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第57話 ジャミル男爵の罪
しおりを挟む「ただいま」
誰かが家で待ってくれている。
それだけでも毎日が楽しく感じる。
「「「お帰りなさい(ですわ)」」」
3人は俺が帰ってくるとドアの前で笑顔で出迎えてくれた。
3人に今日の出来事について話した。
勿論、ゴブリンキングやゴブリンの事は内緒だ。
綾子と塔子はピンと来てないようだが、フルールは驚いたような顔をしていた。
ワイバーンを狩るのは難しい。
異世界人のフルールはピンときたのだろう。
「ワイバーンを単独で狩ったのですか! 流石理人様ですわね。まるで勇者みたいですわ」
フルールだけは3人の中で唯一俺の事を詳しく知っている。
こういう腹芸が出来るのは流石『黒薔薇』だな。
「思ったよりは簡単だったよ」
「流石ですわ、普通は騎士1個師団20名以上が束になって倒す存在なのですわ。それを6羽も狩るなんて本当に素晴らしいですわよ」
「ワイバーンって翼竜みたいな奴だよね…流石理人くん、本当に凄いよ」
「理人って本当に凄い…さすがですね」
「この位なら何とか狩れるよ…ワイバーンを1羽狩ると金貨60枚になるから、これで生活の目途も経ったし、今日は美味しい物でも食べに行かない? あと宿屋も表通りにある良い場所に移動しよう」
「理人くんがそう言うなら、うん、移ろうか」
「私も同じ、お風呂とまで言わないけど、せめてシャワーがある場所が良いわね」
「お風呂やシャワーがある。それ結構高い宿屋ですわよ」
「フルール、高いってどの位?」
「まぁ1泊4名で、銀貨5枚位だと思いますわ」
約5万円って事か。
それ位なら別に構わないな。
本当なら、家を購入したいが表向きは『魔族を狩る旅』をしなくてはならないから今は定住できない。
1人1万2千円前後なら、前の世界のホテル代として考えても少し高い位だ…問題ない。
日本人はお風呂が好きな民族だ。
少し良い宿屋に泊まる位の贅沢は良いだろう。
「別に、それ位なら構わないよ。早速移動して、飯でも食いにいこうか? フルール何処か良い宿屋とレストラン知らない」
「お任せくださいですわ」
フルールは本当に凄いと思う。
元が公爵令嬢なのに解らない事が無いんじゃないか?
そう思える程に何でも知っている。
まるでGOOGOLAN見たいだ
この世界には勿論スマホなんて無い。
そう考えたら、物知りな人物が如何に重要な人材かが良く解る。
フルールが居なければ、お店に飛び込みで入らなくてはいけないし、宿屋もギルドとかで情報を集めなければならない。
そう考えたら同級生同士だけのパーティでなく現地の人間をいれる事は案外間違いじゃ無いのかも知れない。
「このお店がこの辺りでは高級店ですわ」
見た感じ豪華で、装飾も綺麗だ。
サービスも確かに良く黒服やメイドも居る。
だが、肝心の味が駄目だ。
食べた料理の味は…ファミレスにも劣る。
よく考えて見れば、この世界に来て食べていた料理は王宮の物だった。
恐らく、異世界人への接待も入ってきたからかなり豪華な物だったのだろう。
その料理が普通。
言ってしまえば並みなのだ。
「凄く美味しいのですわ」
「…そうね」
「こんな感じなのね」
美味しいというフルールに対し、綾子と塔子の顔は少し曇っている。
この2人を見ていると、如何にこの世界の飯が美味しくないのかが解かる。
まぁ、日本で暮らして居れば、1000円も出せば美味しい定食が食べられる。
仕方ない事だな。
綾子と塔子はもうあの美味しい食事を食べる事が出来ないのか…そう考えると少し不憫に思えた。
◆◆◆
深夜になり俺はフルールを起こした。
今日は綾子と塔子が左右で上がフルールなので、上手く抜けだす事ができた。
この部屋にはベッドは4つあるのに…まだこの寝方は継続中。
一回腕枕を頼まれてした事があったが…起きたら手が痺れていて痛かった。
だから、今はしてないが…幾ら相手が美少女でもこれはキツい。
今日の夕飯の時にワインも飲んでいたからか、2人はぐっすりと寝ている。
此処から二人に聞かれてはいけない内容だから、念のため、こっそりと借りていた別部屋に移動した。
「これは2人で愛の営みをしたい、そういう事なのですわね」
「違うよ…解っているだろう?」
揶揄っているのは解るがドキッとするな。
「そうですわ…ジャミル男爵の事ですわね」
「それだよ」
「まぁ、簡単に言うと女の敵ですわ」
フルールの報告ではこうだ。
本名は ジャミル 鈴木
下の名前はカッコ悪く嫌っていたようで、当初から『ジャミル』と名乗っていたそうだ。
黒目、黒毛だから間違いなく日本人。
ジャミル男爵の悪い所は『兎も角女癖が悪い』
自分好みの女が居ると、絶対に手に入れないと気が済まない。
半分レイプ紛いに犯された者、権力を使われ脅されて従わざる得なかった者。
汚された女性の数は二けたで納まらない。
そのなかには、恋人、夫を持っている家族持ちも沢山いるそうだ。
そのせいか寝取り癖があるという噂もあるが、生娘だから手を出さない。
そういう訳では無いらしく、女なら見境が無いらしい。
運が良いのかどうかは解らないが、ジャミルは飽きっぽい。
1か月位、楽しんだ後は、まるで興味が無くなったように女をポイ捨てにする。
「この行為は今でも続いていますわ…ただ問題なのは」
「何かあるのか?」
「その行為の全ては示談になっていますわね」
「どうしてだ」
「異世界人にとってはお金なんてどうとでもなりますわ…その能力を生かせば幾らでも稼げますわ」
確かに俺が簡単に稼げるんだ。
他の元日本人が稼げない訳無い。
そのお金と権力で黙らせるわけだな。
「確かに、だがお金じゃ許せない。そんな女性だっているんじゃないのか?」
「そういう女性が問題なのですわ」
話しを聞けばとんでもない人間だった。
散々弄んだ女性に莫大な慰謝料を用意する、その額は金貨1000枚(日本円で約1億円)
これで大体の人間は納得するらしい。当人が納得しなくても家族やその親族が勝手に示談に応じてしまう。
稀に、それをはねつける存在がいたら…今度は異世界人ならではの力や権力を使い圧力をかける。
「最低な話しなのですわ、仕事を奪ったり、場合によっては『家族の命や生活を壊す』そういう脅しをかけますの」
まるで、元の世界の半グレみたいだな。
「それじゃ脅しであって示談じゃないな」
「そうですわね。ですが殆どの人間がそこに行く前に『示談』に応じますの。権力者で異世界人。だれも逆らえませんし、何より貧しい人が多いのでお金の魅力に勝てない。当人が勝てても周りが勝手に謝罪を受け入れてしまうのですわ。理人様どう判断しますの?」
やっている事は悪だ。
だが示談は終わっている。
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どうすれば良んだ『悪』か『善』か?
余り考える必要は無い。
すっかり忘れていた。
『日本を捨てた時点でテラスちゃん的には、そいつは悪だ』
与えられた力で悪い事をするなら、その力を奪えば良い。
そこから後は…その時のそいつの態度で決めれば良い。
それだけだ。
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