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第49話 勇者SIDE 黒羽の翼 解散

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もう終わりだ…

フリージアが俺の元を去った。

小賢しい事に、俺のサインの入った離隊届けを提出したそうだ。

教会あてには

『勇者カイトでは魔王に勝てないので、私は救世の旅の道を選びます』

そういう理由書まで提出されていた。

これで実質俺の旅は終わってしまった。

幾ら俺が自惚れ屋でも…聖女抜きで魔王に勝てるとは思えない。

いや、魔国の中ですら戦えない…

最大の回復術の使い手を失った俺達は…最早、ただ強いだけの人間に等しい。

「黒羽の翼は本日をもって解散する…今迄悪かったな! 解散届けは出して置くから…もう自由にして良いよ…これ退職金だ少ないけど持っていってくれ」

「あのさあ、勇者パーティの解散って大丈夫なの?」

「後で問題になるんじゃ…」

「リヒトがくれた資料に書いてあったんだ…もし勝てないようなら『解散』して暮せってな『廃棄勇者』って制度があって二度と勇者を名乗れないが、王国で騎士爵を貰って生涯、王と国へ忠誠を誓って暮す生活だそうだ…お前達のもあるぞ…」

「本当だ、剣聖の場合はその相手が帝国なんだ…なるほどね」

「賢者はアカデミー職員か…なるほどね」

「それぞれの相手に『魔王討伐も出来ない実力しかありませんでした』そう宣言しなくちゃならない…かなり屈辱だけど、俺は受け入れようと思う」

「それじゃ、もう会えないね」

「そうだね…皆が別々の国で暮すんだから…」

「勇者パーティから落ちぶれた…そう考えるんじゃなく…只の村人が騎士やアカデミーに就職できた。そう考えたら大出世だろう」

「そうだな」

「そうね…」

「リヒトはきっとフリージアを本気で襲ったんじゃない…今ならそう思うんだ…きっと、俺達じゃ魔王に勝てない…だから多分逃げたのだと思う。そしてそれは正しい。彼奴の手の平で転がされているようで癪だが…俺達の生き方まで考えてくれていた…そう考えて俺はこれに乗る事にした。二人には強制しないけどね。此処からは好きに生きよう」

「解ったよ」

「そうね…」

こうして、勇者パーティ黒羽の翼はこの世から消えた。

◆◆◆

その後の勇者カイト達の事を知る人物は誰も居ない。

恐らく、優秀な騎士や優秀なアカデミーの職員の噂も聞かないから…活躍が出来なかった。

そう伝えられている。

歴史には『廃棄勇者』の制度を使った勇者パーティは彼等しか居なく史上最弱の勇者パーティとして語り継がれる事になる。

但し、次の勇者が生まれたのが40年後だったことから天寿をまっとうしたのだという憶測がたっている。

一時期『才能がありながら活躍できない事』を『カイト』と呼ぶようになり『カイトの様になるな』と親が叱る言葉に使われる様になっていた。

数百年後…ある歴史学者は違った意味で評価した。

「勝てないと解っているから彼らは逃げた」

それは恥ではない。

無駄死にするよりは良い筈だと…

異世界に『逃げるが勝ちという』という言葉が生まれた瞬間であった。

参考文献:ストーンヤツザン著 「勇者は死なずただ逃げるのみ」より
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