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28 いざ尋常に!?
しおりを挟む女性たちがさりげなく移動を始めている。立ってる位置によっては、オブジェの陰になってたりもするもんね。
私たちはステージからは女性集団の一番後ろ、つまり階段からは比較的近めのところにいた。
しかし女性たちがゆっくりと、しかし確実に寄って来てるので、私たちはなんとなく追いやられてしまい、もうバルコニーへの方が近い。
「これはラッキーな演出だね。とりあえず全員漏れなくチェックできるじゃない。
あぁ、でも駄目ね、今のところ全部駄目。ん、あの人ならまぁ……うーん。案外いないものね」
えっ、春希先生の値踏みがもうはじまっていらしゃる!?
男性は二階の扉から出ると、こちらに軽い目礼などをしてから階段を降りてくる。こちらを向きながらの人と、正面を向いて降りてくる人がいる。
進行役が立っているステージの上の大スクリーンには、そんな男性たちが映し出されており、アップやら視点移動やら多彩なカメラワークでムダに凝られている。いや、ムダじゃないんだろうけどさ。
ついついカメラどこだろってチェックしちゃう庶民気質が悲しい。
一人が階段をきっちり下り終わるまで次の人が待つものじゃなかったので、すでに10人以上が1階まで下りてきていて、階段中は5人くらいのペースだ。
ステージの方まで歩いていくのかと思いきや、バーカウンターやビュッフェテーブル前の広くとられているスペースに留まるようだ。
まじまじとは見てないけれど、全員平均以上の見た目だったと思うし、平均をはるかに超えた身なりのセレブのはずなのに、春希にかかるとにべもなく一刀両断されてしまった。
しかし私は春希を信じている。
春希が男を駄目と言ったら駄目なのだ。マジで。ガチで。
私が知る限り、春希が視てきた男の的中率は五割を超える。
残りは、現在進行形(つまりまだ別れていない)か、相談者がその人を諦めたために検証不可なだけなのである。
じゃあ何故今までそんな春希が歴代の彼氏と別れてきたかと言えば、男がいつしか必要以上に見栄を張るようになるからだ。
春希をすぐに喜ばせたいあまりなのか、身の丈に合わない車を買ったり、プレゼントを寄越してきたりするのだから凄まじい。
春希は、一念発起して上を目指して到達し、その時相応の物を贈ってくれれば心置きなくもらうのに、と嘆いている。結局無意味な見栄を張られた時点で恋心が冷めてしまい、ばいばいする羽目になっている。
その男が社会人ならまだしも大学生じゃねえ。そりゃ婚活パーティーに参加したいわけだわ。
本人は断固として、俗に言うあげまんとは違うと言うのだが、私にはよくわからない。とにかくなんという魔性の女よとしか……。
「あの人は良いわね、私のタイプではないけど。あの人も大丈夫だと思う。しゃべってみたら確実なんだけどね。でもこれでかなり絞れるから。
これだけライバルが多いと、近づくのも大変そうだもの。ピンポイントで狙っていきましょ」
でも若葉もいるから楽勝ね、と春希は笑う。
私なんかいてもいなくても同じだよ、春希のモテっぷりは凄まじいし、次から次へと目利きしていくのホントパない。
私はその春希が絞ってくれた中から、しゃべってみて決めていきたいな。
顔よりも声の第一印象を重視していきたい。
「あぁ、あの人いいわね! 私あの人行きたい、いいかしら」
「どうぞどうぞ」
身長は特別高くもなければ低くもない175くらい。わあ格好良い!って感じじゃなくて、格好良いですねって納得な大人の社会人だ。いくつだろ、私には30あたりに見えるけど。
どちらかと言えば濃い系の顔立ちをしていて、自信というか落ち着きみたいなものを持っている。たしかに春希好きそう。
よく春希は人に、もっとイケメン狙えるのにと言われがちである。本人曰く、男は顔じゃない、ゆとりだと言っている。わかるようなわからないような……。
もうかなりの男性が一階に降り立って、ビュフェ前スペースに溜まっていた。
女性陣もじわじわ中央からそちらへ近づいて行ってるので、階段を降りた先の密度が濃ゆい。
なのに女性たちの顔は、反対側にあるスクリーンや階段上も見ていたりするものだから、ちょっとしたホラーだ。
私たちはだんだんとこちらに迫ってくる女性たちから、一定の距離をとるようにゆっくり横に移動する。はじめはぎりぎり中央地帯に立ってのに、今やすっかり弾かれている。
春希のチェックが続いているからね。一通り全員が入場するまで階段上から目が離せず、階段下を気に掛けている暇はまだない。
ざわっとしたどよめきが女性陣から発せられた。
全員一斉に身じろぎしたようで、まるで波のざわめきのような音にも聞こえる。
「あれだけは絶対駄目。間違っても好きにならないように。気をつけて」
魔女を以てしてそう言わしめた男性を拝謁しようと顔を上げたら、見知った顔が視界に飛び込んできた。
あぁうん、確かにイケメンはイケメンですよね。
その人は一礼の代わりに女性陣に向かって手を振り、女性陣のきゃあっと言う可愛らしい悲鳴に満足そうにしたあと、会場全体を見下ろして私と目が合った。
あの軽薄がちな表情でふにゃっと笑われる。そしてその人は軽く後ろを振り向いてから階段に進んだ。
マジっすか。なんでいるの。ガチ参加なの? ナンパ目的なの? 魔女の諫言に思考が引きずられている。
次が最後の男性らしい。進行役のアナウンスが入る。
その人が現れたらしく、会場が一際大きくざわめいた。
私はハッとして瀬古さんから、そちらに目を向けた。
一際大きいざわめきは、ラストの男性参加者だからなのか、その人だったからなのか。
「なんで……。四ッ橋、先生……」
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