1 / 2
1章:変性タイムラグ
プロローグ:変性タイムラグ
しおりを挟む
タイムラグだ、と思った。
正確に云うなら、自分は思考から行動に移すまでの所要時間が長いのだろうと思った。
切っ先を正面に構えながら、兵連司はぼんやり考えている。
“咄嗟に身体が動いた”
マスメディアや娯楽用コンテンツなどで、そのような言葉を聞いたことがある。
自分にはきっと真似できないだろう。
少なくとも、考えないと行動が出来ない自分には。
別に選択を間違えたくないから考えている、という訳でもない
結局どのような選択であれ、結果はついてきてしまうものだから。
だから、憂慮するだけ無駄だ。
そんなものは遅延時間を引き延ばすだけなのだ。
全てを刃に預けてしまえば、刹那的快楽の内にすべて終わっている。
だから―――自分がこの場において考えているのは、
懸念でも、
計算でも、
策謀でも、
期待でもなく。
向かう相手を―――斬る。
そんな、これから処理する事柄を頭に並べているだけだった。
大して身体に力を入れてない所為で死人にでもなった気分だったが、柄を握る薬指と小指の感覚は確かだった。
そもそも死人なら、自分の前に居る彼のほうがよっぽど死人歴が長そうだ。
なんせ現役みたいだし。
そこまで考えて、自分は目の前の彼が人の形を保っていないことに、気が付いた。
それじゃあ、死人ではないのか。
ならば、忘れ形見と呼ぶのが適切かもしれない。
彼もきっと置き去りにされた、何かの成れの果てなのだろう。
しかし、何かが引っかかる。
何かが自分の―――いや、僕の胸で呻いている。
何故だか、彼の事を良く知っていた様な気がするのだ。
まあ、良いだろう。斬ってしまえば結果は勝手についてくる。
彼が何であれ、何かであれ、だ。
「そんじゃ、始めよっか」
これ以上、何かについて考えたくなくて暢気に呟くフリをした。
全ては所詮、刹那の快楽に散ってしまうのだから憂慮するだけ無駄だ。
きっとこんな考えすぎる自分だからこそ、無駄に経過時間が膨張するのだろう。
「―――変性」
その時。
目の前の彼を斬った時に感じた、疼痛。
それは昔―――置いてきぼりにした何かに似ているような気がした。
正確に云うなら、自分は思考から行動に移すまでの所要時間が長いのだろうと思った。
切っ先を正面に構えながら、兵連司はぼんやり考えている。
“咄嗟に身体が動いた”
マスメディアや娯楽用コンテンツなどで、そのような言葉を聞いたことがある。
自分にはきっと真似できないだろう。
少なくとも、考えないと行動が出来ない自分には。
別に選択を間違えたくないから考えている、という訳でもない
結局どのような選択であれ、結果はついてきてしまうものだから。
だから、憂慮するだけ無駄だ。
そんなものは遅延時間を引き延ばすだけなのだ。
全てを刃に預けてしまえば、刹那的快楽の内にすべて終わっている。
だから―――自分がこの場において考えているのは、
懸念でも、
計算でも、
策謀でも、
期待でもなく。
向かう相手を―――斬る。
そんな、これから処理する事柄を頭に並べているだけだった。
大して身体に力を入れてない所為で死人にでもなった気分だったが、柄を握る薬指と小指の感覚は確かだった。
そもそも死人なら、自分の前に居る彼のほうがよっぽど死人歴が長そうだ。
なんせ現役みたいだし。
そこまで考えて、自分は目の前の彼が人の形を保っていないことに、気が付いた。
それじゃあ、死人ではないのか。
ならば、忘れ形見と呼ぶのが適切かもしれない。
彼もきっと置き去りにされた、何かの成れの果てなのだろう。
しかし、何かが引っかかる。
何かが自分の―――いや、僕の胸で呻いている。
何故だか、彼の事を良く知っていた様な気がするのだ。
まあ、良いだろう。斬ってしまえば結果は勝手についてくる。
彼が何であれ、何かであれ、だ。
「そんじゃ、始めよっか」
これ以上、何かについて考えたくなくて暢気に呟くフリをした。
全ては所詮、刹那の快楽に散ってしまうのだから憂慮するだけ無駄だ。
きっとこんな考えすぎる自分だからこそ、無駄に経過時間が膨張するのだろう。
「―――変性」
その時。
目の前の彼を斬った時に感じた、疼痛。
それは昔―――置いてきぼりにした何かに似ているような気がした。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
3日戻したその先で、私の知らない12月が来る
木立 花音
ライト文芸
三日間だけ時間を巻き戻す不思議な能力「リワインド」を使うことのできる、女子高生の煮雪侑。
侑には、リワインドではどうすることもできない幼少期の苦い思い出があった。
告白できないまま離れ離れになった初恋の人、描きかけのスケッチブック、救えなかった子猫――。
そんな侑の前に、初恋の人によく似た転校生、長谷川拓実が現れる。明るい拓実に惹かれた侑は、過去の後悔を乗り越えてから、想いを伝えることにした。
告白を決意して迎えた十二月、友人のために行ったリワインドのせいで、取返しのつかない事態が起きてしまい――!?
「第5回ライト文芸大賞」大賞受賞作。
※作品下部に、「みつなつの本棚様に作成して頂いた、作品紹介動画」と「青葉かなん様に作成して頂いた、作品PV」へのリンクがあります。ぜひご覧ください。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる