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第28話 内助の功
しおりを挟む俺は一体何をしているんだ?
『ありがとう! これだけ伝えたくて』
あれしか頭から出なかった。
本当に俺は、なにをやっているんだよ!
あの思い出は俺にとって訳のわからないトラウマの元凶だ。
自分の人生観がまるで変ってしまう位衝撃的な事だった筈だ。
初恋の相手からの壮絶な虐め。
周りは敵ばかりになり削られていく精神。
そして事件に巻き込まれて
虐めをする本人より取り巻きが悪い等の考えはこの時の価値観から生まれた。
もしこの時の出来事が無ければ『剣術』を習おうなんて思わなかったかも知れない。
変な正義感はこの時に捨てた。
もし『あの時の前』の俺ならクラス全員救おうと躍起になったかも知れない。
今の俺は『全ての人間を救おう』なんて思わない。
幾ら助けてやろうと恩をあだで返す人間は幾らでも居る。
トーコは塔子だった。
俺の初恋の相手で…最大のトラウマ。
天使のような悪魔の笑顔を持った女…塔子。
その塔子が俺を好きだった…訳が解らない。
俺は塔子をどう扱い、どう接すれば良いんだよ…
本当に悔しいが塔子は俺の『初恋』の相手だった。
結構拗らせて数年、かなり長い間好きだった。
だが、その正体は虐めを平気でするような人間で、憎んだ時期すらある。
そして事件に巻き込まれ、突然転校して居なくなった。
それから時が過ぎ、出会った塔子は大樹の仲間になっていた。
気が付かなかった。
なんで、塔子とトーコが同じ人物だと気がつかなかったんだ。
よく似ているじゃないか?
頭がグルグル回る。
これから俺はどうすれば良いのだろうか?
少なくとも『身も心も奪ってしまった』以上は生涯責任を持つべきだ。
運が良い事に平城さんは『大魔道』塔子は『聖女』三人で組むならパーティの相性は凄く良い。
だが、どう接して良いか解らない。
距離を置く事も出来ない、関りを持たない事も出来ない。
本当に頭がグルグル回る。
◆◆◆
「待ってよ!どうしたの? 理人ぉ!なんで逃げるのよ」
理人は…走って逃げていったわ。
一言お礼だけ言って去っていくなんて酷いです。
私は理人が好きで、好きで堪らないのです。
他の者や物なんて何も要らない位に好きなのです。
『聖女パーティ』を作ってこれからは一緒に居られる。
聖人が負けてくれればそれで願いが叶う。
そう思うと嬉しくて仕方ないのです。
そのせいなのかな? さっきまるで最後の1ピースが嵌ったかの様に心が理人に染まった気がしました。
うん、全てを理人に捧げた気がしたのよ。
何故か解らないけど、全てが理人に染まったのが解りましたわ。
『それが凄く嬉しいのです』
本当は平城が居ない二人きりが理想なのだけど、あれは必要な人間だから傍に置いておいた方が良いのです。
理人に必要な人間であるなら、我慢できますわ。
此の世界で生きるなら『攻撃魔法のエキスパート』は2人の人生に必要ですもの。
理人は気がついてませんが、平城も私と同じで危ないです。
だけど、同じ位理人が好きな女だから折り合いはつくわ。
理人への思いで心が満たされていきますわね!
全てが理人で埋まっていた筈の私の心に、まだ理人で埋まっていない部分があったなんて知りませんでしたわ。
まぁ良いわ。
魔王の討伐なんて『何年も掛かる』事だから…その間はずうっと一緒に居られる。
夢の実現の為にはもっと頑張らないと。
聖女で良かったわ。
聖女は癒しのエキスパートですもの。
その仕事には『毒などから仲間を守る』そういった仕事も含まれるのよ。
『聖女』だけが習う座学に『毒』『暗殺』の授業がありましたわ。
これは回復師のジョブ持ちも受けていない授業です。
『良いですか? この授業の内容は一切の口外を禁じます』
そう講師が断りを入れる位の内容でしたわ。
授業で聞いた話しでは五大ジョブには毒への耐性があるそうです。
その為、通常の毒はきかないそうです。
ですがこの世には、勇者すら倒せる毒も存在するそうです。
それは植物や生き物で『飲食して害のある毒』。
猛毒も効かない、魔物の毒霧すら効かない存在の五大ジョブに唯一効くのがこれらしいのよ。
『恐らくは食べ物や味覚の関係で境界が難しいのだと思います』
と講師が言っていましたわ。
理人に聖人との勝負に負けて貰っては困りますから…授業で使っている毒をこっそり盗み、聖人に盛っていましたの。
これも内助の功ですわね。
だって私はこんなにも理人を愛しているのだから『仕方ない事』ですわ。
だって私の幸せに、聖人は邪魔なんですもん…
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