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第三十四話 過去 『女神の愛し子』
しおりを挟む私はシャルロッテ様が言っていた事が信じられなかった。
私がロゼ派にいるのは《シャルロッテ様》が居るからだ。
アルトア家は騎士爵、貴族の位では一番下だ。
だから、何処の派閥に入ってもこき使われ見下されるだけだ。
しかも私の父は法衣貴族、領地を持たずに国から出る年金(給料)で暮らしている。
私が婚姻を結ぶにしても碌な結納金も払えない。
だから、賭けに出るしか無かった。
ロゼ...様なんて分が悪いに決まっている。
私だって家が伯爵、せめて男爵家なら、イライザ様の派閥に入るよ。
騎士爵じゃ、入れて貰えない可能性もあるし、貧乏な私じゃ入れても惨めになるだけだ。
だから、脳味噌お花畑のロゼの派閥に入るしか無かった。
後悔はしていない。
ロゼは無能だけど、この派閥にはシャルロッテ様がいる。
この方は貴族なのに商才にたけ...素晴らしい才能の持ち主だ。
しかも...同世代の貴族の令嬢では恐らく私の目から見たら一番だと思う。
きっと裏からロゼを操って、本当は...
これは口には出さないが、ロゼ派は隠れ蓑で、本当はシャルロッテ派だ。
多分、皆もそう思っている。
その証拠にマリーネ様にシレ―ネ様がいる。
これなら、まず間違いは無いだろう。
この三人が居るからこそ、私達はロゼ派に入った。
その中心にいるシャルロッテ様が...マリア様を恐れている。
信じられなかった。
私の父は法衣貴族。
お金や領地は持ってないが、王宮で勤めているから色々な情報は早く入る。
だから、私は、お父様にマリア様について聞いてみる事にした。
「お父様、今お時間宜しいでしょうか?」
「別に構わないが、お前が私の所にくるなんて珍しいな」
私のお父様はいつも忙しそうにしているから、余り話す事は少ない。
だけど、私はどうしてもマリア様の事を聞きたかった。
「実は、マリア様についてもしかしたらお父様はご存じないかと思いまして」
「マリア様ってドレーク家のマリア様の事で良いのかな?」
「はい、そのマリア様で間違いないです」
「流石はケイトだな、多分お前達の世代で、頭が一つ飛び出ているのはイライザ様とマリア様だな...特にマリア様は...まぁこの辺りは言えないが特別だ」
今、お父様が何か言おうとして止められたわ...何かあるのかしら。
「お父様、なにかマリア様にはあるのでしょうか?」
「うむ、これは、あくまで俺の考えだ、かなり主観が入っているから、ケイトは自分の頭で考えるように」
「解りました」
「実は、噂話しだが、マリア様が幼い時にマヨネーズを作ったんだ」
「マヨネーズですか?」
「そうだ、それでマリア様が『今迄に無い画期的な調味料を作った』そう騒いでいたんだ、だから、他の大人の貴族が《それは『マヨネーズ』と言う物で昔に異国から伝わった調味料だよ》そう伝えたんだ」
「それがどうしたのでしょうか?」
「解らないのか?」
「はい」
お父様の話はこうだ。
確かにマヨネーズはかなり昔からある。
だが、その製法は一流の料理人のみが知っていて、その製法は『秘伝』にしていて一般的に伝えてない。
幾ら貴族だろうが、おいそれと自分達の秘伝を教えたりしない。
それに、もし教わったのなら『秘伝のマヨネーズを作った』そういう筈だ。
それに対して『今迄に無い画期的な調味料を作った』と言う事は、誰にも教わらずに作った事になる。
「つまり、マリア様は『自力でマヨネーズを開発した』と言う事だ、それに他にもある」
「他にも?」
「いま、私の掛けている眼鏡だが『つる』があるだろう?」
「確かに...」
「元は棒がついていて、手で持っていたのだが、こうして耳に掛ければ両手がつかえる...これを考えたのはマリア様らしい」
「ですが、それは単に思いついただけじゃないですか?」
「眼鏡も使った事が無い子供が初めてみて言ったんだ...まぁ偶然かも知れないが、凄いと思うぞ」
「確かに」
そこからのお父様の考えは実に馬鹿げていた。
お父様の話では稀に女神に祝福を受けた『女神の愛し子』が生まれてくる。
そういう昔話があるらしい。
そして『女神の愛し子』は前世の記憶や別世界の記憶を断片的に持っている事もあるらしい。
「マリア様はそれ以外にも、凄い面があってな、子供なのに偶にやたら凄く大人っぽく見える事もある」
「確かに、そういう話は聞いた事があります」
「それに、最近はポルナック夫人のお茶会に出席して、その派閥に入るなんて噂もある」
「噂ですか?」
「真相は解らないが、あそこには若い女性が居なくて博識のある人物しかいない...あそこで話すには、それ相応の知識が必要だ、本を読んで語り合う、そう考えたら『難しい本を読んで、独自の解釈を言える』それが最低出来なければならない、お前にそれはできるか?」
友人同士なら出来るけど...歳を召した貴族には言える自信は無いわ。
「マリア様はそれが出来るのですね」
「それだけじゃなく、6ケタの掛け算も完璧に出来る」
「凄い...」
「まぁ『女神の愛し子』じゃなくても神童には間違いない...こんな所だ」
拷問狂で、大人の貴族と対等に話せて...信じられない知識を持った人物。
駄目じゃないかな?
こんな人を怒らせたら...大変な事になる。
ならば...そのマリア様が愛している妹を害したら...不味いかも知れない。
シャルロッテ様は...本当に上手くやれるのだろうか?
もし、失敗して怒らせたら、そんなリスクまで犯してやる事じゃないと思う。
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