36 / 38
第36話 最後の戦い 終
しおりを挟む城塞都市ギルメダにそのまま入った。
魔族と人族の戦争…だから冒険者証を持っているだけで警戒態勢でも入れる。
俺は門番の配置と門の構造を見た。
『これなら、内側から門番を倒せば1人でも開けられるな』
そのまま、ダラダラと街で過ごした。
スカルが攻めてきてからが勝負だ。
◆◆◆
俺が城塞都市ギルメダに来てから3日目…とうとうスカルが攻めてきた。
情報ではもう城塞の前にまで死霊の軍団が攻めてきている。
俺が居るこの場所まで、死霊の唸り声が聞こえる。
俺はあらかじめ買って置いた仮面をつけフードを深く被った。
俺はこれから、最低な事をする。
「四天王の一人スカルが攻めて来たぞーーーっ」
「大丈夫だ、此処は城塞都市ギルメダだ! 誰もこの城塞を崩す事は出来ない…門が閉まっている今、此処は絶対に安全だ」
確かにこの城塞はかなりの物だ。
実際に外には魔王軍が攻めてきているのに…皆は非難もせず普通に暮らしている。
普通に店が開かれていて、酒場には人も居る。
『いい気なもんだ』
『戦争に参加もしないクズ』
俺の前世の国ではもう戦争は無くなり平和だったが…
戦争があった時代に協力しなかった人間は非国民呼ばわりされた…そう顔も思い出せない爺さんが言っていた。
だから…利用させて貰う。
お前等の命をな…
俺は英雄じゃない…
勇者でも無い…
チートも持ってない。
だから、真面に戦えない。
だから、お前等の命を利用させて頂く。
門の傍まで来た。
「今は外に出られませんよ! 此処は安全ですが、この門の外には沢山の魔族が居ます…安全が確保されるまで門は閉鎖されます」
「悪いな…」
「貴様、何を…」
馬鹿な奴だ、こんな怪しい人間に普通に話すか?
仮面をつけているのに…
俺は門番に当身を喰らわせて気絶させた。
偽善だな。
俺が殺さなくても恐らくこの男は死ぬ。
俺は門の閂に手をあて思いっきり引いた。
沢山の死霊に押され、そのまま門は開いた。
「貴様、何をしているんだ…魔族が襲ってきているなか、門を開けるなんて」
「お前なにしているんだーーっ」
顔は見られていない。
なら逃げれば良い。
「ぐわぁぁぁぁーーーっ」
「門があいた…理由は解らぬがチャンスだ」
「人間…殺す…皆殺しだ…」
「スカル様に栄光あれ…」
続々とスカルの死霊の軍団が乗り込んできた。
もう、この勢いは止まらないだろう。
「ファイヤーソード」
俺は門が再び閉められない様に門を壊すと城塞都市への奥へ走り出した。
◆◆◆
「駄目だ…此処に入られてはもう…」
「馬鹿言うな、我らが逃げてどうする!城塞が破られた時の為の我らゴーレム部隊だ! なぎ倒してくれる」
「人間如きが我らに敵うと思うな…」
「我は死霊の騎士…」
「人間は皆殺しだ…」
「助けて…助けてくれーーっ」
「お母さん、お父さん…僕死にたくない」
「いやぁぁぁぁーーー息子を助けてーー」
「無理だ諦めろ…」
「アーシャ、アーシャーーーっ」
あちこちで悲鳴が聞こえる。
これこそが戦争だ。
今迄のお前達の生活が可笑しいんだ。
だが、謝る『ごめんな』
スカル討伐の為に…死んでくれ。
『魔王討伐こそが最優先』
これはこの世界共通の認識だ。
だから、きっと3万人が死んでも問題ないよな。
俺達のパーティは敢えて目立たない様に此処に向かってきたから…
『間に合わなかった』で済ませば良い。
俺は空歩(空を歩くスキル)を使い教会の屋根の上に居る。
3万人の人間VS 1万のスカル軍、その戦いを俺はただ見ていれば良い。
『蟲毒』
実際は違うが1か所に閉じ込められてお互いが殺しあう。
その生き残りを俺が倒せば良い。
もし、人間が勝利していても少人数なら、殺して手柄を横取りすれば問題はない。
『他人が何人死のうが痛くない』
所詮は対岸の火事。
大切なのは『身内』だけだ。
俺は…それで良いんだ。
◆◆◆
どの位時間が経っただろうか?
随分、静かになった気がする。
ふと覗くと…勝ったのはスカル達、死霊の軍団だったようだ。
あの分じゃ、この街の人間はほぼ全滅だ。
これなら、俺の悪事も漏れないな。
『死人に口なしだ』
スカルの軍団も…10人位だな。
よし…
「ファイヤーソード」
無数の炎の刃が浮かび上がり死霊たちに襲いかかる。
「アイスソード」
「貴様何者だ…我は冥界王スカル…四天王の1人である…不意打ちしか出来ぬ…卑怯者め」
「馬鹿言うなよ! お前はトラ…俺はウサギだ…その位の力差があるんだぞ…立っているだけで偉いんだぞ」
「それが解っていて何故、こんな事をしたのだ…確かにこれで我は1人だ…だが、お前にとって我はトラなのだろう?茂みに隠れていて見つからなかったウサギが何故噛みつく…放って置けば去った」
さっき迄の俺は此奴に勝つ方法が無かった。
だが、今は違う。
今の俺は究極の武器を持ったウサギだよ。
「本当は戦いたくないんだが…仕方が無いんだ…手加減してくれないか?」
「速やかに…殺してやろう…我の前に出てきたのが間違い…なんだ」
「行くぜーーーっそらやぁぁぁぁぁーーっ」
俺はある液体をスカルにぶっかけた。
「ぎゃぁぁぁぁーーっ貴様何をするかーーっ」
「この薬の名はエリクサール至高にして究極の治療薬…だがアンデッドにはこの上ない毒だ」
世界に数本しかない最高の薬…この教会の大司祭が死んだからこそ『持ち出せた』
「…」
「なんだ、話ししている間に息絶えたか」
本来なら王族にも使えないエリクサールだもんな。
アンデットの親玉でもこうなるか?
しかし、本当に舐めているよな…
これを使えば倒せるなら『勇者パーティ』に支給するなり、騎士に持たせて戦うなりしろよな。
だが、これで危機は去った。
「討伐完了―――ッ」
俺はスカルの首を持って城塞都市ギルメドを後にした。
尊い犠牲のおかげで四天王の1人を葬る事が出来た。
たった3万の犠牲で四天王に勝ったんだ…充分だよな。
これが俺達の戦いの終わり。
これでもう、戦うことは無い。
犠牲なんて関係ない…
『他人が何万死んでも痛くない』
だって只の『見知らぬ人間だからな』
大切な人間3人の方が俺には100万の命より重い。
帰ろう…大切な人の元へ…
※あと3話位でクライマックスです。
0
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説



今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた
こばやん2号
ファンタジー
とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。
気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。
しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。
そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。
※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる