上 下
57 / 104

第57話 ジャミル男爵の罪

しおりを挟む


「ただいま」

誰かが家で待ってくれている。

それだけでも毎日が楽しく感じる。

「「「お帰りなさい(ですわ)」」」

3人は俺が帰ってくるとドアの前で笑顔で出迎えてくれた。

3人に今日の出来事について話した。

勿論、ゴブリンキングやゴブリンの事は内緒だ。

綾子と塔子はピンと来てないようだが、フルールは驚いたような顔をしていた。

ワイバーンを狩るのは難しい。

異世界人のフルールはピンときたのだろう。

「ワイバーンを単独で狩ったのですか! 流石理人様ですわね。まるで勇者みたいですわ」

フルールだけは3人の中で唯一俺の事を詳しく知っている。

こういう腹芸が出来るのは流石『黒薔薇』だな。

「思ったよりは簡単だったよ」

「流石ですわ、普通は騎士1個師団20名以上が束になって倒す存在なのですわ。それを6羽も狩るなんて本当に素晴らしいですわよ」

「ワイバーンって翼竜みたいな奴だよね…流石理人くん、本当に凄いよ」

「理人って本当に凄い…さすがですね」

「この位なら何とか狩れるよ…ワイバーンを1羽狩ると金貨60枚になるから、これで生活の目途も経ったし、今日は美味しい物でも食べに行かない? あと宿屋も表通りにある良い場所に移動しよう」

「理人くんがそう言うなら、うん、移ろうか」

「私も同じ、お風呂とまで言わないけど、せめてシャワーがある場所が良いわね」

「お風呂やシャワーがある。それ結構高い宿屋ですわよ」

「フルール、高いってどの位?」

「まぁ1泊4名で、銀貨5枚位だと思いますわ」

約5万円って事か。

それ位なら別に構わないな。

本当なら、家を購入したいが表向きは『魔族を狩る旅』をしなくてはならないから今は定住できない。

1人1万2千円前後なら、前の世界のホテル代として考えても少し高い位だ…問題ない。

日本人はお風呂が好きな民族だ。

少し良い宿屋に泊まる位の贅沢は良いだろう。

「別に、それ位なら構わないよ。早速移動して、飯でも食いにいこうか? フルール何処か良い宿屋とレストラン知らない」

「お任せくださいですわ」

フルールは本当に凄いと思う。

元が公爵令嬢なのに解らない事が無いんじゃないか?

そう思える程に何でも知っている。

まるでGOOGOLAN見たいだ

この世界には勿論スマホなんて無い。

そう考えたら、物知りな人物が如何に重要な人材かが良く解る。

フルールが居なければ、お店に飛び込みで入らなくてはいけないし、宿屋もギルドとかで情報を集めなければならない。

そう考えたら同級生同士だけのパーティでなく現地の人間をいれる事は案外間違いじゃ無いのかも知れない。

「このお店がこの辺りでは高級店ですわ」

見た感じ豪華で、装飾も綺麗だ。

サービスも確かに良く黒服やメイドも居る。

だが、肝心の味が駄目だ。

食べた料理の味は…ファミレスにも劣る。

よく考えて見れば、この世界に来て食べていた料理は王宮の物だった。

恐らく、異世界人への接待も入ってきたからかなり豪華な物だったのだろう。

その料理が普通。

言ってしまえば並みなのだ。

「凄く美味しいのですわ」

「…そうね」

「こんな感じなのね」


美味しいというフルールに対し、綾子と塔子の顔は少し曇っている。

この2人を見ていると、如何にこの世界の飯が美味しくないのかが解かる。

まぁ、日本で暮らして居れば、1000円も出せば美味しい定食が食べられる。

仕方ない事だな。

綾子と塔子はもうあの美味しい食事を食べる事が出来ないのか…そう考えると少し不憫に思えた。


◆◆◆

深夜になり俺はフルールを起こした。

今日は綾子と塔子が左右で上がフルールなので、上手く抜けだす事ができた。

この部屋にはベッドは4つあるのに…まだこの寝方は継続中。

一回腕枕を頼まれてした事があったが…起きたら手が痺れていて痛かった。

だから、今はしてないが…幾ら相手が美少女でもこれはキツい。

今日の夕飯の時にワインも飲んでいたからか、2人はぐっすりと寝ている。

此処から二人に聞かれてはいけない内容だから、念のため、こっそりと借りていた別部屋に移動した。

「これは2人で愛の営みをしたい、そういう事なのですわね」

「違うよ…解っているだろう?」

揶揄っているのは解るがドキッとするな。

「そうですわ…ジャミル男爵の事ですわね」

「それだよ」

「まぁ、簡単に言うと女の敵ですわ」

フルールの報告ではこうだ。

本名は ジャミル 鈴木

下の名前はカッコ悪く嫌っていたようで、当初から『ジャミル』と名乗っていたそうだ。

黒目、黒毛だから間違いなく日本人。

ジャミル男爵の悪い所は『兎も角女癖が悪い』

自分好みの女が居ると、絶対に手に入れないと気が済まない。

半分レイプ紛いに犯された者、権力を使われ脅されて従わざる得なかった者。

汚された女性の数は二けたで納まらない。

そのなかには、恋人、夫を持っている家族持ちも沢山いるそうだ。

そのせいか寝取り癖があるという噂もあるが、生娘だから手を出さない。

そういう訳では無いらしく、女なら見境が無いらしい。

運が良いのかどうかは解らないが、ジャミルは飽きっぽい。

1か月位、楽しんだ後は、まるで興味が無くなったように女をポイ捨てにする。

「この行為は今でも続いていますわ…ただ問題なのは」

「何かあるのか?」

「その行為の全ては示談になっていますわね」

「どうしてだ」

「異世界人にとってはお金なんてどうとでもなりますわ…その能力を生かせば幾らでも稼げますわ」

確かに俺が簡単に稼げるんだ。

他の元日本人が稼げない訳無い。

そのお金と権力で黙らせるわけだな。

「確かに、だがお金じゃ許せない。そんな女性だっているんじゃないのか?」

「そういう女性が問題なのですわ」

話しを聞けばとんでもない人間だった。

散々弄んだ女性に莫大な慰謝料を用意する、その額は金貨1000枚(日本円で約1億円)

これで大体の人間は納得するらしい。当人が納得しなくても家族やその親族が勝手に示談に応じてしまう。

稀に、それをはねつける存在がいたら…今度は異世界人ならではの力や権力を使い圧力をかける。

「最低な話しなのですわ、仕事を奪ったり、場合によっては『家族の命や生活を壊す』そういう脅しをかけますの」

まるで、元の世界の半グレみたいだな。

「それじゃ脅しであって示談じゃないな」

「そうですわね。ですが殆どの人間がそこに行く前に『示談』に応じますの。権力者で異世界人。だれも逆らえませんし、何より貧しい人が多いのでお金の魅力に勝てない。当人が勝てても周りが勝手に謝罪を受け入れてしまうのですわ。理人様どう判断しますの?」

やっている事は悪だ。

だが示談は終わっている。

フルールの話では『死人までは出ていない』そして割とその後は幸せに暮らしている人間も多い。

どうすれば良んだ『悪』か『善』か?

余り考える必要は無い。

すっかり忘れていた。

『日本を捨てた時点でテラスちゃん的には、そいつは悪だ』

与えられた力で悪い事をするなら、その力を奪えば良い。

そこから後は…その時のそいつの態度で決めれば良い。

それだけだ。



しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

処理中です...