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第55話 勘違いは加速する

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「これから進言ですな」

「ええ、しかし『勇者絶対主義』を貫いている、この私が、勇者様に苦言を言う、こんな日が来るとは思いませんでしたよ」

「失言しても宜しいでしょうか?」

「この部屋には二人しかおりません…小声でなら構いません」

「では…こほんっ、あのガイアとかいうクソガキは本当に勇者なのでしょうか? 大きな手柄を上げるでもなく、精々ががオーガを狩る程度、それなのにあの、豪遊三昧…理人殿の方が余程勇者らしく見えます」

「ええっ、私にもそう見えますよ…あの粗末な恰好見ては、特に…しかも聖女様や賢者に剣聖が余程、お好きなんでしょうね…彼女達にはしっかりした身なりをさせていました、私は沢山の人間の相談に乗ってきました、理人殿の目に彼女たちの目…本当にお互いに愛しているのが解ります、三人を望んだ時に躊躇しましたが、今なら間違いなかったと言い切れます」

「ええっ、しかも先程入った冒険者ギルドの報告では、報奨金を全部ジブヤの領主に送ってしまったそうです、理人殿のパーティの方が本物の勇者に思えてなりません」

実は私は気になっていた事があります。

それは、理人殿の使った『光の翼』の事です。

勇者でも無い人間が努力で2枚とはいえ翼を出せた…それですら奇跡です。

ですが…今回の報告で14枚の翼を出したとの報告がありました。

しかも、不思議な事に、その翼はドラゴンに見えたそうです。

相手はあの四天王のデスラ…しかもその正体はドラゴンゾンビ。

その様な相手に、単独勝利をした人間等、伝説の中にも居ません。

私の中にある仮説が生まれました。

だからこそ、今回は破格値な報酬を用意したのです。


王に頭を下げ、侯爵家の正室をも手に入れ差し上げました。

幾ら、夫婦仲が悪くてもこんな事までした教皇は居ません。

婚姻を踏みにじる等、神職者なのですから行う訳ありません。

「そう見えるのは、当たり前です! 勇者ガイアは恐らくは弱い勇者です…魔王はおろか四天王にすら敗北するでしょう…余りに勇者にしてはお粗末です」

「教皇様…それではまるでガイア殿が、偽物のように思えますが…」

「いえ、間違いなく本物です、ですが魔王、下手したら四天王にすら負けるでしょう」

「それは聞き捨てなりませんぞ! 幾ら教皇様でも、言って良い事と悪い事があります」

「いいえ、事実です」

「それでは、この世はまた絶望の時代がくるのでしょうか?」

「いえ、そうはなりません…歴史の中で2度だけ『勇者を凌ぐ真の救世主』が現れ世界を救ったではないですか」

「ハァ~『女神の騎士』ですよね…あれは眉唾で嘘だったと証明された話です…信じているのは教皇様位ですよ」

私だって信じられません。

「では、ローアン、この鑑定紙を見なさい…」

「教皇様、幾ら気になっても、許可なく鑑定するのは良くないですぞ…理人殿のですね…凄いもんですね…なんですか、これ虫くいじゃないですか?」

「そうでしょう…かなり精度の高い物を使いましたが『半人※※』と伏字があります、凄いのは『竜の王族※※の加護』に『神竜※※※※※※の加護』とあります」

「それがどうか? あああっあああー――――っ」

「気が付きましたか? 女神が与える最強のジョブが『勇者』ならば…それ以上の力はどうやって与えるのでしょうか? 先代の教皇様達は、もしそんな力が宿るなら『他の神から分けて貰うしかない』そう言われていましたね…異端視されましたが」

「そうですよ、この世界は一神教…女神様の他には邪神しかいませんよ、そんな馬鹿な事は…」

「じゃぁ『神竜※※※※※※の加護』とは何でしょうか、読み取れる所に『神』とあります…これは竜の神が存在する証拠です。」

「ああっ…まさか、『半人※※』とは『半人半神』でしょうか」

「恐らくは…我々は歴史的瞬間に立ち会ってしまった…恐らくは勇者の素養が無いガイアが勇者になった為、女神様は憂いだのでしょう…そして『神竜※※※※※※』の力を借り…女神の騎士、理人殿を誕生させた…生まれた時は『魔法戦士』なので偽装していたのか、途中から与えたのかは解りませんが」

「そんな、理人殿が『女神の騎士』だったなんて、引き戻しましょう」

「ローアン、それは浅はかですよ…理人殿は平凡な日常を好まれますから、そっとしておきましょう…但し、諸国の王と10大司教には伝えます…残り9人には貴方がお伝えください」

「教皇様…知っていたんでしょう…」

「何の事ですか?」

「可笑しいと思いましたよ、そわそわしながら、秘蔵の聖剣の手入れを入念にさせ…『ドラゴンスレイヤーの勲章を用意』していましたよね…しかも強い口調で『英雄』の称号について話し合い…挙句の果てに教会の諜報機関全てに『理人殿の望まれるものを探すのです』ですからね…まぁロザリオさんの件には1枚噛ませて頂きましたから、私は文句ないですが…」


「文句が無いなら良いでしょう?」

「理由を教えておいてくださいよ『オルレアン侯爵を離婚させて、その妻を差し出させよ』なんて驚きましたよ…しかも『差し出すなら、オルレアン侯爵の母親に上級シスターの地位を与える、差し出さぬなら破門なんて…』」

「喜んで差し出したではないですか」

「そりゃぁ夫婦仲が冷え切っている状態で、その二択なら、こうするでしょう…しかも母親は中級シスターの資格が欲しくて教会に寄進する様な人物なのに『上級』ですからね」

「まぁ、そのおかげでローアンも1枚噛めたから良いでは無いですか」

「そうですね…感謝します…それでこれからどうするんですか?」


「理人殿は平凡を好まれる…このまま自由にさせてあげるのが良いであろう…物欲も無いようだし…望まれるなら何でも差し上げて、望まぬなら放っておいて差し上げるのが一番です」

「そうですね…問題は」

「ガイアじゃな」

勘違いは加速する…

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