上 下
8 / 104

第8話 話し合い

しおりを挟む


朝起きると平城さんは居なくなっていた。

多分部屋に戻ったんだろうな。

洗面をして部屋から出るといきなり兵士から声を掛けられた。

「理人殿、問題が起きた。すぐについてきて欲しい」

「何事ですか? 俺は今日の午後には此処を追い出される…せめて午前中はゆっくりさせて下さい」

「すまないが、今問題が起きているんだ、悪いと思うが頼むからついてきてくれ」

「解りました」

兵士についていくと平城さんの大きな声が廊下迄聞こえてきた。

「私と理人君は恋人同士なんです!理人君を追い出すと言うのなら私も、この城を出ていきます!」

嬉しい反面少し恥ずかしいな。

「そんな、貴方は五大ジョブの1人『大魔道』です!重要な戦力なんです!出ていかれたら困ります!」

平城さんは、魔王討伐に必要な五大ジョブの一つを貰っている。引き止めるのに必死なのも頷ける。

「待って下さい!あなた方は私達の生活の保障をする約束をした筈です。『神代』も生徒の1人!追い出すなんて私は聞いて無いですよ! もう約束を反故にすると言うのですか?」

平城さんと担任の緑川先生がお城の責任者と言い争いをしているようだ。

確かに国としては困るだろう。

緑川先生は兎も角、平城さんは五大ジョブの一つ『大魔道』魔王と戦う際に攻撃魔法を担当する、必要な戦力だ。

手放す事が出来ない大切な存在だ。

『面白いから見ていたら?』

テラスちゃんが俺にだけ聞こえる声で言ってきた。

このまま放って置いて平城さんと城を出るのも有りだが…

今の俺にはこの世界の知識が無い。

可能ならもう暫くは城に居たい。

だが、実際はもう違うが、俺の立場は『無能』どう考えても国のお偉いさんと交渉する権利はないな。

『もし関わりたいなら、関わっても大丈夫だよ! 僕、3つの能力を理人、君にあげたよね!』

『平将門』『菅原道真』『崇徳天皇』ゆかりの能力、どう考えても凄い筈だ。

三人の名前は悪霊としても都市伝説になる位有名だった。

今ではそれぞれが神様として多くの神社で祀られている。

その時に捨てた『悪霊部分』から天照の分体、眷属のテラスちゃんが作ってくれた能力。

どう考えても弱い訳ないな。

『それでどうすれば良いのでしょうか?』

『何もしないでそのまま話に加われば良いよ!この能力は君が何もしないでも勝手に発動するから!多分介入して話し出せば『道真』あたりの能力が勝手に発動して『頭脳明晰』『冤罪無効』『誠実』あたりの力の影響で有利に話が進むはずだよ!』

『そうなのですか?』

何かが発動している実感は無いんだけどな。

『勇気を出して話に加わって見て』

『解りました』

言われてみれば、少し頭が冴えた気がしないでもない。

俺はテラスちゃんに勧められたから4人の会話に加わる事にした。

「理人は何も気にする必要は無い! 呼び出したのはこの国なのだ、君に対しても責任を負う必要は絶対にある筈だ!」

緑川先生は相変わらず熱いな。

「理人君、もう、こんな場所早く出て行こう! 二人なら何処ででも生きていけるよ!大丈夫だからね!私はずうっと傍に居るからね!」

「全く『無能』の癖に…あれっ? 確かにそうかも知れませんね…いや、よく考えたら我々が凄く悪いな…うん、こちらが全面的に悪い。私からも国王に言ってみるが…多分無理だと思います。まぁ期待しないで待ってくれ!」

一瞬で馬鹿にした態度が真摯な態度に変わった。

恐らくこれが、俺の能力の影響なのかも知れない。

恐らくは『誠実』が働いて俺を罵る事が出来なくなり、適当な事を言って追い出そうにも『冤罪無効』が働いてこんな会話になったのかも知れない。

俺としてはどう話を進めれば都合が良いのだろうか?

城に残った場合は…
『大河』『聖人』『塔子』にこちらから手を打てるし、この世界についても色々と勉強が出来る可能性が高い。

だが、その反面、今の俺の能力がバレる可能性は高くなる。

すぐに出て行った場合は…

何もバレないうちに出て行ける。 それが最大の魅力だ。

よく考えた末、俺は『長居をしないで1週間位の間に出ていく』取り敢えずはそう決めた。

「それなら、話し合いの結論が出るまで此処に俺は居た方が良いんじゃないですかね? ただ、これはそちらの都合で居るのですから、居る間は皆と同じ待遇を要求します」

これがベストな筈だ。

「そうですね!そうして頂けるとこちらも助かります。だが、君は『無能』だ。だから皆と同じには訓練は出来ないと思います。明日からの訓練は見学で構いませんよ」

まぁ俺の元の能力から考えたらそうだよな。

「解りました。それで何時位までに結論は出して貰えるのでしょうか? こちらとしてはそちらの都合での変更なので早急に決めて欲しいのですが!」

「それは、私では決めかねますので国王様と相談して、出来るだけ早くに結論を出させて頂きます」

不思議だ、自分が思った事が躊躇なく話せる。

「そうですか?ですが『出て行け』と言ったり『残れ』って言ったり、全てそちらの都合ですよね? 余りに判断が長引く様なら、平城さんを連れて勝手に出ていきますね!」

不思議な位強気で交渉が出来る…凄いなこの能力。

「そんな…」

「そんな…じゃありませんよ! この国は僅かなお金を渡して俺を捨てようとしたじゃないですか? そんな国に対してなんで俺が考慮しなくてはならないのでしょうか?」

マジで凄いな…この能力。

「そんなお前如きが…妥当な話ですね。確かにこの国はそういう国です…勝手な事を…いえ当たり前の事ですね。ですが私には権限がないのです。その旨は責任をもって国王様と話をさせて頂きます」

可笑しな話し方になっているのは俺の能力が効いているせいからか。

だが、結論までの期間は区切った方が良いだろう。

「1週間です。1週間過ぎて結論が出なければ、俺は平城さんを連れてこの城を出ていきます、それまでにどうするのか結論を出して下さい。無論、その内容次第で今後どうするのか、決めさせて頂きます」

「解りました」

訝し気にこちらを見ているが…知らないよ。

「平城さんもこれで良いかな?」

話し合わないで勝手に決めてしまった…

「私は理人君が良いなら、それで良いよ」

「理人、お前何だか急に大人っぽくなったな。自分の意見が言えることは素晴らしい事だ。だが『能力が無い』のに出て行って大丈夫なのか?」

確かに緑川先生の言う通りだ。

普通ならな。

「『緑川先生、この国は『無能』な俺は必要ない』そう言っているんです。平城さんが必要だからごねているだけですよ。俺はこれでも親父や爺ちゃんにしごかれていたから『まぁ此処を出てもどうにか生活は出来ると思います』 先生は平城さんと一緒に俺が揉めることなく此処を出て行けるように応援して下さい」

「そうだな…解った。私はその方向で応援すれば良いんだな」

「はい、お願いします」

こうして俺たちはもう暫くこの城に居る事になった。


しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

処理中です...