がつかえなければ間違いなく強者だ。
恐らく金に困ったら『狩れば金が手に入る』そう思っている事だろう。
そして、この辺りで大物と言えば『ワイバーン』だ、だから此処に居れば来ると思った。
俺はジャミルに近づいた。
フルールは動きもしない。
「貴方はジャミル男爵様ですか?」
「そうだが、その顔は私と同じ『異世界人』だな、綺麗な女を連れているようだが…同胞からは奪わない。安心して良い。」
「有難うございます」
なんだか様子が可笑しい。
「それで…その様子じゃこちらに来たばかりか? うちの屋敷にくるか?」
案外、良い面もあるのか…
「それはどういう事ですか?」
「まぁ解らないかもしれんが5職以外の異世界人の中には先の異世界人に仕える存在も多い…まぁ俺に仕えるなら、金と女はやるぞ…平民で良かれば犯し放題にしても許される方法も教えてやる」
「そうですか? 有難うございます」
やはりクズだった。
これなら『躊躇なく殺せる』
俺は話しをしながら、フルールから貰ったナイフをジャミル男爵の心臓に無言で突き刺した。
「貴様、何故?…うぐわぁぁぁゲホッ」
ジャミル男爵はあっけなく死んだ。
散々能力を奪った後だから騎士程度。
簡単だな。
何だかまた力が増した気がする。
その死体をそのまま、ワイバーンの岩場の方に放り投げた。
ワイバーンは予期せぬおやつに飛びつくようにジャミル男爵を食べ始めた。
「終わったな」
「これはどういう事ですの?」
良かった『ですの』に口調が戻っている。
「最初からこうするつもりだった…あそこで殺してしまえば二人の女性に金が払われない。生かすつもりはなかったが、時と場所が悪かった…それだけだ。そして今は時と場所が良い。この場所に他の人間は居ない…そしてワイバーンが食べてしまったら、もう証拠は残らない…完璧だろう!黒薔薇的にはどうかな!」
「流石は理人様ですわ…私の予想以上ですわ…すみません私とした事が」
「気にする必要は無いよ。裏仕事をしてきたフルールからしたら俺は相当甘く見えるのだろうな」
「敵には厳しく、それ以外には優しい…それは問題ありません。寧ろ理想的ですわ」
「そうか?それなら良かった。それじゃ帰るか」
「ええっ」
フルールが腕を絡めてきた。
機嫌が直って本当に良かった。
3
お気に入りに追加
2,790
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
【リクエスト作品】邪神のしもべ 異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!
石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。
その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。
一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。
幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。
そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。
白い空間に声が流れる。
『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』
話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。
幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。
金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。
そう言い切れるほど美しい存在…
彼女こそが邪神エグソーダス。
災いと不幸をもたらす女神だった。
今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる