運命の分かれ道

かなた

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死神のお告げ

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生ぬるい風が頬に触れ、山中賢治は目を覚ました。

真っ暗闇の中に、賢治は何かに座っていた。暗闇の中に一人ぽつんと何かに座っていた。

いや、一人ではない。微かに光る何かがいる。

賢治は目を細めると、目を見開いた。そして死を覚悟した。なぜならその''何か''は、死神と聞いて想像する容姿そのものなのだ。夢なのか?もしかしたら、誰かが俺を恨んでそんな考えが賢治の頭の中でぐるぐると回る。賢治は思い切って聞いた。
___お前は誰だ___

と、確かに言おうとした。が、声が出なかった。すうっと空気が出るだけだった。
その刹那、死神と思わしき者はニヤリという効果音がつきそうな気味の悪い笑みを浮かべた。

ああ、死ぬのか__
そう賢治は覚悟して目を閉じた。



次に目を開けると、そこには暗闇も死神もいない、見慣れた天井があった。

夢だったのか。賢治は胸をなでおろした。だが、頬にはしっかりと風が触れた感触があった。
と考えていると、コンコンと自室のとびらが叩かれた。
「ご飯。できたわよ。」
声の主は賢治の妻、尚美だった。
「すまん。すぐにしたくする。」
尚美が扉を閉めたのをみてから、シャツに腕を通し、身支度をした。
下へ降りると、味噌汁のいい香りがした。
椅子に座り、尚美に
「今日は早く帰れると思う。

あと小夜はまだ起きてないのか?」

「そうなの。最近、運動会の練習で忙しいみたい。土曜日くらいゆっくり寝かせてあげましょう。」

「そうだな。」

もうすぐ運動会か、と賢治は思った。娘の小夜はもう小学六年生だ。小学校生活最後の運動会になる、もちろん休みはもう取ってある。早いな。と思い出に浸っていると不意にみた時計で時間がギリギリなことに気づく。
革靴を履き、バックを持って玄関のドアに手をかけた。
「行ってくる」
小夜の運動会のことを考えながら、今日もどちらかというとブラックな会社に足を向けた。
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