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第12話 訓練 VS騎士リチャード
しおりを挟む訓練を見学しながら、俺と平城さんは端に座りながら話していた。
俺が『無能』のせいか指導騎士が俺にはついていない。
本来なら平城さんにはちゃんとした指導騎士が付くのだが…
『理人くんにつかないなら私も要りません』と断っていた。
ある意味…強いな…平城さん。
見ているだけでも『見取り稽古』になり、結構為になるからこれはこれで、俺にとっては良い訓練になる。
しかし『勇者から変換されて手に入った英雄』は凄いな。
騎士の動きを見ているだけでどんどんその技術を理解して盗んでいく。
平城さんに聞いたら、騎士の動きの意味が全く解らないと言っていた。
そう考えるとこれは元から『勇者』にのみにあった能力なのかも知れない。
俺達には指導騎士が居ないから、平城さんに見ている騎士の動きを解説しながら、説明をしていた。
尤も今現在は魔法を誰も使っていないから、戦いの基礎を学ぶ。
そういう意味が強いかも知れない。
俺は、そこら辺の木の棒を持って、平城さんに丁寧に騎士の動きの解説をした。
◆◆◆
暫くそうしていると、同級生が次々に動けない位へばっていった為に手が空いた指導騎士がこちらに来た。
「お前が無能の少年か? まぁ王から、お前も手が空いたら見ろと言われたから見てやるよ! まぁ無能の割にはさっきの走り込みもついてきていたしな、根性はあるみたいじゃねーか?俺の名前はリチャードだ」
「神代理人です、こちらでは苗字を言わないみたいですから理人になります」
「そうか、無能の割には…まぁ良い掛かって来い」
そう言うと木刀をこちらに放り投げて寄こした。
これはあくまで練習だ。
だから、ジョブやスキルの恩恵を使っては意味が無い。
勝手に作用する物は仕方が無いが、可能な限り、ご利益や能力を使わず、自分の技術や技で戦わないと地力がつかない。
俺は右手で木刀を持ち左鎖骨の上に軽く載せる様に構えた。
「変な構えだな、それがお前の世界の構えか? だけどお前の仲間でそんな変な構えをした奴は居なかったぞ! 剣道とかいうのとも違うようだな!」
「祖父から習ったのがこれでして!それよりそちらは木刀を使わないのですか?」
「ああっ、確かに異世界人はすぐに強くなるが、平和な世界から来たせいか、最初は、皆弱えからな!簡単に避けられるから必要ない!そうだな俺に木刀を使わせたかったら、己の強さを認めさせる事だ」
「解りました」
平城さんも他の騎士に指導を受けながら、心配そうにこちらを見ている。
一応、俺も一緒だから平城さんも訓練に参加するみたいだ。
俺は『剣の腕だけ』は少し自信がある。
爺ちゃんに神主になる修行の一環としてかなりしごかれた。
直径5センチの幾つかの杭の上で型を崩さずに剣を振るう訓練が懐かしい。
さっきの走り込みに近い事は『異世界に来る前』からしていた。
しかも階段や山道坂でだ。
流石にペースはゆっくりだったけどな。
「新当流(神道流)理人いざ参る!」
新当流(しんとうりゅう)は俺の爺ちゃんから学んだ剣術に名前だ。
戦う時に流派を名乗るは、我が流派の礼儀。
書物により新当流、神道流と漢字が異なっている。
俺は爺ちゃんから教わった足さばきで一気に加速して迫った。
狙いは胴…狙いはあたった。
がら空きの胴に綺麗に技が決まった。
訓練だからこそ威力は抑えたが本気で打ち込んだ。
俺の勝ちだ。
俺が勝利を確信し、振り向いた瞬間、顔にリチャードの拳が飛んできた。
咄嗟に避けたが…汚い。
これが木刀ではなく真剣ならリチャードは死んでいた筈だ。
「ほら、次こい」
無かった事になんでしているんだよ!
「待って下さい! 俺、今一本取りましたよね? 約束です。木刀を使って下さい!」
「お前何をいっているんだ!」
悔しい、俺が『無能』だからってここ迄、馬鹿にされるのか…
俺の一本を無視するのか?
「…なんでだよ」
「俺、何かしたのか? 何でそんな目で俺を見るんだ?何か誤解があったのなら聞こうじゃ無いか!」
リチャードに俺が一本取ったのに、それを無視した事を抗議した。
「成程!悪いな!俺はお前が異世界人だと言う事を忘れていたよ!あれ見ろよ!」
リチャードは鎧を纏った騎士を指さした。
「あれがこの世界の騎士の姿だ」
そうか、そういう事か?
騎士は鎧を着ている。
その状態であの程度の胴を打ち込んでも効くわけが無い。
「言っている意味が解りました」
「俺もお前の言っている意味が分かった。確かに鎧を着ていないなら今のでお前の勝ちだ!だがこの世界では防具を身に着けている人物の方が多い。だからルールを決めよう。相手が蹲るような一撃を与えた方が勝ち、それでどうだ?勿論、約束は有効で良い。俺も木刀を使わせて貰うぞ。お前に併せてスキル無しでやってやる!どうだ?」
「お願いします」
「さぁ、何処からでも掛かって来い」
「行きます!奥義『一之太刀』」
俺は思いっきり踏み込み攻撃を仕掛ける。
相手は騎士だ…本気で打ち込む必要がある。
だからこそ『此奴で勝負をかける』
これは日本なら誰もが知っている剣術家、塚原卜伝の奥義だ。
家のご先祖様は新当流(神道流)の発展の為に力を貸した。
その為、ご先祖様が塚原卜伝に教わったと伝えられてきた技だ。
尤も爺ちゃん曰く、俺は才能が無いので、新当流(神道流)の技を完全には使いこなせていないらしい。
リチャードは木刀で受けたが勢いは止まらない、そのまま押し込む。
そのまま肩から袈裟斬り状態に振りぬいた。
木刀だが俺は間違いなく『斬った』
だが、リチャードは跪まずかない。
折れた木刀で俺の横腹を払った。
「うぐっうええええーーっ」
そのまま、俺は吐きながら、意識が遠のいていった。
「理人くんーーーっ」
心配して駆け寄ってくる平城さんの声と周りの声が聞こえた。
「嘘だろう…あの無能、100人隊長に一撃を加えるなんて凄い奴だ」
「スキル無しであの動きが出来るのか」
その声を聞くのを最後に俺は意識を失っていった。
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