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1 某椅子デビュー
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「先生ぇっ、……っ」
『苦しいですか? 病気があったら困りますから、しっかり診なければ。我慢してくださいね』
まるでカエルのような形に座らされた椅子で、私は必死に訴えるも先生はまるで意に介さない。
ナカに入れられた指が、ゆっくりと上下する。探るように、上側の壁を小刻みにこすられて、私は不安定な椅子の上で体を跳ねさせた。
『危ないですよ、本原さん』
「やああっ、だって、先生ッ、こんなの……っ」
「こんなの? なんです? これはしこりなどがないか探しているんです」
「あっ、あっ、そんなあっ」
くちゅくちゅと先生がのぞき込んでいるところから水音が響く。
先生の頭を押しのけたくても、椅子が怖くてひじ掛けから手を離すことも、かかとを足置きから下ろすこともできない。
体に力が入って先生の指の形がはっきりわかってしまう。
『これは診察なんですよ? 真面目に受けてくれないと困りますね』
「ひあっ、あっあっあっあんっ」
くちくちくちくちと音が早まる。
『もしかして感じているんですか? 潤滑油が増えていておかしいなと思ったんですよ。これは本原さんの愛液だったんですね』
「やあっ、ちがっ……あんっ」
『これではちゃんと診察ができません。掻き出しますね』
先生は端正な顔に生真面目そうな表情を貼り付けて、私を真っすぐに見据えた。
そして私に覆いかぶさってきて、一気に私の中心を貫いた!
初めてなのに痛みなんてかけらもなく、刺し貫かれたところから脳天まで、神経を焼き切るような快感が絶え間なく走っている。
「いやぁっ、んんッ、イクッ! イクイクイクイクイクイクーーーッッッ…………」
バチーッと目が開き、自室の天井が目に入る。
心臓がバクバクしてる。体がピリピリして、汗でシャツが貼りついて不快だ。
私ったらなんという夢をー!?
今日は初めての婦人科だから緊張してこんな夢を見たの?
いやいや、予約したとこは女医さんだからー!
顔は夢で良く覚えていないけど、声はまんまdaiだった!
あーっ、daiの素顔を知らないからかもしれないけど、バンドマンとしちゃう夢とかなんなの? 欲求不満なの? 実は隠れMなの!?
そもそも私、えっちしたことないしーッ!
もう緊張して眠れないかと思ったけれど、まだようやく空がうっすら白んできたあたり。
目を閉じていて心臓が落ち着いたら、いつの間にかまた眠っていた。
そうして目覚めたときには、夢のことなんて忘れていた。
なにか良い夢を見た気がするけど覚えてないや。
もったいなかった気がするなぁ。
と、のほほんと思った。
________ ___ __ _
初経年齢。直近の月経日。月経間隔と期間。性交渉経験の有無――
問診票の項目に、盛大な溜息が出そうになって慌てて息を止めた。
ここで溜息なんてしちゃったら、周りの人から多大なる誤解を招くに決まっている。
周りをこっそり伺えば、幸せそうに見える女性ばかり。たまに付き添いの男性つき。それから母より少し年の大きそうなご婦人や、派手っぽいお姉さんもいる。その中に私。
平日午前中、婦人科個人病院の待合室のラインナップだ。
21歳にしてこの本原若葉、婦人科デビューである。
別に異性関係のネガティブな理由じゃないけど、とにかく生理痛が重い。
もう何年も痛み止めの薬を使っているのに自分に合ったものが見つかっていないし、副作用よりも痛みを止めること優先で複数錠飲んだりもする。
母に病院行けとせっつかれながらも、ごまかしごまかし今までやってきたけど、いい加減痛みをなんとかしたい。
母も昔は生理痛がひどかったと聞いてるから遺伝だとは思ってるけど、実はただの生理痛じゃなくて病気でしたとかだったら怖いし。
だから覚悟を決めてここまで来たんだけど。
だってだって、足ガッバアッて椅子に座らなきゃいけなんでしょう?!
いくら女医さんでもハードル高すぎるよ。
いっそ妊娠でもしてたら諦めもつくのに。ハイ、処女受胎だね、聖母若葉爆誕だね。
「4番の方、診察室前でお待ち下さい」
ききききききたーっ!
心臓バクバクなのをひた隠して、なんともないですよ風を装いながら歩く。
すぐに中に呼ばれた。診察室前で待っていたのが少しだったのか、緊張で一瞬に感じられてしまったのかわからない程にテンパっていた。
「どうぞ」
パソコンに向かう医師は、こちらを見ず言葉だけで椅子を勧める。マスクをしてメガネを掛けていて顔は良くわからない。わからないけど。
お、お、お、おとこ?!
なんで? このクリニックは女医の院長一人でやってるって話しだったよね、お母さん!
ビタリと足が止まった私に、医師がこちらを向いた。
「どうぞ。お掛け下さい」
ビシャアアアン! と雷に打たれたように感じた。
だってこの声は! え。そうすると、この声の持ち主に股開くの?!
「どうしました?」
座らない私に焦れてか、ようやく医師はこちらを向いた。
「え、あ、あの……、じょ、女医さんでは……」
「院長は本日学会で不在の為、臨時で僕が入っています。新規の患者さんだから案内がなかったようだ、申し訳ない。
急ぎでないようなら、予約を取り直しましょうか」
ふらりと足元がふらついた。
だってだってやっぱりこの声は!
私が小学生の時から好きなアーティストにそっくりだったから。
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