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第8話 話し合い
しおりを挟む朝起きると平城さんは居なくなっていた。
多分部屋に戻ったんだろうな。
洗面をして部屋から出るといきなり兵士から声を掛けられた。
「理人殿、問題が起きた。すぐについてきて欲しい」
「何事ですか? 俺は今日の午後には此処を追い出される…せめて午前中はゆっくりさせて下さい」
「すまないが、今問題が起きているんだ、悪いと思うが頼むからついてきてくれ」
「解りました」
兵士についていくと平城さんの大きな声が廊下迄聞こえてきた。
「私と理人君は恋人同士なんです!理人君を追い出すと言うのなら私も、この城を出ていきます!」
嬉しい反面少し恥ずかしいな。
「そんな、貴方は五大ジョブの1人『大魔道』です!重要な戦力なんです!出ていかれたら困ります!」
平城さんは、魔王討伐に必要な五大ジョブの一つを貰っている。引き止めるのに必死なのも頷ける。
「待って下さい!あなた方は私達の生活の保障をする約束をした筈です。『神代』も生徒の1人!追い出すなんて私は聞いて無いですよ! もう約束を反故にすると言うのですか?」
平城さんと担任の緑川先生がお城の責任者と言い争いをしているようだ。
確かに国としては困るだろう。
緑川先生は兎も角、平城さんは五大ジョブの一つ『大魔道』魔王と戦う際に攻撃魔法を担当する、必要な戦力だ。
手放す事が出来ない大切な存在だ。
『面白いから見ていたら?』
テラスちゃんが俺にだけ聞こえる声で言ってきた。
このまま放って置いて平城さんと城を出るのも有りだが…
今の俺にはこの世界の知識が無い。
可能ならもう暫くは城に居たい。
だが、実際はもう違うが、俺の立場は『無能』どう考えても国のお偉いさんと交渉する権利はないな。
『もし関わりたいなら、関わっても大丈夫だよ! 僕、3つの能力を理人、君にあげたよね!』
『平将門』『菅原道真』『崇徳天皇』ゆかりの能力、どう考えても凄い筈だ。
三人の名前は悪霊としても都市伝説になる位有名だった。
今ではそれぞれが神様として多くの神社で祀られている。
その時に捨てた『悪霊部分』から天照の分体、眷属のテラスちゃんが作ってくれた能力。
どう考えても弱い訳ないな。
『それでどうすれば良いのでしょうか?』
『何もしないでそのまま話に加われば良いよ!この能力は君が何もしないでも勝手に発動するから!多分介入して話し出せば『道真』あたりの能力が勝手に発動して『頭脳明晰』『冤罪無効』『誠実』あたりの力の影響で有利に話が進むはずだよ!』
『そうなのですか?』
何かが発動している実感は無いんだけどな。
『勇気を出して話に加わって見て』
『解りました』
言われてみれば、少し頭が冴えた気がしないでもない。
俺はテラスちゃんに勧められたから4人の会話に加わる事にした。
「理人は何も気にする必要は無い! 呼び出したのはこの国なのだ、君に対しても責任を負う必要は絶対にある筈だ!」
緑川先生は相変わらず熱いな。
「理人君、もう、こんな場所早く出て行こう! 二人なら何処ででも生きていけるよ!大丈夫だからね!私はずうっと傍に居るからね!」
「全く『無能』の癖に…あれっ? 確かにそうかも知れませんね…いや、よく考えたら我々が凄く悪いな…うん、こちらが全面的に悪い。私からも国王に言ってみるが…多分無理だと思います。まぁ期待しないで待ってくれ!」
一瞬で馬鹿にした態度が真摯な態度に変わった。
恐らくこれが、俺の能力の影響なのかも知れない。
恐らくは『誠実』が働いて俺を罵る事が出来なくなり、適当な事を言って追い出そうにも『冤罪無効』が働いてこんな会話になったのかも知れない。
俺としてはどう話を進めれば都合が良いのだろうか?
城に残った場合は…
『大河』『聖人』『塔子』にこちらから手を打てるし、この世界についても色々と勉強が出来る可能性が高い。
だが、その反面、今の俺の能力がバレる可能性は高くなる。
すぐに出て行った場合は…
何もバレないうちに出て行ける。 それが最大の魅力だ。
よく考えた末、俺は『長居をしないで1週間位の間に出ていく』取り敢えずはそう決めた。
「それなら、話し合いの結論が出るまで此処に俺は居た方が良いんじゃないですかね? ただ、これはそちらの都合で居るのですから、居る間は皆と同じ待遇を要求します」
これがベストな筈だ。
「そうですね!そうして頂けるとこちらも助かります。だが、君は『無能』だ。だから皆と同じには訓練は出来ないと思います。明日からの訓練は見学で構いませんよ」
まぁ俺の元の能力から考えたらそうだよな。
「解りました。それで何時位までに結論は出して貰えるのでしょうか? こちらとしてはそちらの都合での変更なので早急に決めて欲しいのですが!」
「それは、私では決めかねますので国王様と相談して、出来るだけ早くに結論を出させて頂きます」
不思議だ、自分が思った事が躊躇なく話せる。
「そうですか?ですが『出て行け』と言ったり『残れ』って言ったり、全てそちらの都合ですよね? 余りに判断が長引く様なら、平城さんを連れて勝手に出ていきますね!」
不思議な位強気で交渉が出来る…凄いなこの能力。
「そんな…」
「そんな…じゃありませんよ! この国は僅かなお金を渡して俺を捨てようとしたじゃないですか? そんな国に対してなんで俺が考慮しなくてはならないのでしょうか?」
マジで凄いな…この能力。
「そんなお前如きが…妥当な話ですね。確かにこの国はそういう国です…勝手な事を…いえ当たり前の事ですね。ですが私には権限がないのです。その旨は責任をもって国王様と話をさせて頂きます」
可笑しな話し方になっているのは俺の能力が効いているせいからか。
だが、結論までの期間は区切った方が良いだろう。
「1週間です。1週間過ぎて結論が出なければ、俺は平城さんを連れてこの城を出ていきます、それまでにどうするのか結論を出して下さい。無論、その内容次第で今後どうするのか、決めさせて頂きます」
「解りました」
訝し気にこちらを見ているが…知らないよ。
「平城さんもこれで良いかな?」
話し合わないで勝手に決めてしまった…
「私は理人君が良いなら、それで良いよ」
「理人、お前何だか急に大人っぽくなったな。自分の意見が言えることは素晴らしい事だ。だが『能力が無い』のに出て行って大丈夫なのか?」
確かに緑川先生の言う通りだ。
普通ならな。
「『緑川先生、この国は『無能』な俺は必要ない』そう言っているんです。平城さんが必要だからごねているだけですよ。俺はこれでも親父や爺ちゃんにしごかれていたから『まぁ此処を出てもどうにか生活は出来ると思います』 先生は平城さんと一緒に俺が揉めることなく此処を出て行けるように応援して下さい」
「そうだな…解った。私はその方向で応援すれば良いんだな」
「はい、お願いします」
こうして俺たちはもう暫くこの城に居る事になった。
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